終末のリリー
私は真性百合。28歳独身の天才科学者だ。
これまで数多くの不可能を可能にしてきたが、どうしてもままならぬことが一つだけある。
「百合博士~!! 今度は何の研究しているんですか~?」
そう……この新人助手、由里葉夢里に私は執心してしまっているのだ。
まったくもって理解に苦しむ。
こんな小娘のどこに惹かれているのか自分でもよくわからない。
この艶サラの薄桃色の髪だろうか? いつも潤んでいるアーモンドのような瞳だろうか?
「ふえっ!? な、なんですか? そんなに見つめられると恥ずかしいんですけど?」
「気にするな……あくまで科学的な観察だ。それで何の研究かって? 惚れ薬だな」
「ほ、惚れ薬!? そんなもの出来たらすごいじゃないですか!! さすが博士!!」
実はとっくに完成しているのだが、残念ながらこの薬は異性にしか効果がないので、お蔵入りにしようと思っている。
夢里くんに使おうと思っていたのにとんだ失敗作と言わざるを得ない。
「それじゃあ博士、お疲れさまでした~!! 私、これからデートなんで」
きっちり定時で仕事を切り上げる夢里くん。
まあここはホワイトな職場だから一向に構わないのだが……で、デートだと!?
私の調査によると、夢里くんは5人の男性と同時に付き合っているようだ。
夢里くんは夢魔なのか? け、けしからん。
「ふふふ、ついに完成した。これで夢里くんは私のものにならざるを得ない」
天才の私が1年がかりで創り出したのは、この世界から男を抹殺する禁断の女体化薬。
それからわずか1カ月で世界から『男』は居なくなった。
世界中が大騒ぎでパニックになっている。人類は子孫を残せなくなるだろうから当然だが、私の知ったことではない。
そしてもう一つの薬がこれだ。
いわゆる男に変身できる薬。もちろん女体化薬の効果に耐性があるので抜かりはない。
しかも夢里くんの好みのタイプは完全に把握しているからな。きっと彼女にとっては理想的な姿に映ることだろう……ふふふふ。
さてと、さっそく夢里くんをデートに誘いに行くとするか。
……どうしてこうなった?
外に出た途端、大勢の女どもに囲まれ拉致されそうになった。
助けてくれた警察でもあまり好転したとは言えない危険な状況だ。
や、やめろ、私は夢里くん以外の女性に興味などない。
今は政府の監視下で保護されている。
保護されていると言えば聞こえは良いが、外部との連絡も許されず、まったくもって自由は無い。
ああ、夢里くん、夢里くんに会いたい。
「……やれやれ、彼女も駄目か」
うんざりするように項垂れる初老の男。
「多少は妥協しないと……人手不足なんですからね? 所長」
「わかってはいるんだが、やはり危険な研究に携わる人間はきちんと精査しないとな」
国家の機密技術を扱う国立先端科学研究所の入所試験は厳しい。
能力は大前提だが、それ以上に人としての資質が求められているのだ。
『仮想現実シミュレーション』
この装置の前では、その人間の本質が丸裸になる。
ゆえに他国のスパイや危険な思想の持ち主が紛れ込む心配はない。