祈祷神と悪魔、初恋の君
心など脆いはずなのに、何故にっ…
消えゆく意識の中であの日々が流れゆく…なぜ、私達はこのような立場で出会ったのだろう。
今、私の頬を伝う温もりは、なんという感情なのか誰か教えてくれっ…
私と美琴が出会った日、あれは、私がまだ10にも満たない時の事だった。
私は、両親との約束を破り、よく下界へ降りては7つに満たない私達の姿が見える人の子と遊んでいた。
美琴もその中の一人に過ぎなかった。
「ねえねえ、あしたねーっ、みことの7さいのたんじょうびなんだよ!」
何気ない君の一言に私の心は深く傷つく、君にも、明日には私の姿が見えなくなってしまうのか。
夕暮れのメロディーの中で、そっと心の奥でさよならを告げた。
ところが次の日、彼女の元を訪れると今までと変わりない笑が私に向けられた。
嬉しいのに思わず涙が溢れた。
不思議そうに覗きこむ君の笑顔、それが私の初恋だった。(今思うと笑ってしまうが)
しかし、間も無くして下界に降りていた事が両親にバレて、私達は離れ離れになった。
私は片時たりとも君を忘れた事はなかった。なのに、10年ぶりに君を見つけたその時、変わらない笑顔の側にはあいつ、祈祷神がいた。
しかも用心深い事に悪魔除けを仕込んでおり、結局彼女が生きている間に再会を果たす事は叶わなかった。
悪魔除けが届かない範囲からでも、愛しい君の笑顔を見守っていられれば十分だったはずなのに、想いは増すばかりで…
美琴の葬儀の時、あいつの心の乱れからか悪魔除けの効果が緩んだ隙に再会した美琴の魂は、とても暖かかった。そう離れていた時間も感じさせないほどに。
その一部を我が家に伝わる鏡に閉じ込めた。これ以上ないほどの満足感だった。
しかもあいつは、死後の彼女の霊をすぐに転生へと導けず苦しめた。それが許せなかった。
次こそは、必ず私が君を幸せにしよう。愛し気に鏡を撫でた。
そして、朝子、君に出会った。
鏡の中の魂から生まれ変わる時期を予測し、待ち焦がれていた。転生先が死神だと知った時、初めて己の不運を憎んだ。
それでも構わないと、朝子が15の時に朝子の母親を目の前で殺した。
絶望に立ちすくんでいれば、洗脳しやすいと思ったためだ。
しかし朝子は、私が近づくや否や真っ先に逃げ出した。
「待ちたまえ、朝子…悪いようにはしないから。」
朝子の顔立ちは、美琴にとてもよく似ていて、すぐにでも自分のものにしたかったのに、追いかけた先に見えた。またあいつにっ!
私を見据える朝子の凛々しい瞳、睨みつける強さに、君は美琴とは違う事を思い知った。
しかし、愛する人の生まれ変わりと初恋のその人が二度も愛した人に最期の時を…と言うのも悪くはないか。
二人は私に憎しみしかないはずなのに、どこか温かな空気に包まれ、僕は思う。
己の間違った愛し方を償い、正しき人に生まれ変われたとするならば、君達に正面から向き合える僕になろう。
美琴、いや朝子。そして祈祷神、どうか彼女を幸せにどうか幸せでいてくれ…
ふっ、もうお前達は幸せか。
どうか次にこの命が巡る時は、想いを伝えられるような私になれたのなら、きっとまた君と逢えますように…
これまでにないほど、安らかな気持ちに自分でも驚く。
誰も知らないその時の悪魔の笑みは、天使のように美しかった。