6月20日/体育祭(午後)
ブルーシートに戻ると橘が座っていた。
やっぱり元気が無さそうだった。
「紙は取れたのに…」
ぶつぶつと何か言っていた。
何を言っているのかは聞こえなかった。
「大丈夫か??」
「えっ??…うん、大丈夫だよ!!」
「本当に??」
「本当だよ!!…大丈夫!!」
「そうか、なら良いんだけど。そうだ、借り物競走の紙には何て書いてあったの??」
「それは……言わない!!てか、忘れた!!」
「なんだそれ??うろうろしてたじゃん!!」
「いいの、うるさい!!転んでたくせに(笑)」
「それは、言わないでくれ……」
「言った通りになったね!!(笑)でも、心配してくれて、
ありがとうね!!」
「別に…心配なんかしてねーよ!!」
どこか無理矢理元気に見せてる気がしたけど、
これ以上何か言うのはやめた。
「あのね…」
橘が何か言おうとした時に大輝と天音が来た。
聞き返そうとすると首を振って口パクで「なんでもない」っと言っていた。だから、俺は頷いた。
最近、この4人でいることが多くなった気がする。
でも、どこか橘と天音は仲良いって感じはしなかった。
どっちかと言うと橘が天音を敵対視してるように思えた。
「夜見たち、そろそろ騎馬戦じゃない??」
「あー、確かに。めんどくさいな。」
「頑張ろうぜ、いお!!!!俺に任せろ、全部取ってやるからよ!!」
「いおくんも大輝くんも頑張ってね!!ここで綺音ちゃんと一緒に応援してるから!!ねっ、綺音ちゃん?」
「あっうん、頑張って!!」
俺と大輝は待機場に向かって行った。
「いおくんはさ、どっちが好きなの??てかさ、
天音ちゃんのことどう思ってるの??」
急にぶっ込んで来た。
「なんだよ、急に!?」
「気になったんだよね(笑)いお、天音ちゃんのこと結構前から好きだったでしょ??」
「なんで??知ってる…??言ったことないよね??(笑)」
「親友を舐めんなよ!!そうだ良いこと思い付いたわ!!」
「えっ?なに??」
「後でな、今は騎馬戦頑張ろうぜ!!」
そして、騎馬戦が始まった。
どこか俺は上の空だった。
ずっと、天音のことを考えていた。
(確かに天音は可愛いし、一緒にいて楽しい。
何回も考えたことがある、天音が彼女だったら。大輝が言うように好きだった。)
「よっしゃー!!!!」
大輝の声で我に戻った。
騎馬戦の結果は、1位だった。
俺は何もしてない、大輝が凄かった。そして、思った。
(天音は、大輝みたいな輝いている人と付き合うべきだよな。)
ブルーシートに戻ると、橘と天音が祝ってくれた。
正直、大輝のせいで天音のことを意識してしまって気まずい。
体育祭も最後の競技になった。クラス対抗リレーが始まる。
「位置について、よーい、ドン!!!!」
大輝がスタートダッシュを決めた。
めっちゃ速かった。お前がアンカーやれよって本気で思った。
(走ってる姿がスタイリッシュでかっこいいんだよな。)
他のクラスと大差で2番手にバトンが渡った。
そして、そのまま俺の所まで走ってきた。
「どうよ、凄いやろ!!(笑)」
「流石だよ!!」
「いえーい!!そうそう、クラスが優勝したらさ、
お前告白しろよ!!(笑)」
「はっ!?」
「いや、だから、クラス対抗リレーで優勝したら告白しなさい!!(笑)ついでに、天音ちゃんは、いおの事好きだよ!!相談されたからマジの話な!!」
思考回路が止まった。
(好き??えっ??まじ??)
「じゃあ、俺は戻るわ!!あっ、わざと手を抜いたら殺すから。ほな、頑張れよ!!」
そう言うと大輝は自分の待機列に戻って行った。
(なぜ、今言うんだ、あの野郎。)
俺だけ時が止まっている気がした。ぼーっとしていた。
気が付いたら、もう俺の番が来た。
大輝の貯金は無くなり、全クラス接戦だった。
6クラス横1列でこっちに向かって走っている。
バトンが俺の手に触れた瞬間、声が聞こえて来た。
「…頑張れ!!」
どこか泣きそうで、でも頑張って欲しいなって感じの声だった。
吹っ切れた気がした。
(よし、1位になって告白しよう。)
がむしゃらに走った。かっこいいとは言えないと思う。
けど、本気で走った。
ゴールした瞬間、勝ったのか負けたのか分からなかった。
でも、次の瞬間、クラスのみんなが俺のところに駆け寄って来て盛り上がっていた。
「…1位?優勝?」
「いお!!おう、流石だぜ!!!!」
「……良かった。」
「覚悟は決まった感じだね??(笑)」
「おう、ありがとうね!!」
最後の体育祭が終わった。
帰りの会が終わった後、俺はすぐ席を立った。
「天音、少し話いい??」
「うん、大丈夫だよ!!」
天音と2人で教室を出た。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
天音と話が終わった後、図書室に向かった。
「やっぱり、ここに居た。何してるの??」
「なんで…なんで…なんで、ここにいるの……」
「いや、それはお前を探してたから。」
「なんで、だって、だって、天音さんと付き合うんでしょ……」
「えっ?なんで??付き合わないよ?」
「……えっ?そんなはずないよ……」
「いやいや、おかしいだろ!!好きな人いるから諦めてくれって言ってきた所なんだけど…??」
「どうして…??」
「……橘綺音さん。俺と付き合って下さい。」
橘はびっくりした顔をしていた。
そして、少ししたら泣き始めた。
「えっ!?なんで泣くの…そんなに嫌だ…??」
「違うの、違う…違うの。嬉しくて……」
泣かれると思わなかった。
「嬉しいってことは、いいってこと??」
「うん、私で良かったら宜しくお願いします。」
そして、また橘は号泣していた。
「泣き止んだ??」
「うるさい!!泣き止んだよ!!」
「それは良かった、じゃあ、帰ろうか。」
「うん。そうだ、これあげる!!」
「何これ?あー、借り物競走の時の紙??ん?なにこれ(笑)」
「だから、うろうろしてたの…!!流石に恥ずかしいよ!!《好きな異性》って書いてあったら…」
「橘って、結構前から俺のこと好き?(笑)」
「うるさい!!!!ボクの気持ちを知らないで!!!!
早く帰るよ!!」
「そうだ、リレーの時、応援してくれてありがとうね!!
なぜか橘の声だけクリアに聞こえてきたよ!!
だから、1位になれたと思う!!」
橘は嬉しそうな顔をして頷いた。
こうして、俺は橘と付き合うことになった。