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ルビルの目的ではなかったにしろ、本日の予定であった見合いは終わった。見合い相手達が帰ってしまったので、残るは彼だけなのだが、彼はこの屋敷が帰る場所であるためいなくなる事はなかった。
「見つかってしまったからには、仕方がないが・・・嫁にするにしてもルビィの返事次第だ」
叔父は彼に無理強いだけはするなとクギをさしてくれ、滞在したければ暫くこの屋敷に居てもよいと言ってくれた。
せっかく辺境へ来たし、ルビルはもちろん数日は滞在する気だった。叔父へ数日は滞在する事を伝えて、ルビルは夕食まで一旦部屋へ戻る事にした。
・・・戻る事にしたが、何故か例の彼はルビルの後ろをついてくる。
「・・・ついてきても部屋には入れませんからね」
またへんな事をされたら嫌なので、絶対に部屋へはいれない。
「わかってるよ。俺が送りたいだけだから」
そういいながら彼はニコニコとしていた。彼は間違いなくイケメンなのだが、ルビルは彼の表情が似非臭く見えてしまって信用など出来なかった。たとえ、いとこ同士だと素性がわかったとしてもだ。
「送られているんじゃなく、だだのストーカーだとしか思えませんけどね」
「それで、君は明日どこかに出かけたりするの?」
彼はスルリと話を変えて質問してきた。明日は街に行こうと考えていたが、もしかして・・・自分も一緒に行くとかいうつもりだろうかとルビルは警戒した。
「・・・貴方には関係ないです」
ここはあえてはぐらかしておく。
「そっか、この辺は荒い者達が多いし、冒険者も出入りしているから、あまり可愛い格好で出歩かない方がいいかもね」
彼はルビルが出歩くと予想し発言してきた。てっきり、最初の狂ったような発言から、ついていくというかと思ったが、意外にも何も言われず拍子抜けしてしまった。
・・・あまりずかずかとは干渉はしてこないようだ。思ったより変な執着ではないようで少し安心した。
そんなこんなで翌日に、簡素な服でこっそり一人で街へ繰り出したのだが・・・昨日の判断を撤回する事態がおきた。
彼は領地の見回りだと言って、偶然を装い、ことごとくルビルの前に現れたのだ。だが、折角だし一緒に行こうと言いだすことなく去っては現れを繰り返していた。
この攻撃はなんなのだろうか・・・。偶然が続けば運命だと言いだすのではないかと疑ってしまう。それくらいルビルにとって彼は信用ならないのだ。
偶然を装い現れて、また居なくなったのだが、彼が現れる比率と同様に、彼が去った後には何故か、街を案内するよと声をかけられていた。それにも彼同様断るを繰り返していたのだが、彼の様にどこにでもしつこい男はいるようで、4人目にもなると彼みたいなチャラい感じの人に手を掴まれてしまう。
「いきなり女性の手を握るなんて失礼ですッ」
これは、ここにきて2度目のぶっとばす良い案件だろうか。ルビルは拳を握りしめた。彼の出方でルビルの行動は決まる・・・。
だが、手を掴んだ相手よりも先に、背後から声がかかった。
「・・・なんだろうね・・・君の手を握っているこのチャラい奴わ」
自分も十分同類だと、悪態をつきたくなったが、彼は直ぐに相手の手を捻り上げて、手を離させると、ルビルを自分の背後に庇うように間に入ってきた。
「辺境と王都では、服の色の使い方も違うから、服装を簡素にしたつもりでも、都会から来たとすぐにわかってしまうよ」
ルビルは自分の服を見て、おちついた色にしたつもりだが、それでもダメだったようだ。
「君に、この藤の色は似合っているんだけど・・・こちらでは、ほとんど見ない色だから、色が落ち着いていても目立っているよ」
彼はルビルの考えていたことを指摘し、ルビルは羞恥で顔を赤らめた。
「・・・そんな事を言うために現れたんですか?」
指摘されてルビルは居た堪れず言い返す。
「さすがに、君が知らない男に触れられたのを見たら、見過ごせなくてね・・・我慢できないのは仕方ないだろ」
「・・・」
自分だって、昨日までは知らない人だったではないかと内心悪態をつく。
「これじゃいつまでたっても、街を回れないね・・・仕方ないから俺が男避けをしてあげるよ」
彼は絡んで来た男をさっさと追い払い、やはりルビルについてくると言った。しかし彼がついてくるなら男避けにはなっていない。彼も男なのだから・・・。
それに男ではなく女が寄ってきて、さらに面倒になりそうだなと思った。
「何かな?その顔は・・・んー面倒くさそうな顔かな?」
かなり表情に出ていたようで、表情をよまれてしまった。
「・・・貴方がいたら男じゃなく、女が寄って来そうで面倒くさいかと思っている顔です」
ルビルは開き直った。
「あははッ、正解だったね。大丈夫、そうなってもちゃんと優先してエスコートするから」
彼はルビルの返事を軽く交わして切り替えてくる。やはりというか、彼は謙遜なんてしなかった。
「それから、俺はクロードだよ。名前でよんでくれたら嬉しいな」
「・・・呼びません」
数日したら、王都へ帰るのだ。もう会うこともない。なのに何故彼を喜ばさせないといけないのかと思った。
「呼んでくれないと、俺の名を呼ぶまで口付けようかな」
彼はルビルに近づき、耳元で告げてきた。
「ッ」
ルビルは瞬時に彼から距離をとって身構えた。警戒しているつもりでも、彼はルビルの側に簡単にきてしまう。
「・・・そんなに警戒して、可愛いな・・・・・・わかったよ、そう睨まないで。無理にはしないって約束するから、一回だけでも名前を呼んでもらえないかな?」
「・・・」
彼が何を考えているのか、本当にわからない。彼の言う約束など守るか怪しいものだ。
「ね?」
だが、彼は名を言わなければ、しつこいだろう。それにイケメンの眼差しは強烈で、無視をし続けるのは困難だった。
「・・・・・・クロード」
ルビルは仕方なく一度だけ彼の名を呼んだ。もちろんはっきりとではなく小さい声でだ。
「ッ」
ルビルが名を呼んだだけで、彼はあの時とおなじ惚けたような顔を見せた。
そして、名を呼ばれたからか、彼は機嫌よくルビルの手を優しく包み込むようにして握ると、街を案内するため手を引いてきた。顔が広いのか、至るところで声をかけられるのだが、意外なのは声がかかるのは女の子だけではなく、老若男女だったことだ。
案の定、女性達からは嫉妬のような視線は向けられたが、彼はきちんと言った通り、ルビルを優先してエスコートしてくれ、彼自信がルビルを不快にさせる事もなく、至れり尽くせりで不思議な感覚になる。
ルビルは、噂が出回ってしまってから、このように男の人にエスコートはされた記憶はないため、なんだかデートみたいだなと他人事のように感じていたのだった。