12 消臭剤の成分知りたい。やっぱりいい
「……あっ、ゲホ、死ぬかと、思っ……ゲボ!」
さ、最悪の気分だぜ……嘘だろ何で俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。いやなるほど、でも分かった、俺がこうも体調を崩した理由、それは……
「覚醒モード……これか……」
俺は世界を見渡すために太陽と通信を試みていたのだが、その途中で体がまともに動かなくなり地面へと落下してしまっていた。
そしてその理由がようやく分かった。
どういうわけかは知らないが、このモードは相当体に負荷が掛かるものだったらしい。解除したら楽になった事からも間違いないんじゃないだろうか。
ああ、本当にヤバかった、マジで死ぬかと思ったわ。いやまぁ今も大分死にそうではあるんだけど……でもさっきまでの辛さよりは百万倍マシだ。
「ああ……もう二度と使わない……げぼっ」
こんな状態になるくらいなら死んだ方がまだいい…………いや、血迷うな。俺には世界最強になるという最大の目的があるだろ、勿論分かってはいるけどさ。でもこんなことになるなら今後そう易易と使うわけにはいかないな。もう一回アレになろうと思えばなれるんだろうけど……変身することで俺自身が死んでしまっては本当に元も子もない。この力は最終手段の切り札として取っておこう。何も一生使えないというわけではないのだ。いざという時どうしようもない時に使えばいいはず。
そして適度に休憩したりしていたらかなり回復してきて、ようやく立ち上がれるようになってきた。
それでもまだキツイのには変わりないが。
「う、ああやばい……でもいつまでもこんな所にいるわけにも、げほっ、いかないからな」
何もすることがないとかならダラダラ寝て過ごすのもありかもしれない。だが俺には目的がある。
別に時間が押しているというわけでもないが、やはりできるだけ早く目的を達成するに越したことはないだろう。
「まずはここから移動しないと、な……」
ということでまずは何をするにもこの森を脱出しなければならない。
あれ? でもどうやって出れば良いんだ?
覚醒モードの時は適当に飛んでいこうくらいに思っていたんだが、当然今の俺にそんな芸当できるわけもない。炎の爆発を使えば衝撃である程度吹っ飛ぶことはできるのかもしれないが、その場合俺の体の大部分が持っていかれてしまうことだろう。それは駄目だ。
「確か、げほ、げほっ……メガネの人が道を作ってくれてるみたいなことは、言ってた、ような、げほっ」
確かあの時は見れば分かるみたいな雰囲気だったので特段道について詳しく詰めることはしなかった。
だが今はどうだろう。
見える範囲の木々の大半は焼け焦げて原形とは程遠い感じになっている。
こんなことでその道とやらを見つけられるとは到底思えない……。
それでも一応何か手がかりがあるかもしれないので、平地と森の境目だったであろう付近をよちよちぐるりと一周してみた。
二十分ほど掛かった。
しかしやはり何も手がかりはなかった。
「うぅ、やっぱ消えちゃってるよな……」
まだ山火事になっていない場所より向こう側なら道は残っているかもしれない。
しかしここからは距離的に大分離れてしまっている。探すとなれば今の平地より相当な時間がかかってしまいそうだ。
「もう一方向に突っ切ってしまった方が、げほっ、早いんじゃないか……?」
というかそうするより他はない気がする。
先程上空に飛んだ際に見下ろした感じだと、特段森の切れ目みたいなのは発見出来なかった為かなり絶望的な作戦な気もしたが気の所為ということにしておいた。
ということで俺は適当な目星を付けて森へと侵入した。
サクサクと焼けて炭っぽくなった木や枝を踏みつけ進んでいく。
「なんか臭いな……げほっ」
焼け焦げた匂いが鼻をつくが鼻栓を用意していないので防ぐことができない。
それにしても結構体調も回復してきた気がするぞ……でも悪いのもそれはそれで嬉しかったんだよな。神様とお揃いって感じで。あの時の神様も死にかけで相当に具合が悪そうだった。ああ、神様もこんなに苦しい気分だったのかな。今だったら俺にも分かるよ神様。一緒に体調の悪さについて語り合いたかったな。
そう言えば神様が恋人ととか覚醒モードの俺が抜かしていた気がするが、今となってはそうはあんまり思わないんだよな……勿論恩人ではあるし大切な人ということに変わりはないけど。あのモードの俺と今の俺とで性格が違うのだろうか。記憶はあるがどうも感覚が一致しない。となればますますアレにはなりたくないな……まぁいざという時は頼らないといけないんだろうな。ああ憂鬱ですわ。
そんなことを呑気に考えながら歩いていた俺だったが、ここは俺が見積もっていた以上に深い森だった。
そもそも上空から見た時に気づいていたのに知らないフリをしたのがいけなかった。
あの時ならまだ山火事が広がる前に付近を探索して脱出できる道とやらを探すこともできたはず。
この時の俺は完全に舐めていたのだ。
こうして俺の森でのサバイバル生活が始まった。