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 彼の甘くも、ルビルを子供扱いする態度に、いつの間にか怒りは収まってしまっていた。もともと白黒はっきりつけたり、うじうじ悩まない性格だったのもあり、怒りも長くは続かないのだ。



「それより、いいかげん離してください。とりあえず逃げはしませんし話しも聞きますから」

 ルビルが逃げないと言ったので、抱擁からは解放されたのだが手だけはどうしても離してもらえなかった。



「これは、逃げる心配をしているんじゃなくて、周りに集まってきた男達に牽制しているんだよ」

 と、ルビルには柔らかい笑みをむけ言った。ルビルが叫んだからか、いつの間にか少し離れた辺りに、今日見合いをした令息達がいて、何故か意気消沈しているみたいだった。



「せっかく集まった彼らには悪いけど、君を誰にも渡したくないんだ。だから彼らには断りをいれてね」

 彼はルビルの耳元で囁いた。



 彼はルビルの事を、叔父様が密かに招いた自分の婚約者候補だと思っていて、あのように相性を確かめようとしたようだった。その誤解をただすため、叔父が今日はルビルの見合いのために彼らが集まっているのだと先程説明をしてくれた。



「貴方の言うことを聞く必要はないんだけど」  

 ルビルは、真っ直ぐに言葉をぶつけてくる彼に戸惑いを隠しながら、そっけない態度をつらぬく。



「聞く必要はないけど、父上や君は見る目がないようだから忠告だけはしておくよ。あそこの彼は彼女がいたはずだし、隣のは彼は博打好きで借金がある。その隣はマザコンだし、その隣も性癖に問題があるから、やめた方がいい」

 彼はルビルにこっそりと、彼らの情報を教えてくれた。それが本当かはわからないが、たしかに事前に自分が調べる必要はあるなと思った。



「だから、彼らより貴方を選べと?」

 


「選んでもらいたいなとは思うよ。俺は彼らよりいい物件だと思うしね。顔もいいし、身体も鍛えて強いし、性格もよくて、何より君に対して愛があるよ」

 彼は自然にルビルの握っている手に口付けてくる。



「自分で全てをよしというあたり・・・ちょっと自意識過剰な性格だと思いますけどね」

 彼の言うことは確かに好条件ではあるのだが、先程の手の早さを思い出すと戸惑われる。だが何故か手は振り払えない。




「君は素直で、飾らない性格が本当に可愛らしいね」

 彼はまた、ルビルを褒めながら、頬を撫でてくる。



「もうッ、そういうのはやめて頂戴」

 ルビルは、褒められ慣れていないので、顔が赤くなるのがわかり顔を背けた。



「仲が良いみたいだが、もうそれくらいにして部屋で話をするぞ」

 気づいた時には、叔父がやれやれといった風にため息を付き、部屋へ入るように促した。



 彼に翻弄されて周りが見えなくなっていたようで、いつの間にか周りにいた彼らが、いなくなっているのに気づかず、ただただ恥ずかしくなった。



 

 叔父の執務室に入ってから、ソファに座ったが隣には彼が当然のように座ってくる。そして自然に手は繋がれたままだ。




「それで、クロード。本気でルビィを嫁にする気か」

 叔父が彼に睨みをきかせながら話しかける。



「そう言っているでしょう。俺は本気です」



「お前達はいとこ同士でもあるが、結婚はできないわけでもない。だが、お前が相手ならルビィの兄達は反対すると思うぞ」

 何故か、ルビルは一言も承諾などしていないのに、結婚する話がすすみだしてしまっている。



「まあ、俺は嫌われてるみたいですからね」

 彼は何故か肩をすくめ、ルビルの兄達に嫌われていると言った。



「お前が嫌われているのは、お前がふざけた格好で接したからだろうが・・・」



「ちょっとした悪戯だったのに。アレは思い出しても、面白かったかな。皆んな騙されてチヤホヤしてくるんだから・・・ネタばらしの後は口をきいてももらえなくなったけどね」



「何をしたんですか?」

 兄達から嫌われるほどとは、何をしたのだろうか。



「小さい頃、そっちの屋敷に遊びに行った事があるんだ。俺は母に似て幼い時は、男ながらに可愛いかったから、悪戯のつもりでドレスを着て行ったんだ。そしたら君の兄達にチヤホヤされてね。すっかり女の子と思われて取り合いになるくらいだったんだ。でも最後にネタばらししたらショックだったのか羞恥がまさったのか、無視されたり、怒って闘いを挑まれちゃってね。まぁそれでもドレス姿でコテンパンにしたからか、嫌われてるんだよ。そんなに根に持たなくてもいいのにね」

 なるほど・・・兄達には屈辱だったのだろう。



「ルビィが武術に入れ込むようになったのは、お前が原因でもあるんだぞ」



「ん?そういえば勝負の後に、カッコよかったって女の子に褒めてもらった気がするけど・・・。もしかして、彼女が俺の好みの子なのって・・・俺のため」

 彼は何故かふざけた事を言った。



「本人はただ強い女性と思ったお前に憧れただけだろうがな・・・」



 確かにルビルが、女性の戦う姿を見てカッコいいと思ったのが武術にのめり込むキッカケだった気はするが、その女性が誰かまでは幼かったからか覚えてはいなかった。ただ金髪だったかもくらいしか思い出せない。




「君は俺を見て強い女性を目指したってことか。奇しくもそれは辺境の妻の条件に当てはまり、今や性格や容姿は俺好みなんて・・・俺の嫁になるためのようじゃないか」

 勘違いも甚だしい。幼い頃のきっかけが彼だったのかもしれないが、次期辺境伯の彼の妻になるためでは断じてなかった。



「別に貴方のためじゃなくたまたまですし、きっかけだとしても、その条件は辺境領の妻ならば、貴方だけが該当するわけではないわ・・・。先程の彼らだって私を妻として求めてはくれていたわけですしね」



「でも、愛があるのは、あの中で俺だけだったかもしれないよ?君が愛のない結婚でいいなら話は別になるけどね」

 ルビル的にはやはり愛は必要派だ。だか、彼に言い負かされる感じは、先程の事もあり納得はしたくなかった。



「・・・」


「無理強いはするな・・・ルビィは嫌がっているだろう」



「そうですか?ただ、恥ずかしがっているだけですよ。彼女はシャイで天邪鬼のようですからね。ただただ可愛らしい・・・。いくら父上が彼女を心配したとしても、父上より俺の妻の条件には愛があるのでマシだと思いますけどね。貴方が過去提示した条件は最低だと思います」

 そういえば、叔父の最低発言は母から聞いた事があったと思い出す・・・。確か婚約候補の女性に、妻の条件として叔父は魔物の対処と、跡取りさえ産んでくれれば、愛人を持とうが、何をしようがいいと言ったと聞いた事があった。



 叔父はルビルにとって、かっこよくて頼りになる叔父であったが夫にするなら、確かに自分は遠慮したいと思う。

 叔父は愛は必要ないと言ったが、ルビルは絶対に必要だと思っている。ルビルの両親が愛ある夫婦生活を送っていたため、ルビルも結婚してもお互いに思いあえる人が理想だった。



 叔父と彼を見くらべ強い女性を求めるのは遺伝なのかと思うのだった・・・。








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