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部屋を出て真っ直ぐに、迷いなく叔父がいる執務室へ向かっているのだが、後ろからは早くも復活した彼が追いかけてきた。
「ちょっと待ってくれ!逃げないで、話をしよう!」
彼はかなり頑丈なようだった・・・。あんな事をされて待ってくれと言われ、待つやつはいないと思う。
ルビルにぶっ飛ばされて、意識を失ったのに復活が早い彼は、ルビルにとって、イケメンといえど化け物に見えた。
「待つわけないでしょッ!話も結構ッ!追いかけて来ないで!」
ルビルが全力でぶっ飛ばしたのに、すぐに意識を取り戻すのはおかしい・・・・・・。それだけ彼が頑丈なのだろうが、ルビルは自分の攻撃が効かない相手に恐怖した。
だが彼の足が速いのか、尺の問題か、あっというまに追いつかれルビルは執務室の手前で捕まってしまう。
ルビルはドレスのため逃げるには限界があるとは思ったが、まさか叔父のところにたどり着けないとは思っていなかった。
「捕まえた・・・君は随分足が速いんだな」
彼は先程と同じ表情でルビルを見てくる。速いんだなと言うわりに追いつかれているため、褒め言葉なのだろうが全然嬉しくもなかった。
「触るな!抱きしめるな!」
捕まえたと言った彼は、ルビルを逃さないようにしっかりと抱きしめてきている。ルビルは身を守るため、抵抗し殴る蹴ると反撃をしながら、口調が乱れた。彼は殴られても、何故か痛みがご褒美のように笑っていて、ルビルを苛立たせる。
「助けてー!叔父様ーーッ」
叔父の執務室はすぐそこだ。叫べば聞こえると思い助けを求めた。
「叔父様?」
彼はいきなりルビルが叫んだのか驚いた顔をした。本来令嬢は叫んだりはしない。だがルビルは他の令嬢とは違うのだ・・・周りなど気にはしない。いまさらどう思われようとどうでもいいのだ。
彼は驚いた顔をしはしたが、ルビルを抱きしめたまま何故か叔父の執務室のドアを見やった。
「騒がしいな、ルビィ・・・何を」
叔父は何を騒いでいるんだと言い、部屋から出てきてくれた。そして、ルビルが抱きしめられているのを見て、叔父は怪訝な顔を向けてきた。
何故そんな顔をこちらに向けられるのかわからず、ルビルは困ってしまう。だが今は自分の身の安全が大事だ。
「叔父様助けてッ、この人話が通じないの」
ルビルは彼の腕の中から抜け出そうと、必死にもがき続けた。
「クロード、離してやれ」
叔父はルビルも知らない彼の名を呼んだ。
「・・・なぜですか?まぁ、嫌ですけど」
彼が何者かはしらないが、辺境伯である叔父に拒否をした。
拒否した事で、叔父の表情はきつくなり、何故か2人の視線が混じり合って、バチバチと火花が散っている光景が見えた。睨み合う仲なのかと、ルビルは現状が理解できず困惑する。
「俺、この子気に入ったんで、嫁にしようと思います」
ルビルをいまだに離さない彼は、叔父へルビルを嫁にすると宣言してきた。
「はぁ?何をッ、絶ッ対お断り!それにッ、私が嫁ぐ場所は私が決めるの!貴方は候補なだけで、貴方の希望は関係ないんだからッ」
「ん?君は俺の嫁候補なんだろう?」
「違います!貴方が私の婚約者候補なだけです」
抱きしめられながらも、きっちり否定しておく。
「??・・・意味がよくわからないんだけど」
こっちが意味わからないわッと思いながら、叔父へ助けてもらいたくて視線をむけた。
「クロード・・・お前には、今日ワイバーンの討伐を指揮するように言いつけていた筈だが?何今ここにいるんだ」
叔父はルビルを助ける事なく、何故か話題を変えた。
「なんでって、終わったからに決まっているでしょう?」
彼は叔父に向かってやれやれと、わざとため息をついて見せた。
「だいぶ数がいると報告を受けていたから、こんなに早く帰るはずはない・・・サボったのか?」
叔父は感情を出さずに問いかけてくる。
「指揮だけでなく、俺も参加したんですよ、討伐に。なんでも、父上が、かわいいお嬢さんを屋敷に呼ぶって情報が入ったもんで、気になってね。ちょっと本気だしちゃいました。けど、早く片付けてきた甲斐があってよかった」
彼は叔父に対して、ちゃんと仕事は終わらせてきたと言った。
「サボってないならいい・・・が、ルビィは離してやれ」
叔父の言い方からして、サボり癖でもあるのだろうかと思惑する。
「それで・・・叔父様なんて呼ばれる仲なのに。なんで、俺に今まで紹介してくれなかったんですか?俺が好きそうな子だと、父上ならわかるでしょう。今まで一度も会った事がないなんて・・・おかしくないですか?」
叔父の最後の言葉はスルーされ、より抱きしめる力がこもり、彼は話し続ける。ルビルは彼の発言の中で父上という単語に首をかしげた。
「お前が好むのは百も承知だ・・・。それくらいわかっている。だから今まで隠してたに決まっているだろう。今日もお前に合わすつもりはなかったから、時間がかかる任を任せたというのに・・・」
叔父はルビルを彼と合わさないようにしていたようだ。
「相変わらず読みが甘いですね。でも、もう見つけちゃいましたし決めました・・・俺は彼女を嫁に迎えます」
彼の中では決定事項でも、ルビルはそんなこと承諾などしていない。ルビルの意志を無視して話がすすむ事に我慢ができなかった。
「ちょっと!勝手に話を進めないで!初対面であんなことしておきながら、はいそうですかなんて従うわけないでしょ」
「何をしたんだ・・・」
ルビルの発言に、叔父がつっこんでくる。
「・・・初対面の人にする事ではないことです」
何をとは言わなかった。彼は言おうとして口を開いたが、ルビルは彼の口が開いたので顔面スレスレに拳をつきつけて黙らせた。さすがにいきなり顔面パンチはしない・・・。一応イケメンなので顔はダメだろうと思ったのだ。
「それより・・・貴方叔父様を父上って言ってるけど・・・息子なの?」
ルビルは彼の発言や態度から、本当に息子なのか聞いてみた。
「ん?そうだよ?髪と目の色が一緒だろう?」
「まあ、一緒だけど。叔父様にはあまり似てないし、叔父様の息子とは思えないような性格なんだもの」
叔父の息子なら、もっと性格が堅物な気がしていた。
「ちゃんとした血縁だよ。俺の性格がこうなのは父みたいにはなりたくなかったからかな」
彼はにっこりとルビルに笑みを見せた。ルビルはなんと返したらいいかわからなかった。彼の一言で親子関係はよくないのだとわかったからだ。
「それは冗談で、ただ俺は母に似てるんだよ。父より母と過ごした時間が長かったから性格も似てないんだと思うな」
彼はルビルの表情が曇ったのを理解したのだろう、笑みは絶やさずにルビルの頭を撫でて来た。
「頭は撫でないで下さい・・・。乱れます」
もう既に乱れているだろうが、拒否の姿勢は崩さない。
「ごめんごめん。あとで可愛いく整えてあげるから、許して」
そう言いながら、彼はまた頭を撫でてくる。兄達とは違う撫で方になんだか怒りより、気恥ずかしさが勝るのだった。