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ルビルと別れ、討伐に向かったクロードは、もみじを頬につけたまま、陣頭指揮をトラウマなどないかのような表情でやりとげたと聞いた。
聞いたと言うのは、あの後クロードが討伐を終えて帰ってくる前に、王都から兄が迎えに来たため帰ったからだった。
後日には、冷やさなかった事で、薄らともみじを頬に残したままのクロードが、王都に帰ったルビルをおいかけてやってきた。
しかし、未だ根に持っている兄達に嫌われ、ルビルには近寄らせてももらえずにいる。
「久々に会ったと思えば、あいつはなんだ!ふざけてる!」
「あの長髪みると、虫唾が走る!今回は絶対に切ってやる!」
「うちの妹に会わせろだなんてとんでもない!」
「あいかわらず、ふざけた奴だ!絶対に阻止する!」
「・・・・・・・・・」
過去にクロードに騙されたルビルの兄達は、わざわざ辺境からルビルに会いに来たクロードに不満をもらしていた。上から3番目、4番目、5番目、6番目の兄である。
2番目の兄はただただ眉間に皺をよせて腕組みをして、こちらを無言でみていた。
因みに騙されたのは、1番上の兄を除く皆んなだそうだ・・・。確か騙された歳はクロードが12歳の歳の時だったらしいので、兄達は17.14.11.9歳だ。
3番目と4番目の兄は双子で、互いにクロードの取り合いの喧嘩までしたらしかったので、騙されて喧嘩までして、相当根に持っているようだった。
だが、辺境に迎えに来たのは、1番ルビルを妹として大切にしてくれる、過保護ぶりが強い1番上の兄だ。
過保護なため、数日の滞在も心配だからと迎えにきたらしく、丁度騒動もあり危険だからと連れ帰られのだ。
「兄様達、私の部屋でいつまでも五月蝿いですよ・・・。しずかにできないなら出て行って下さい」
ルビルは先程からの兄達のうるささに嫌気がさしていた。
「だがアイツは、この屋敷にいるんだ。お前に何かあったらどうするんだ」
「そうだぞ!あいつは今や女ったらしじゃないか。お前まで餌食にされたらと心配なんだ」
「昔は女の格好をして、男をたぶらかしてたのにな」
昔の事を根に持っている発言が垣間見える。兄達はルビルに自分達の失態が知られていないと思っているようだ・・・。
それに、兄達のいうように、クロードは今、この屋敷に滞在している。滞在許可を出したのはルビルの母で、クロードは母への礼儀を熟知しており、やすやすと滞在許可をもらったようだ。
母もルビルの事を一人娘として可愛いがってくれ、大事にしていたので、兄達は母が許可した事に驚き、憤慨していた。
「母上が許可したんだ。あいつが粗相しない限り覆らないさ」
2番目の兄がやっと口を開く。
「そうだな・・・。どうしてやろうか」
兄達は皆んなで相談をし始めた。だが、ここはルビルの部屋なので、するなら別でやってほしいとうんざりしながら思う。
コンコン
ルビルは嫌気がさして、自分が出て行こうか考えていると部屋をノックして母が部屋へ入ってきた。
「貴方達・・・妹の部屋で何を騒いでいるの。さっさと出ていきなさい」
兄たちを見る、母の表情は険しかった。兄であろうと女性の部屋だ・・・母はこういう事には厳しい。
「母上!ルビルが心配なのです!」
「そうです!一人でいると危険です!」
「母上が招き入れた者がッ」
「黙りなさいッ!」
母は兄達の発言を一喝し黙らせた。この家で1番強い地位にいるのは母だ。辺境伯で育った母は、剣術にも長けており強さも1番なのだ。因みに父は正反対の温厚な性格をしている。
「ルビィ、ちょっといらっしゃい。貴方に話があるの、一緒にお茶にしましょう」
母は、にっこりとルビルには柔らかく微笑んだ。兄達に向けていた鋭い牙は幻覚だったようにだ。
「・・・はい」
逃げたくはなったが、母に逆らうほど愚かではない。それにルビルにはいつも優しい母だったから、兄達といるよりは疲れないし、母に付いて行く事にした。
兄達を置いて、母についていくと庭に案内される。お茶をするために既に準備がされていて、テーブルを囲むイスが3つ用意してあった。その一つの席には、ルビルの知らない金髪の綺麗な女性が座っていた。
彼女はルビルの姿を見て、にっこりと優しげで綺麗な笑みを向けてくる。母が席に付き、ルビルも促されるままに座った。
目の前の女性は何を言うわけでもなく、ルビルに視線をむけてきている。母の客人だろうかとルビルは考え、挨拶をしなくてはと声をかけようとした。
「ルビィ、この方をどう思う?」
ルビルが声をかけるより先に、母がルビルに声をかけてきた。
「え?どう、ですか?えっと・・・・・・綺麗な方だと思いますけど」
母の質問の意図はわからなかったが、ルビルの返答に母はニコニコとしている。機嫌がよいようだ・・・。
「この方と婚約を考えているんだけど・・・貴方はどう思う?」
母は婚約を考えているのだと言った。兄の婚約者にだろうが・・・。綺麗な方で、若い頃の母の似ている気がした。兄が好きそうな長い髪で、こちらを見る目が優しい。
何故ルビルに意見をもとめてきたのか、母の考えはわからない。婚約する当事者である兄に直接聞けばいいのにと不思議に思った。
妹である自分が認めないといけない決まりが、いつの間にかできてでもいたのだろうか・・・。それとも義理の姉になるのだから、ルビルが気にいる人でと思っているのだろうか・・・。
確かに幼い頃母に、兄ではなく姉を欲しがった記憶はあったはずだが、兄の婚約者をそんな感じで決めていいのかと考えてしまった。
「私はいいと思いますが・・・婚約自体は、お母様とお兄様が決めるのが1番かと・・・」
義理の姉になるのが、優しい目をして微笑むような綺麗な人ならルビル的には嬉しいが、やはり当事者が最終的には決めるべきだと思った。
「貴方が賛成でよかったわ。勿論反断はあの子達にもしてもらうつもりよ。じゃないと五月蝿いですからね」
どの兄の婚約者にするつもりなのだろうか・・・。1番上の兄には既に婚約者がいるため、順番にいけば2番目の兄なのだろうが・・・。
「あらあら・・・早速五月蝿い輩が来たようだわ」
母が視線を向ける方には、兄達が凄い剣幕で此方にむかってきているのだった。