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やってしまった・・・。仕方なかった・・・。この現状は、仕方なかったのだと、ルビルは自分に言い訳をする。自分がやらかしたために目の前で倒れている男を見て、この状態に至るまでが頭をかけめぐった・・・。
今日は私のために、辺境伯である叔父が婚約者候補を集めてくれていたのだ。
伯爵令嬢で、今年15歳になる私には未だ婚約者がいなかったからだろう・・・。世間で私は、女性にして男を叩きのめす事が出来るほどの武術を嗜むじゃじゃ馬と言われていた。
ルビル=ラルファンといえば、大抵のものは、あの令嬢かと認知してされているほどに・・・。
伯爵令嬢ながら、何故そのようになったかは・・・6人の兄がいれば理解してもらえるだろうか。
つまり・・・男の中で生きるには、男のように強くなければ生きていけないということだ。
別に劣悪な環境ではないし、家族中はよかったのだが、兄達は末の妹を可愛がっているつもりで、扱いは男兄弟と同じように扱ったのだ・・・。普通に喧嘩だって拳でだったし、競い合いも兄達と同様にしていたから、この有様なのだと自己分析する。
そんな私を嘆いてか、交流があった叔父である辺境伯が、辺境に私を呼び寄せ、この場を設けた。
ルビルは見合いをしに来た気はいっさいなかったが、目の前にいきなり婚約者候補だと並べられたのだ。これは、さずかに戸惑ってしまった。
ルビルは見た目は良いため、黙っていれば好印象を抱かれやすい。だが大抵は名を名乗れば皆、表情をかえるのだ。
今回集められた彼らは、叔父から説明を受けているのか嫌な顔をしている者は1人もいなかった。
その理由は、1人1人と別室で交流をしてわかった。
1人目、2人目、3人目、4人目・・・。
彼らは辺境に住む故に、なかなか嫁いでくる貴族の嫁がいないのだと説明してくれた。
辺境には女性の娯楽が少ないからだろうか、誰も来たがらないそうだ。
だが、ルビルは社交にもあまり興味はなく、辺境でも自分の身を守れるというので、嫁に来てくれるのではと期待したらしい。
それなら爵位は低くとも、辺境の自領の貴族を迎えればと提案したが、適齢の者はすでに婚約済みであるし、何より男女比率がおかしいくらい辺境は貴族女性が少ないのだと説明してくれた。
そんな、1人1人と話しながらルビルは一応集まってくれた彼らには猫をかぶって対応した。
名前を聞いても嫌な顔をされない事に、久しぶりに気分がよかったからだ。
理由はともあれ、噂で好まれない部類に入る令嬢である自分に対して、相手はきちんと接してくれる。話をして気に入られたいからか大抵は皆ルビルの容姿を誉め、自分をアピールしてきた。
そう・・・ルビルは見た目だけは良かったから。武術を嗜むルビルはスタイルは当たり前だがいい。くびれもあり、ヒップも引き締まっているし・・・胸は大きい方だ。
いつもは胸は邪魔なだけなので、締め付けて隠すような格好をしていた。だが、今回は辺境伯のメイド達に飾りたてられ、ルビルの好みとは違う、谷間が見えるドレスにされてしまったのだ。
着飾られたが、まさか見合いだとは思わず彼らを紹介されたため嫌でも今更着替える事はできなかった。
ドレスアップしているルビルは、久々に自分でも成長したなと胸を見下ろし思う。
見合いをする彼らの視線が、胸にいくのも仕方ないと・・・。
そう、最初は良かったのだ・・・。
だか長々と続く見合い、10人目にもなるとルビルを疲弊させ始めた。
皆が胸に、チラチラと視線を落としてくるので、段々と苛立ちもつのるというもの・・・。
だからか、最初に婚約者候補だと紹介された中には居なかった彼が、現れたのにも気づかなかった。
長身でイケメンの金髪長髪男が、部屋に入るなり名乗りもせず直ぐにルビルの横に座ってきて、距離を縮めてきた。
彼は甘い表情が似合う、かなりのイケメンで、今までの候補達とは1人だけタイプが違うようだった。
辺境地で戦っているためか、服の上からでも、鍛えられた肉体がうかがえるのだが、少し着崩していて胸元や腕の筋肉に視線がいってしまう。わざと女性を惹きつけているような格好だ。
ルビルの好みの筋肉具合だったので、魅力的でつい目がいってしまいそうになり苦戦した。
日に焼けた肌や、柔らかく甘い笑み、気さくな口調は、こちらの懐にスルリと入って来てしまう感じで、軽い。
ルビルの為に叔父が選びそうにはない人で、俗に言う遊び人のような軽さだと思った。どの兄達とも違う、ルビルの周りにはいないタイプで・・・イケメンだった。
彼は話が上手く、巧みにルビルの笑いをさそってきて、不思議とこちらの警戒心を解いてきた。
ルビルの髪を触られたが、自然すぎて不快感を感じさせなかったくらいだ。だからか、ルビルはつい油断をしてしまっていた。
「相性確認は大事だし、魅力的だから味見くらいしちゃってもいいよね」
彼はこれまた自然に、ルビルの顎を引き寄せて、断りもなく口付けてきたのだ。
突然の事に、何をされているか思考が追いつかず、彼が舌を絡ませてきた段階で我に返った。イケメンの顔が目の前にあり、ルビルはかなり動揺し抵抗した。
だが彼は、既にルビルの身動きを封じるように、手を押さえつけていたし、ルビルは初めての口付けに動揺しているため、なかなか拘束を抜け出せなかった。
声を出そうとしても、口付けが深くなり、上手く息も吸えずに呼吸が乱される。彼の舌を追い出そうとしても、舌を絡められ吸われるだけに終わってしまう。完全に経験不足の負け試合だ・・・。
何が候補だ、なんの味見だ、選ぶのはこっちだというのに、人のファーストキスを味見だなんて・・・・・・。いくら好みの筋肉でイケメンでも許せない。少し素敵かもなんて思った自分が嫌になった。与えられる刺激に、怒りが沸き、悔しさに涙が滲みだす。
彼の指が、ルビルの強調された胸元のドレスにかけられ、少し拘束が緩んだ。
「いいわけッ、あるかーーッ!!」
魔力を1点集中させ、身体強化をし、得意の武術で目の前の男を壁めがけてぶっ飛ばした。
ぶっ飛ばされた彼は壁に叩きつけられ、そのまま床に倒れ込む。
意識を失った彼を見て、ルビルは我にかえり、いよいよ自分は結婚なんてできなくなるなと思いながら、それでもこれは不可抗力だと、自己防衛のため仕方なかったのだと冒頭に戻る・・・・・・。
だが、ルビルが現実逃避している間に、彼はすぐに意識を取り戻したのか、此方を惚けたように見つめてきていた。
「すごい衝撃だ・・・。ビビっときたこれが・・・恋の衝撃というものか・・・こんな感覚ははじめてだ」
と・・・呟いたのが聞こえた。
ルビルは意識を取り戻した彼のその一言に危機感を抱く。壁に叩きつけられて頭でも狂ったのだろうか・・・怒りもせず、恋などといいだした彼の惚けた顔を見て、イケメンなはずなのに危険なやつだと判断した。そして、部屋から一目散に叔父の元へ逃げるため走りだすのだった。