くじ引き
生徒一行が教室につくと、一足先に戻っていたらしい竹内先生がお菓子の空き箱のようなものを携えて生徒を待っていた。
「とりあえず席に就け。この箱については今から説明する」
そういって生徒に席に着くよう促す。
竹内先生は全員が席に着いたのを確認すると、手元の箱を持ちあげて説明を始めた。
「えー、今から席替えを行う。一人ずつくじを引いて、そこに割り振られている番号の席に座るように。あと、くじに書かれている番号は全員が引き終わるまで誰にも教えないこと。くじの説明としてはこれで以上なんだが、なにか質問があるやつはいるか?」
「席替えのくじを交換するというのは可能でしょうか」
「今回はダメだ。しょうもないいざこざに発展するのはごめんだからな。だが、視力など身体的なハンディを負う生徒に関しては例外としてくじの交換を認めるよ。ほかに質問はあるか?ないようだから出席番号順にくじを引きに来い。私はもろもろすることがあるからこれで」
竹内先生はそういうと教室を後にした。
「次は37番、三澤だな」
クラスメイトから名前を呼ばれ、俺は席に立つ。どこか希望する席があわけではないが、初めての席替えのくじ引きということで表向きは関心が無いように取り繕っているが、内心は興奮していた。悟られていないよな?
椅子を入れようと後ろを振り返ると、こちらを見透かしたような顔でエレナがニヤニヤしていた。瞬時に羞恥の感情がわっと押し寄せてくる。真っ赤に染まった顔をエレナだけには見せまいと、少し速足で教卓に向かう。
教卓はところどころ小さい傷が刻まれてる。よく使いこまれていることがわかる。
俺は箱に手を伸ばす。三角形にたたまれた紙に指が触れた。俺はそれをつかみ、箱から手を抜く。俺は誰にも見せないように、紙を素早くポケットに入れ自分の席に戻る。
ただのくじ引きなのになぜだろう。こう、人に知られてはいけない秘密を抱えていると思うとドキドキしてきた。自分がなるべく秘密を作らない性格をしているからだろうか。
「次は私の番ね!」
声の主は机に両手をつき、はつらつとした表情で立ち上がるエレナであった。