13 死亡の中にある希望
「あーなんてこった……」
俺は地面に這いつくばりながら嘆き節を唱える。
思わず目の前の土をペロリと口にしてしまう。
ぺっぺっ。マズイ……。
当然こんなもの食えるわけなかった。
「死ぬ……ああ、死ぬ……」
俺が何故こうなってしまったのか、それはかれこれ三日前に遡る。
「なんか霜みたいだなー、ゲホ」
俺は足元の炭化した木々をシャクシャク踏みつけながら歩いていた。
森へと侵入し五分ほどが経過していたが、山火事の進捗は思ったりよりも進んでいるらしく、未だに灰色の道を通っていた。
まぁ道といっても燃え散らかった木々のせいで足場はそんなに良くはない。
ところどころ燃え損ないの木なんかもあったので避けながら進まなければならなかった。
ま、ただトータルでみれば開けた平地を歩いてけばいいだけなので、普通の森よりちょっとは楽なんだろうな
それにしても俺は一体いつまで進んでいけばいいのだろう。
平地って言っても普通に木とかの原形が残ってたりして前を見通せないんだよな。
ていうか、もしかしてもしかしなくてもだけどこれ永遠に続きますとか言わないよな? 流石に終わりは来るよね? まぁ流石にな、きっと大丈夫だ。
俺は超早歩きで先を急いだ。
そしてそれから三十分ほど歩いた頃だろうか。
「あぁ、つかれた……座布団に寝転がりたい…………ん?」
前方の空に煙が立ち昇っているのが見えた。
おお、ようやく変化が見えたな、でもなんだろうあれ?
近づいてみると答えは分かり、単純に木々が盛大に燃えていた。
大火事とはこのことだろうと思うほど、かなりの範囲を凄い勢いで燃え広がっている。
何のことはない、山火事に追いついたのだ。
「すごい燃えてるな……これじゃ通れないけど」
例えるなら蚊取り線香の燃えてる部分に辿り着いた感じか。
にしても困ったな……あれ、でも思ったよりも熱くないような……
試しに近づいてみて、手をかざしてみる。
やはりそこまで熱さを感じない。
ほら今なんて思いっきり手が炙られてる距離なのに平気だぞ、ちょっと温かいかなくらいだ。
「うーん、何でだろう」
と思ったが、そう言えば似たようなことが前にもあったことを思い出した。
そう、あれは能力を使った時だ。炎を放出する時に思いっきり俺の手は燃えていたにも関わらずやけどの一つしなかった。
つまりこの炎も元々俺が生み出した炎だから熱を感じないってことか。それか俺の体自体が炎に耐性があるのか……まぁどうでもいいか。
炎は大丈夫なことがわかったので、思い切って前に進んでみると炎の中を普通に歩けた。
なんか不思議な感覚。
前がかなり見えづらいこと以外はなんの不自由も感じなかった。
ちなみに俺は今全裸なので、服が燃えるなどといった心配もない。
そして五分ほど掛けて山火事地帯を無事抜けることができた。
「ここが本来の森か……」
当然ながらそれまでの景色とはガラリと変わった。
目の前に広がるのは鬱蒼と生い茂る森だった。
単純な木々だけでなくよく分からない草木なども生えていて、混沌としてる感じだ。
うん、なんか怖い。
変な動物の鳴き声とか、ふと妙に静かになる感じとかメチャクチャ心細くなる。
でも進むしかないんだよな。
そうだ、俺は世界最強を目指してるんだ!
この程度の森くらい攻略できなくてどうする!
よし、やってやるぞ! ゴール目指して頑張るぞ!
今思えばここまではすごく順調だった。
なぜかと言えば変化があったからだ。
しかしここから続くのは本当にただの森だった。
一応前を向いてトボトボ歩いていたが、進んでいるというよりかは遭難していた。
途中までは少し変わった草花を見つけて「あっ、きれい」とか、人の顔くらいの大きさのキチキチ言ってる蜘蛛が目の前に出現したりして「ギャアアアああああ」などと叫んだりする余裕もあった。あと怖かったのは人の腕くらいある芋虫が百匹くらい密集してた岩場を見てしまった時とかだな。俺は虫が大嫌いなので変な虫が次々出てくるこの森はまさに地獄だったのだ。
しかしそんなことも今となればいい思い出。
森へと入り一日くらいが経過したころ、俺は殆ど感情をなくしていた。
いや、実際は朦朧と先を見据えて歩を進めてはいる。
だがそれは殆ど惰性によるものだった。
まず普通に飽きた。
何の変化もない森をただ歩くとかシンプルに鬱になりそうだ。
あとは普通に喉が渇いた。
あるのは本当に木か草か虫だけで、水分を補給できそうなものは何一つ現れなかった。虫だけは本当に色んな種類がいたのに。
そして普通に腹も減った。
一瞬虫を食べてみようかとも思ったが、もちろん意味がわからないのでやめた。
何で俺はこんなところにいるんだろう。
何がしたいんだ俺。
そんなことを歩きながら何回思ったことか。
だがここまで来て諦めるというのも違う気がする。
一度決めたことを辛いからという理由で簡単に放棄するような男ではないのだ。
俺は心身ともに真の世界最強を目指しているのだ。この程度のことでヘタれるなんてとんだ笑いものだろう。
俺はもう意地になっていた。
森に入ってから二日が経ち、俺は逆に疲れがなくなった。
一応休憩はちょこちょこ取ってはいたのだが、こんな場所で安眠できるはずもなく、ろくに寝ていない。
因みになぜ日数が分かるかと言えば日が沈むからだ。
この世界でも昼と夜が来て、夜は星が満天だった。
喉はとっくに乾ききり、足の感覚ももはやない。
俺の心に僅かに残っていた意地だけで俺は生きていた。
そうして三日が経ち、ついに俺は倒れた。
もう一度立ち上がる気力すらもはやない。
それは体力的な疲れのせいなのか、脱水症状によるものなのか。
すがるようにして目の前の土を食べるが、もちろん食べられるはずもない。
ぺっぺっ。マズイ……。
「死ぬ……ああ、死ぬ……」
朦朧とした涙の滲んだ目で土を見つめる。
ああ、どうして俺はこんなことになっているのか……考えれないな。何か大事なものがあった気もするけど……ああ、もう全てどうでもいいや。あー、なんだか急に眠くなってきたな。すごい長く眠れそうな気がする……もう、寝てしまおうか…………
「グルゥゥ」
そう思ったところでふと俺のいる場所に影が差した。
そこに居たのはティラノサウルスだった。