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クロードに街を案内してもらい、充分にルビルは楽しんでいた。王都と辺境の違いを、お店を回りながらクロードは、ルビルに説明してくれる。
意外にも博識な彼には内心驚きっぱなしだ・・・。やはり、見た目で判断はよろしくないのだと思わされた。それはルビル自身にも言えた事でもある。
ルビルの見た目は、いかにも武術が強いのだなという感じではない・・・。どちらかと言えば、女性らしく可愛らしい感じで守られる側のタイプだ。加護欲がそそられるらしいのだが、もちろん黙っていればの話になる。
それに、鍛えているからかプロポーションは保っており、周りの目をひいてしまうのは理解していた。だからか、そういう目には敏感になり、敵意を剥き出しに睨んでしまう事もしばしばで、夜会にあまり参加しなくなっていた。
婚約者でもいれば、その視線から守ってくれるのであろうが、ルビルは守ってもらわないといけないほどか弱くはない。令嬢達に蔑まれたとしても、気にはしていなかった。むしろ情報をくれる身内がいるから、直接ルビルを蔑みにきた者は言い負かしていたほどだった。
クロードは見た目は優しい印象を受け、気怠げな感じはやる気のなさを思わせた。けれど服に隠されている鍛えあげられた肉体は隠しきれず、きちんと鍛錬をしているのだとわかった。
叔父様はあの時サボったのかと言っていた所をみると、前科はあるのだろうが、やる時はやるタイプなのだろう・・・。
「クロード様ッ」
そろそろ夕方になるあたりで、家令が彼の元に何か伝えにやってきた。何やら慌てている様子からして急ぎなのだろう・・・彼の表情が険しく変わっていた。
「それは・・・父上に指示を受けた方がいいのではないのか?」
何やらクロードは渋っている様子だ。
「ライナス様は既に、はじめに出現した場所に出向かれているため連絡は直ぐにはつきませんッ。急ぎ対処しなければ間に合わないのです」
家令は声を張り上げてまで彼に訴えかけている。何かはわからないが急いだ方が良いのだろう事は、家令の切迫ぶりからも伺えた。
「何を渋っているの?叔父様がいない時は、息子である貴方が行動するしかないと思うけれど・・・判断できないような内容なの?」
ルビルは一応、姪でもあるので口を挟ませてもらうことにした。
「・・・ハルピュイアが出たらしいんだ」
彼の表情はさえず、顔色は何故か悪いようだ。
「ハーピーの事?それがどうして渋る原因なの?」
確か頭と胸が女人で、あとは鳥の姿だったはずだが・・・。何が問題なのだろうか?
「俺は・・・ハルピュイアにトラウマがあってね・・・あまり姿を見たくもないんだ」
トラウマか・・・。どんなトラウマかは知らないが、やはり指示くらいはしなくてはならない。彼は次期辺境伯なのだから。
「だとしても、叔父様がいないのであれば仕方がないわ」
「・・・・・・ああ」
やはり、先程の彼とは違い、かなり弱々しくて別人に見えた。
「既に被害が出ております故、こちらも早急に対処しなければ被害にあう者が増えてしまいます」
家令は必死に彼に訴える。
「また、あの悍ましい魔物を見ないといけないとはな・・・」
クロードの口調は、本当に嫌なようだ。
「男なら女性の胸が曝け出されてるんだから、見たって問題ないんじゃないの?顔だって綺麗だったり可愛い顔なんでしょ?」
ルビルは実際に見た事はないが、普通男目線ではそうなのではないかと口にしてみた。
「見た目だけならな・・・だが、奴らはそうして男を引きつけて油断させ、自分の巣に男を持ち帰るんだ。現れたという事は繁殖時期なんだろう・・・ハルピュイアはメスだけしか生まれない。だから人族の男を持ち帰るんだ。用がなくなれば食われる・・・そこで初めて本当の魔物としての顔に戻る。俺は被害には合わなかったが、その顔を幼い頃に見たものだから・・・アイツらを見ただけで気分が悪くなるんだ」
彼は幼い頃に持ち替えられたのだろう・・・彼がもつトラウマを理解した。
「でも・・・女性を抱けるんでしょ?」
ルビルは女性慣れしている彼が、経験がないとは思えなかった。
「・・・まあ。それが唯一の救いだね。一時期は女性も同じに見えたが、その時をのりこえられたのは母上のおかげだ」
何が救いだ・・・。まあ彼の子を成す機能は、あるみたいでよかったが・・・ならば何も問題はないではないかとルビルは思った。
「なら問題ないじゃない。気分が悪くなるなら、その原因を叩き潰せばいいわ。その現況を消せば気分も悪くならなくなるわよ。それでも気分が悪いなら、魅力的な女の人の裸でも思い浮かべて比べてやったらいいわ」
ルビルはトラウマの荒療治ではあるが、あえて向き合い、その感情を敵にぶつければいいと思った。
気分が悪くなるなら、気分がよくなる別の事を思い浮かべればいいだけだとも助言した・・・。
「・・・・・・・それはまた、積極的だね」
クロードはルビルの発言に面食らったような顔をして、ルビルを見た。
「・・・そう?」
何かおかしな事でも言っただろうかと、ルビルはクロードの反応に素気なく返事をする。
「・・・気づかないのかな?俺にとって魅力的なのは、今は君だけなんだけど」
「あら・・・そう」
ルビルは魅力的と言われ、悪い気はしない。
「わかってない返事だね。君が言い出したんだから、ちゃんと協力してもらうよ」
クロードは先程までの表情を変えて、やる気になっている様子だった。
「まあ・・・討伐はしたことないけど、できる事は力になるわよ?多分物理的にも力になれると思うし」
「・・・なら、協力をお願いしようかな。君が言い出した事だしね」
クロードは家令に、自分の隊に討伐準備をするよう指示をだしていた。