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東原~あずまのはら~ Remake版  作者: 水野 精
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立志編 ~時代の荒波と少年皇子~

 1 望まれざる皇子の誕生



 西暦627年、その皇子みこは母方の里で密やかな産声を上げた。折から美しく咲き誇った満開の梅の花が、赤子の声に応えるかのようにはらはらと花びらを散らせ、産屋の中へ舞い落ちてきたという。


 時はまさに蘇我氏全盛の時代。皇族は何事にも、蘇我氏の顔色を伺いながらの生活であった。そのような中だから、皇室の血を引く赤子の出産は、それこそ一大事。特に正室でない女の出産は、文字通り命懸けのものであった。


 皇子の父親は軽皇子かるのみこ高向たかむこ王妃となりながら、時の天皇舒明じょめい帝に召されて皇后となった宝皇女たからのひめみこの弟で、後の孝徳天皇である。母親は宝皇女に仕える女官で、久米氏の娘であった。


 日頃から可愛がっていた側仕えの妊娠に皇后は驚きつつも、蘇我氏に見つからないように、わずかな手落ちを理由にこの娘を罷免し里に帰らせた。そして、半年後生まれた男の子に、密かに自分の手ずから縫った守り袋を贈ったのだが、その中には伊勢神宮の護符と共に名前が書かれた紙が折り畳んで入れられていた。その名は皇女が自分の子に与えようと考えていたもので、後には自らの諡名おくりなにも使われたほど愛した字であった。


「極」(きわみ)、これが、この物語の主人公となる皇子の名前である。


 極は母の里橿原かしはらの久米の館で、久米氏の息子としてのびのびと育った。同じ年頃の子供たちと毎日館の周辺で遊び、夕方には泥だらけの姿で帰ってくる。久米氏はもともと武門の家柄だったので、家中には武芸に秀でた者が多かった。極も幼いときから武芸に興味を示し、乗馬、弓、剣術に精進し、ぐんぐんと腕を上げていった。


 極の祖父で久米の当主である穂足ほたりは、常々少年皇子に、屋敷の周囲から外へは決して出てはならないと厳しく言いつけていた。素直な性格の少年皇子は、その言いつけに決して背くことはなかった。


 ところが、極七歳の夏の終わりに、彼にとっては後の人生に大きな影響を与えることになる一つの出来事があり、彼は初めて祖父の言いつけに背くことになった。


 2 少年皇子、現実を知る



 その年は例年になく暑い夏で、雨が少なく村々は深刻な日照りの被害に見舞われていた。橿原周辺の村々も例外ではなかった。食料不足と苛酷な労働のために、人々はばたばたと倒れ、いたるところに行き倒れのまま放置された死体が転がり、腐敗していた。

こんな地獄のような光景も、当時の日本では決して珍しいものではなかった。


 その日、極は仲の良い従兄の春通はるみちと、館の裏手にある用水池で鮒釣りをしていた。周囲は建材用に植えられたひのきの林で、時折涼しい風が吹き抜け、子供たちにとっては夏の暑さをしのぐにはもってこいの場所だった。もちろん、極以外の子供たちは、館から少し離れた小川で水遊びもできたが、館の敷地内から出ることを禁じられた極にとっては、唯一の夏の遊び場だったのだ。


 背中の方から吹いてくる涼風に、ふといつにない異臭を感じた極は、そばであくびをしている従兄の春通に尋ねた。

従兄上あにうえ、何か変な匂いがいたしませぬか?」

「ん、そうか?」


 のんきな性格の春通は、釣り糸を見つめたままねぼけたような返事をし、二三度くんくんと鼻を鳴らして空気を吸い込んだ。

「ん、なんだ、この匂いは……」


 ようやく異臭を確認した春通は、釣り竿を置くと、振り返りながら少年皇子を守るように、皇子の背後に立った。


 そして、極は見たのである。従兄が硬直して立ちすくんだ前方に、異様な姿の人影がごそごそと地面を這うようにして近づいてくるのを……。

 それは、まさに骨と皮ばかりに痩せ細った村人の一人だった。言葉にならないうめき声を上げて、必死に手をさし伸べながら這い寄ってくる。


「う、うわあああっ……」

 春通は恐怖に耐えかねて、叫び声を上げながら、だっと逃げ出した。

「きっ、極、早う来い、逃げろぉ」

 極は立ち上がったものの、あまりの驚きと恐怖のために、その異様な人物を見つめたまま動けなくなっていた。


 やがて村人は極の目の前にやってきた。その目は涙さえしぼり出して、何かを必死に訴えていた。もはや言葉をしゃべる力も無いのか、しゃがれたうめき声を上げながら少年に向かって震える手を差し伸べている。その姿を見ているうちに、いつしか極の心から恐怖心は消えていた。


 その哀れな村人が何を訴えようとしているのか、それを考え始めたとき少年の脳裏にはっと思い浮かぶ物があった。彼は腰にくくりつけていた麻布の包みを解いて、その中に入っていた竹の皮でくるんだ握り飯を取り出した。小昼飯にと、下女の一人が朝飯の残りを握って持たせてくれたものだった。


 村人の目は、その粟と雑穀の握り飯を凝視し、痩せ細った喉がゴクッと大きな音を立てた。極の差し出す握り飯をぶるぶる震える手で受け取ると、まさに獣のように握り飯にむしゃぶりつく。あの異様なゴクッという音が何度も聞こえた。

 ところが、何口か食らいついたところで、その人物はふいに顔を上げ体の向きを変えて、元来た道を這い戻り始めた。


 極はじっとその姿を目で追っている。

「極、さあ、帰るぞ」

 離れた木の陰から様子を見ていた春通が、少年皇子のそばに戻ってきて促した。


「従兄上、あの者は‥‥」

「おそらく近在の村人であろう。そなたは知らぬであろうが、今年は日照りが続いたので作物が枯れ、村々には食い物が無いのじゃ。何年に一度かはこうしたことが起こる」

「では、あのような者たちがたくさんいるのでござりまするか?」

「うむ‥‥そこら中、死骸だらけじゃ」

「されど、我が家には食い物がたくさんありまする」


 春通はどう説明すればよいか分からず口をつぐんでしまう。と、少年皇子はいきなりつかつかと、例の村人の後を追いかけて歩きだしたのだった。

「やっ、これっ、極、どこへ行く?」


 守役の春通はあわてて皇子の手をつかんで引き止める。

「わたくしも我が目で村の様子を見とうござりまする」

「ならぬ。そなたを館の外に出してはならぬと、お館様にきつう言われておる」

「では…では、あの者がどこへ行ったか、それだけでも確かめさせて下さりませ」


 そう言う少年皇子の目を見て、春通はそれ以上引き止めることは無理だと悟り、仕方なく手を放して、一緒に村人が消えた桧林の方へ歩きだす。

 そこは林の中の岩場で、夏の暑さをしのぐにはちょうど良い場所だった。


 例の村人は、その岩場に向かって必死に這い寄って行く。そこにはすでに息絶えたらししく、仰向けになったまま動かない大人の男と、その死骸にもたれかかるようにしてうなだれた子供らしい小さな人影があった。すると例の村人は母親なのであろうか。

 極にはとうてい信じられなかった。そして、にわかに胸がつぶれるような痛みを覚え、とめどなく涙が流れ出てきた。


 ぶるぶる震える手で、子供の口先に握り飯を差し出すミイラのような母親……。しかしもう口を動かす力もないのか、子供はうなだれたままぴくりともしない。

 極は得体の知れない衝動にかられて、そばへ駆け寄り、母親の手から握り飯を受け取ると、代わりに子供の口へそっと持っていった。子供の口がようやくゆっくりと力なく開いて握り飯をわずかにくわえた。極はうれしそうに微笑んで、子供が二口目を食べるのをじっと待っている。


「極……」

 春通の沈んだ声が背後から聞こえてきた。極が振り向くと、彼は沈痛な表情でゆっくりと首を振った。見ると、彼の目の前には、もはや力尽きたのか、母親がうつぶせになったままこときれていたのである。極は胸が締めつけられる思いで、それを見た。そして、せめて目の前の子供だけでも助けたいと、振り返った直後だった。


 握り飯に顔をうずめたまま動かなかった子供が、まるで母親の死を待っていたかのように、ゆらりと揺れたかと思うとそのままがっくりと前に倒れたのであった。すでに助からないことは少年の目にも明らかだった。


 握り飯を持ったまま、ぶるぶると体を震わせる少年皇子の目から、ぼろぼろと涙が溢れて流れ落ちていく。

「うう…うあああっ…あ…ああああ……」


 激しい感情が一気に堰せきを切ったように極の中から溢れ、叫び声と涙となって外へ出ていった。春通はそんな皇子の姿を初めて目にした。


 このことがあってからというもの、極は以前にも増して無口になり、感情を見せない子になった。母親の綾女あやめはそんな息子の様子を心配して、父である穂足に相談した。


 穂足は笑って答えた。

「なに心配は無用じゃ。初めて人の死というものを目にしたのじゃ、心塞ぐは当然のこと。しばらくすれば元に戻るであろう」


 もちろん極は、他人によけいな心配をさせるような子ではなかった。読み書きや弓馬の鍛練は毎日熱心に励み、病床の母のもとを訪ねては、柿や栗の実をむいて食べさせ、にこやかに話の相手をするのだった。しかし、この時、少年皇子の内部では激しい変化が起こっていたのである。


 そのことにただ一人気づいていたのは、春通だった。彼は時折、極が弓馬の鍛練の後夕飯までの間、館内から姿を消すことに気づいていた。


 ある時、春通はこっそり極のあとをつけてみた。極は鍛練の後、井戸端で素裸になり、汲み上げた水を二度、三度頭からかぶった。その後、乾いた手拭いで体を拭くと、再び汗に汚れた服を着て立ち上がった。着替えは持ってきていなかったようである。そして、辺りを何気なく見回した後、自分の部屋の方へ歩きだした。


 春通はうまやの陰から出ると、植え込みから植え込みへ身を隠しながら後をつけていく。やがて極は右に折れて、中庭の方へ入っていった。春通は急いでその後を追いかけた。

ところが、忽然と極の姿は消えていた。春通はあわてて極の部屋へ走った。

「おいっ、極、いるのか。いるなら返事をせい」

 しかし、返事はなく、春通はつかつかと部屋の中に入って、そこに誰もいないことを確かめると、悔しげに舌を鳴らし、床板を踏み鳴らした。


 夕方、春通がもう一度その部屋を訪れた時極は涼しい顔で縁側に座り、柿をむいてかじっていた。

「極、どこへ行っておった?」

「はて、わたくしならずっとここに居りましたが」

「もはや、そのような言い逃れは聞かぬぞ。わしはこの半月ほど、そなたが鍛練の後どこぞに出掛けるのを知っておった。今日はそれを見届けようと後をつけたのじゃ」


 極はふいにくすくすと笑いだし、生真面目な従兄の怒った顔を見つめた。

「ふふ…はい、知っておりました。きっと従兄上が、わたくしを後からおどかそうとしておられるのだと思いました。それで、中庭へ曲がったとき、さっと回廊の下へ隠れたのです」


「ぬうう…では、わしがそなたの部屋をさがした時、なぜに出てこなかったのじゃ」

「それでは面白うござりませぬ。今度は従兄上をおどかしてやろうと待ちかまえておりましたが、そのまま母屋の方へ行ってしまわれたのでかないませなんだ」

 春通は地団駄踏んで悔しがったが、どうしようもなかった。


 さて、こうして最も親しい従兄にさえ隠して、極は何をしていたのか。実は、彼は密かに近在の村々を回って、その惨状を自分の目に焼き付けていたのである。それは七歳の少年にとって、あまりにも衝撃的すぎる場面の連続であった。

 普通の少年であれば、至る所に転がって腐乱した死体を見ただけで、泣いて逃げ帰るであろう。また、領主の子息と分かれば、どんな形で村人たちの恨みを受けるかも知れなかったのだ。ところが、この不思議な少年は、真っ青な顔でぶるぶる震えながらも、危険極まりない冒険をやめようとはしなかった。そして、その衝撃をじっと胸の内にしまいこんで、誰にも語らなかったのである。



 3 運命の出会い



 舒明帝の世はさまざまな内憂外患を抱えながら、まがりなりにも平和のうちに過ぎていった。皇后宝皇女との間には、葛城かつらぎの皇子(後の天智天皇)、間人はしひとの皇女、大海人おおあまの皇子(後の天武天皇)の三人の子供たちが生まれ、それぞれ信頼できる乳母の里で育てられていた。


 一方、大伴や境部さかいべといった反対勢力への粛清を経て、蘇我氏の力はますます強大になっていた。それ故、さしたる武力を持たない中小の豪族たちは、蘇我氏の顔色を伺いながら右往左往する有様だった。


 橿原の小領主である久米氏にとっても、心穏やかならざる状況であることには違いなかった。ただ、久米氏の場合は、その成立からして他の豪族たちとはやや異なる立場に置かれていた。というのは、久米氏はもともと大伴氏と同流で、先祖は九州のくまの一族だったといわれている。神武天皇の東征以来、常に大王おおきみの傍らで武力をもって仕えてきた。いわば大王家の近衛兵という立場だったのである。


 ただ、大伴氏の衰退と外来系の新興氏族たちの進出によって次第に職を追われ、今や一族の中で朝廷に仕える者は二人だけという有様だった。

 だが、落ちぶれたりとはいえ、いざ大王家に何かあるときは、勇猛な一族を率いて大王を護るという思いはいささかも衰えてはいなかった。


 そういうわけで、蘇我氏の手前、おおっぴらにはできなかったが、大王の一族にとっても久米一族は心中頼りとする存在だった。一方、蘇我氏を中心とする外来系の氏族にとっては、はなはだ目障りな、しかし、へたに突いて怒らせると厄介な一族だったというわけである。


 極は九歳になった。日頃の武術の鍛練によって、同じ年頃の少年に比べると抜きん出てたくましく、背も高く、大人びて見えた。しかし、相変わらず無口でおとなしい少年だった。

 そんな少年皇子の生活に一つの転機が訪れたのは、橘の花が咲き匂う五月の初めのことであった。


「極、親方様がお呼びじゃ、客間に来るようにとな」

 部屋で論語を書写していた極は、春通の声にいぶかしげな顔で立ち上がった。


 回廊を渡っていく途中、母の部屋の前で呼び止められた。母は珍しく床を離れて、かつて女官だった時の衣服に着替えていた。

「極、こちらへ」

 母は息子がそばに来ると、何やら感慨深げに息子の姿を見回し、小さなため息を吐いてからしみじみした口調で言った。

「そなたにはこれまで、母親らしきことの一つもしてやれず、すまぬことやに思うておりまする…」


「母上、何をそのような…」

 母は小さく何度もうなづきながら、そっと袖で涙を拭う。

「ええ、わかっておりまする。そなたはこの母が思うていた以上に、心優しき、強き男子に育ってくれました。もはや母は何も心配はしておりませぬ。母は幸せ者ぞ、そなたのような子を持てて…」


 極はそんな母の言葉が、まるで永遠の別れを告げる言葉であるかのように聞こえて、言い知れない不安を感じながら、白く痩せ細った母の顔を見つめていた。

「さあ、これを着て行きやれ」

 母はかたわらから、真新しい絹織りの上下の衣服を取り上げて差し出した。

「今日は初瀬はつせのお館から、いとやんごとなきお方の皇女ひめみこがお遊びにおいでじゃ。そそうのなきようにの」


 着ていた麻織りの服を脱ぎ、母が着せてくれる柔らかい絹織りのほうに袖を通しながら、極はいったいどんな人なのだろうと想像したが、皆目見当がつかなかった。


 回廊を歩いていくうちに、なごやかな笑い声や人々のざわめきが聞こえてきた。

「お呼びと聞き、極、まかりこしましてござりまする」


「おお、来たか。ここへ来て座るがよい」

 極は顔を上げて、左右に居並ぶ人々をちらちら見ながら祖父の横に行って座った。

 向かい側には、華やかな衣服をまとった数人の若い女たちと中年の二人の男たちが座っていた。


「極、あちらにおわすは恐れ多くも大王の皇女にて、間人皇女様じゃ。このたび初めて初瀬のお館をおでましになり、我が館へお遊びにおこしなのじゃ。この後もたびたびお越しになるやもしれぬ。お見知りくださるよう、しかとご挨拶いたせ」


 祖父に言われて、初めて極は一番上座、男の陰に隠れるようにひっそりと座った人物に気づいた。その人物はまだ五つか六つぐらいの小さな童女だった。白繻子の袍に赤いかさねがのぞき、くちなし色の裳もををはき、一目で高貴な身分の姫であると分かった。

 一人の男に何やら耳打ちされて、少しはにかむような表情で極をじっと見つめている。


「極にござりまする。なにとぞお見知りおきくださりますようお願いいたしまする」

「おお、利発なお子じゃ。極様、それがしは佐伯連阿津麻呂さえきのむらじあつまろ

にて、皇女のお世話をいたしおる者にござりまする。なにとぞお見知りおきくださりますよう」


 佐伯連といえば、もとは大伴氏から分かれた一族で、久米一族とは同系の武門の家柄であった。ただ、久米一族と違い、蘇我氏との結びつきを強めて、この当時は全国の佐伯部を束ねる大豪族であり、宮廷を守る衛士の家として日の出の勢いの一族だった。


 そんな佐伯連家の当主が、ひどく丁重な言葉遣いと態度で極に対していた。

前大夫さきのたいふ殿、どうであろう、ここは子供同士親しくなっていただくというのは」

「うむ、異存ござらぬ。では、極、皇女様を中庭の見ゆるところまでお連れいたせ。そなたの得意の笛をお聞かせいたしてはいかがじゃ?」


 極はあまり気がすすまなかったが、言われるままに立ち上がると、前かがみのまま皇女の前に進み、ひざまづいて二回拝礼する。こうした所作は、二年ほど前から母親に厳しく教え込まれていた。

「どうか、我とともにおいで下さりませ」


 極の言葉に、皇女は白い頬をほのかに赤くしてはにかみながら、円らな目を後に控えた侍女に向けた。侍女は微笑みながら皇女の手を取って立ち上がらせる。極は皇女の前に立ち、緊張した面持ちで回廊へ出ていく。


 中庭にはうららかな日差しを浴びて、春の花々が美しく咲き乱れていた。

 回廊に座って笛の音に耳を傾けていた皇女は、小さなあくびをして中庭に目を向けた。

 やがて、皇女の目がある一点に留まり、大きく見開かれた。


 皇女の様子に気づいた極は、笛をやめて彼女の視線の先に目を向けた。そこには、今、池から上がったらしい大きな土蛙がいた。皇女の目は、蛙のひくひくとふくらむ喉のあたりをじっと見つめていた。

 透き通るような色白の小さな顔に、不釣り合いなほど大きな二重の目、細く高い鼻梁、割に量感豊かで、ふっくらした桜色の唇。間人はこの当時の美人の基準から見て、色白は別にしても、決して美しい姫とは言えなかった。


 しかし、極はこの少女をたとえようもなく美しいと思った。すでにこの時、極の心の中には生まれて初めての淡い恋心のようなものが芽生えていた。


 彼はそんな自分を恥じるかのように、大きな声で言った。

「かわずじゃ」

「かわ…ず…?」

 極はにっこり微笑んでうなづく。

「夜ともなれば、何百何千ものかわずがいっせいにギコギコと鳴きまする」

「あっ、もしや…ねえ、玉比女たまひめ、いつぞやそなたに尋ねたが、夜になるとつるべを引くような音が聞こえてくるは、もしやあれがかわずの…」

「はい、おそらくは…」


 蛙の鳴き声も知らないとは、この人たちはいったいどんな暮らしをしているのだろうと極は思うのだった。


「虫や蝉の鳴き声はご存じであらせられまするや?」

「知っておる。虫はマツムシ、蝉はヒグラシが好きじゃ」

 間人は少し怒ったように、元気な声で答えた。

「では、馬や牛の鳴き声は?」

「えっ、馬や牛も鳴くのかえ?」

 極は笑いながら四つんばいになって、馬と牛の鳴き真似をして見せる。間人は手を叩きながら、楽しげな笑い声を上げた。

「皇女様、背中にお乗りなされ」

 間人は目を輝かせて侍女の方を見る。玉比女はうなづくと、皇女の体を抱き上げ、極の背中をまたがせて座らせた。


 おもしろおかしく馬の鳴き声を真似しながら、ゆっくりと進んでいく極の背中で、間人はいかにも楽しげに無邪気な歓声を上げた。もともと人見知りで、おとなしい性格の間人だったが、こうして極にはすぐに心を開き、それどころか、もう片時も極のそばを離れようとしなくなったのである。


 客間ではすでに宴が始まっていたが、主賓席にいるべき間人の姿はなかった。少女は末席に座った極の横にぴったりとくっついて、極の衣をしっかりと握り締めていた。侍女たちが、どんなに言葉を尽くして説得しても、かたくなに首を振り続けた。


「やはり血のつながりはなんとのう分かるのでござりましょう、仲の良いこと」

 阿津麻呂の正室豊郎女とよのいらつめが、小さな声で傍らの夫にささやいた。

「うむ…。まだ皇女様には極殿の身の上をお明かし申しておらぬが、今日にでもお聞かせせねばなるまいのう」


 阿津麻呂はそうつぶやくと、盃を持って向かいに座った穂足のもとへ行く。そして、親しく盃を交わした後、密やかな声で言った。

「のう前大夫殿、この場にいる者にかぎればすでに極殿の素性を知っておる者がほとんどじゃ。このさいお二人には、互いの身の上を知っておいていただくべきであろうと思うがいかがじゃな」


「うむ、わしとしては異存ござらぬ。されど極の母親がどう言うか…。極を生涯この久米の息子として、静かに生かしてやりたいと言うておりますゆえ…」

「ふむ…いや、たしかにその方が幸せかもしれませぬ。なれど…」

 阿津麻呂はそう言うと、さらに声をひそめて続けた。

「極殿はわれら大王家に奉ずる者たちにとっては、草薙くさなぎの剣に匹敵するこの上なき御印じゃ。われら佐伯の一族も、今でこそ蘇我大臣おとどの家に仕えてはおるが、もし大臣一派がこれ以上大王をないがしろにすることあらば、袂を分かち、大臣一派と相戦う覚悟はできておる。その時こそ、極殿に立ってもらわねばならぬ」


 いつしか、二人の周囲には阿津麻呂と同じ熱い思いを胸に秘めた男たちが集まり、互いにうなづき合っていた。

 

 穂足はじっと考え込んでいたが、やがて顔を上げると阿津麻呂に向かって言った。

「わかりもうした。この後はそのつもりで極を育ててまいりましょうぞ。されば、極の素性については、我が一族と佐伯の一族のみの秘密とし、時が来るまでは決して外に洩らさぬよう、お頼み申しまする」

「うむ、委細承知いたした」


 こうして、久米、佐伯両家の合意のもとに極と間人はあらためて実の従兄妹いとこの名乗りを上げた。

 二人の甘やかな交流の始まりであった。

 お互いの館を訪問し仲良く遊ぶというものだったが、二年目に入る頃には間人からの一方的な訪問になっていた。なにしろ、間人は橿原から帰って五日もすると、また橿原に行きたいとだだをこねて、侍女たちを困らせたのである。


 それから五年の月日が夢のように過ぎていった。世の中は、相変わらず蘇我氏を中心に回っていた。不穏な雲は常に漂っていたものの、珍しく血なまぐさい事件は起きていなかった。


 極の周辺もさしたる変化はなかったが、ただ長年病の床にあった母が、ついに回復することなく世を去ったのが、ただ一つの大きな変化だった。極十二歳の夏のことであった。


 周囲の者が、そのはかない一生を思って涙にくれる傍らで、幼い少年皇子は母の臨終の瞬間、地の底から響くようなうめき声を上げて一筋の涙を流した後は、野辺の送りを済ませるまで気丈にも涙を見せなかった。ただ、母の遺髪だけは誰にも触らせず、しっかりと胸に抱きしめていた。後に極は、その遺髪を編んで自らの髪の元結もとゆいとし、生涯肌身から離すことはなかった。


 間人は十歳になった。相変わらずひと月の内の半分以上を橿原で過ごし、時には一週間あまり滞在することもあった。

 同じ年頃の少女たちに比べると背が高く、やせて手足が長かった。時折訪ねてくる実の兄の葛城皇子は妹の姿を見るたびに、やせすぎだ、色が黒い、背が高すぎるなどとさんざんけなした上で、悲しい思いをする妹にさらに追い打ちをかけるように、こう付け加えるのが常だった。

「…さほどたびたび久米の館に行かぬことじゃ。そなたは、やがて世継ぎの皇子を産む身ぞ。下賎の者たちと深く関わりすぎてはならぬ。よいな?」


 しかし、おとなしい間人もその言いつけにだけは、決して従おうとはしなかった。なぜなら、間人にとって、橿原で極と過ごす時間こそが、彼女にとっての幸せであり、彼女の生きる支えだったからだ。

 間人が本当に心を開けるのは、侍女の玉比女と極の二人だけだった。極のそばにいるだけで、間人は楽しく幸せな気持ちになった。極に会えなくなると考えただけで、間人は息が苦しくなり、恐ろしい不安を感じた。

 そんな心の内を、間人は決して周囲の者たちには洩らさなかったが、玉比女をはじめ佐伯の館の者も感じとり、できるかぎり間人が橿原で過ごせるように応援したのである。


 間人は橿原の館で、極や久米の子供たちと一緒に元気に外で遊び回った。白かった手足は日焼けし、時には泥だらけになったり、小さな傷を作って帰ってくることもたびたびで侍女たちを心配させた。とはいえ、屋敷内のことだったので、四六時中そばで監視する必要もなく、間人はのびのびと自由な時間を過ごすことができたのである。


「従兄上…従兄上…」

 用水池の水面を真剣な眼差しで見つめていた間人が、横に座った極に押し殺した声でささやく。

この日、ようやく許された釣りをするために、喜び勇んで極と一緒に用水池までやって来たのである。


「ん…おっ、かかったぞ、間人、引け、引くのじゃ」

「は、はいっ、うううん…」

 極は自分の竿を放り出して、間人の竿を一緒に握って引っ張る。二人は悪戦苦闘の末、やがて大物の鮒を釣り上げた。


「やったあ、釣れた、釣れたあ。あはは…従兄上、従兄上ぇ…」

 間人は大喜びで極の首に抱きつく。


 極は細く柔らかい少女の体の感触と甘く切ない髪の匂いに、思わず胸の高鳴りを覚え、あわてて少女の体を引き離し、草の上でぴちぴちと跳ねている大きな鮒をつかみ上げた。


「初めての釣りで、かほどの大物を釣り上げるとは、そなたは釣りの名人になれるやもしれぬぞ」

 間人は微笑みながら、自慢気に鼻をこすった。

「さて、では池に戻すとしよう」

「ええっ、せっかく釣ったのにぃ、逃がすのでござりまするか。今晩の飯の菜にすればよいのに」


「よいか、間人、よく聞きやれ。池などにおる魚には、うろこや腹に細いミミズのような虫が潜んでおることがあるのじゃ。ひとたびこれを食うたれば、胃の腑や臓器を食い破られて黄泉よみの苦しみを味わうことになる。よくよく気をつけねばならぬ」


 間人は大きな目を見開いて従兄を見つめ、うんうんとうなづいている。

「ほんに、従兄上はなんでも御存じなのですねぇ。まことに天より下しまいらされた神の御子なのではござりませぬか?」


 極は思わず赤くなって、それをごまかすように立ち上がった。

「さあ、そろそろ館に帰ろうぞ。玉比女殿も心配なされておろう」

「ええっ、もう帰るのでござりまするか。もっと釣りとうござりまする」

「わがままを言うでない」

「は、はいっ」


 どんなに甘えてわがままを言っても、間人は極に対してあくまでも従順だった。

 二人は館に帰ると、待っていた人たちに楽しげにその日のできごとを話して聞かせた。

 その後、手足を洗い、極の部屋へ行って、習慣になっている昼寝をした。あおけむけになって寝転んだ極の脇の下にうずくまるようにして、間人は幸福な微笑みを浮かべて眠った。

 しっかりと極の衣を握りしめ、まるで極が唯一無二の肉親であるかのように頼りきった姿だった。


 この五年近くの月日は、極と間人に夜空の星のようにきらめく、数多くの思い出をくれた。

 初めの頃、間人があまりにわがままで甘えん坊のために、極は間人の目の届かないところに隠れたことがあった。ところが、いったん極の姿が見えなくなるや、間人は狂ったようになって、泣き叫びながら極を探し始めたのである。極はあわてて姿を現し、間人を安心させたのであった。そのとき、小さな体を震わせながらすがりついた間人を、恐る恐る抱きしめながら、極はもう二度とこんなことはすまいと心に誓ったものだった。


 また、こんなこともあった。一年前、極十三歳、間人九歳の夏の日のことである。

 暑い日のこととて、久米の子供たちは皆、飛鳥川へ水浴びに出かけていた。極と間人は屋敷の外に出ることを禁じられていたので、一緒に行けなかった。二人はそれをどんなに悔しく思ったことか。しかたなく二人で、用水池のそばの桧林に蝉取りに出かけた。


 途中、極は何か思い詰めたような表情で間人を振り返った。

「のう、間人…わしは水浴びに行こうと思う。そなたはどうする?」

 間人は目を輝かせて元気よく答えた。

「行きまする。ふふ…ああ、うれしい」


 二人は冒険の興奮に胸を高鳴らせながら、桧林を駆け抜けていく。屋敷と外界を隔てる堀を越えるのは一苦労だった。極は桧林に引き返し、倒木を引っ張ってきた。間人のためにそれを三回繰り返して、堀に木を渡した。


「わあ…従兄上、広うござりまするなぁ」

 間人は、初めて見る外界の景色に感動して大きな目をいっぱいに見開いている。

 極は過去にこっそりと何度も外に出たことがあったので、近辺の地理は頭の中に入っている。

「こっちじゃ、行くぞ」

 間人はあわてて極の手につかまり、一生懸命走った。夏の強い日差しに照らされた風景が、風と共に次々と後方へ飛び去っていく。極が向かったのは、久米の子供たちがいる飛鳥川の本流ではなく、支流の方だった。


「は、はにうえ…まだでござりまするか?」

「もう、すぐそこじゃ」

 極は走るのをやめて、かがみこんだ間人の背中をさすってやる。生まれて初めて長い距離を走った皇女は、息を弾ませながらはにかむように極を見上げた。


「歩けるか?」

「もう少し待ってくださりませ。あの…もう少しだけ、背を撫でてくださりませ」

「う、うむ…」

 急に無口になった二人に微笑みかけるように、優しい風が吹き抜けていく。

 こめかみの辺りで束ねた間人の、茶色っぽい柔らかな髪が、風になびいて広い額にかかる様子を、極はうっとりと見つめていた。


「従兄上…」

「う、うむ、なんじゃ?」

 間人はもうすっかり元気を取り戻していたが、なおも辛そうな表情で弱々しく微笑んだ。

「足が痛い…でも、もう少しなら頑張って歩きまする」


 極はすぐに背中を向けて、後手で招いた。まんまと企みを成功させた間人は、心の中で手を叩きながらもすまなそうに謝りながら、たくましい従兄の背中に身を預ける。

 間人はこのまま時間が止まればいい、と切に思う。従兄の温もりに包まれて、ずっと眠っていたかった。


 田の畦道を通り、野原の草をかき分けて歩くこと十数分、二人は小高い川岸に立った。まだ従兄の背中から降りないまま、間人は小さな歓声を上げる。

「わあ、これが川…きれい…」

 太陽に輝く川面に目を細めながら、極は川原の方へ下りていった。


「さあ、間人、水浴びをしようぞ」

「はいっ」

 間人を降ろすと、極はすぐに衣を脱ぎ始めた。

 またたく間に全裸になっていく極を、間人はあっけにとられて見つめていた。

「あ、あの、従兄上…衣を脱ぐのでござりまするか?」

「あはは…おかしなことを言うやつじゃ。衣を着たまま水浴びはできぬぞ」


 今や、極は生まれたままの姿で間人の前に立っていた。男の裸体を初めて目にした間人は、食い入るように自分とはまったく形状の違う部分を見つめていた。

「裸になるのは嫌なのか?」

「え、あ、あの…いいえ、今脱ぎまする」

 間人はこれまで侍女たちから、女としてのたしなみや初歩的な性の知識については教えられてきた。しかし、今、彼女の中には、生まれて初めて内側から湧き上がるような興奮(それはまだ官能と呼べるほどには成熟してはいなかった)が生まれていた。


 眩しい太陽に初めてさらす新雪のように白い体は、おずおずと小さく震えながら、極のそばへ近づいてきた。


 すでに、極は川の中に膝まで浸かって、冷たい水を手で体中にかけていた。極にしても女の全裸を見るのは初めてであった。ただ、このときの極はまだ、その白い裸体に特別な感情を抱くほど成熟してはいなかった。


「きゃっ、つ、冷たい」

「あはは…すぐに慣るる。よいか、見ておれよ」

 極は笑いながら、ざぶりと頭から水の中に潜り、二間ほど先で水面から顔を出した。

「わあ、すごい。従兄上、ご無事にござりまするか?」

「おうっ、そなたも早う来やれ」


 間人は恐る恐る川の中に足を入れていく。慣れるまでには随分と時間がかかったが、やがて、間人は絶え間なく歓声を上げながら、ようやく川の中に全身を浸すことができた。


「ああ、なんと心地よいこと…んん…空がきれい…」

 川の手前は浅く、間人が川底に座るとちょうど肩まで水に浸るくらいだった。


「頭から水をかぶるともっと心地よいぞ。ほれっ…」

「きゃっ、あ、従兄上っ…」

「あはは…どうじゃ、よき心地であろう?」

「意地悪…もう…ええい、覚悟なされませ。それっ…あはは…」

 二人の歓声と水しぶきが、きらきらと夏の日差しに輝いて青空に吸い込まれていく。二人は心の底から笑い、二人だけの世界を楽しんだ。


「そろそろ帰らねばならぬ…」

 遊び疲れた後、二人は川岸の土手に並んで寝転び、濡れた体を乾かしていた。

 極のつぶやきに、間人はびくっとして、哀しげな顔で身を起こした。

 白い小袖の前は開いていて、白桃のような少女の胸が息遣いとともにせわしなく動くのが見えていた。

 極は寝転んだまま、少し日焼けして赤くなった間人の顔を見つめた。間人もじっと極をみつめたまま、ゆっくりと彼の上に覆いかぶさってくる。

「もっと遊びとうござりまする…」

 今や間人の顔と極の顔は、触れそうなほど近くにあった。

「わしはよいが、そなたが叱られよう」

 間人はいやいやと首を振って、極の首元に顔をうずめる。

「かまいませぬ。従兄上とご一緒なら…」

 この時、二人は幼いながらもはっきりと、お互いが誰よりも愛しい存在であることを意識した。触れ合った肌と肌が、互いの思いを素直に伝え合った。


 幸いなことに、その日館に帰った二人は、思いがけない来客のおかげで何も咎められることはなかった。

 客は巨勢越智麻呂という男で、葛城皇子に仕える者だった。おそらく、皇子に命じられて、橿原での間人の様子を見にきたのであろう。慇懃な態度で間人にあいさつし、兄皇子からの贈り物を差し出しなどして、なごやかに間人と話をしたが、その間にちらちらと極に向けられた視線は、鋭く冷たかった


「従兄上、従兄上…何をお考えにござりまする」

 夏の終わりの黄昏が、部屋の中を物悲しく包んでいた。ヒグラシの声はなおさら感傷的な気分にさせた。明日はもう間人が初瀬の館に帰る日だった。


 寝転んだ極の上に覆いかぶさった間人は、いつものように愛らしい唇を従兄の唇に触れる寸前まで近づけてささやく。かぐわしい息が極の鼻をくすぐった。

「わたくしは帰りたくない…。ずっとずっと従兄上のおそばにいたい…」

 いつもの間人の嘆きだったが、極はなぜか今回は、これが長い別れになるような予感がしてならなかった。いや、極自身に、これ以上今の関係を続けてはならない、という思いがあった。というのも、もはや極の理性は崩壊寸前だったからだ。


 この五年間、極は全身全霊をこめて皇女を慰め、いつくしんできた。最初は使命感の方が強かった。しかし、今は、もはや自分で自分を抑えきれないほどに間人への思いは高まっていた。しかし、それは許されない思いであると、極は自分に言い聞かせていたのだ。


「また、すぐに会える。しばらくのがまんじゃ」

 間人は溢れ出る涙を手でこすりながら、こくりとうなづく。

「あい…がまんしまする。従兄上、約束してくださりませ、毎夜必ず間人のことを思うて眠ると…」

「うむ、約束する…」


 間人はなおも安心できないのか、切ない目で極を見つめていたが、何か思いついたように目を輝かせて体を起こした。

「従兄上、衣を脱いでくださりませ」

「えっ、な、何をするのじゃ」

「ふふ…従兄上の衣をもろうて帰りまする。それを抱いて眠れば、きっと安らかに眠れましょう」


 極はあっけにとられていたが、間人にせかされて仕方なく衣を脱ぎ始める。すると、間人も衣を脱ぎ始めたのだった。

「従兄上もわたくしの衣を抱いて寝てくださりませ。ねっ」

 間人は袍と裳を脱ぐと、素肌にまとっていた小袖を何のためらいもなく脱いで、にこにこしながら極に差し出す。

 極はそれを受け取りながら、夕闇の中に浮かび上がった間人の白い裸体見つめ、息苦しいほどの胸の高鳴りを感じた。

「従兄上、早う…」

「あ、う、うむ」

 極は袍を脱いで差し出す。

「短袴も…早う、早う…」

「えっ、これもか。いや、これはならぬ」

「ええっ、何故にでござりまするか?」

「さ、されば…その、ずいぶん長う穿いておるゆえ、汚いでな…」

「かまいませぬ。従兄上の匂いのする衣がよいのです。くださりませ」

 間人は久しぶりにだだをこねて、素裸のまま極に襲いかかり、無理矢理短袴を脱がせようとした。


「ま、待て、待つのじゃ。分かった、脱ぐゆえ…」

 間人の楽しげな笑い声を聞きながら、極は背を向けて短袴を脱いだ。春先頃から生え始めた陰毛を見られるのも恥ずかしかったし、何よりその時、極の若々しい部分は痛いほど勃起していたのだ。夕闇のおかげでお互いの姿がよく見えないのは幸いだと思った。


「ふふふ…ああ、うれしい…んん…従兄上の匂いがする…」

 間人は極の衣を抱きしめて、顔をうずめながら幸福のため息を吐いた。その間に極は、えもん掛けに掛かっていた着替えの衣を急いで身につけた。


「従兄上…」

 もうほとんど暗闇になった空間の向こうから、愛らしい声が聞こえてくる。

「では、間人は部屋に戻りまする。おやすみなされませ」

「う、うむ、そなたも、よき夢をな」

「あい、きっとよき夢を見ましょう」

 ふいに、白い影がすばやく極にぶつかってくると、彼の体をしっかりと抱きしめた。そして、微かな温もりを残したまま風のように走り去っていった。


 こうして間人は初瀬の館に帰り、月が替わって再び橿原を訪れる日を楽しみに暮らすことになった。ところが、そんな少女の幸福な日々は四日後、突然終わりを迎えることになったのである。



 4 動き出す時代の波 


 その日の昼近く、初瀬の館に葛城の兄皇子が訪ねてきた。何やら思い詰めたような表情で、出迎えた者たちの間をつかつかと歩いて間人の前まで来た。

「間人、すぐに支度をせい。大王がお倒れになった」


 突然の報せに驚き、間人は返事をすることもできなかった。兄皇子は少し語調をやわらげて続けた。

「母上はたいそう心細くお過ごしであろう。我ら兄妹がおそばでしっかりとお支えしなければならぬ」

「は、はい…」

 間人はうなづくと、ともあれ着替えをするために部屋へ向かった。


 父の容体がすぐれないということは聞かされていた。三年前に初めて対面したときも、青白い顔には、深い苦悩が影を落としているように見えた。親子の縁が薄いのは、この時代の皇族のならいではあったが、間人にとって父は、やはり心情的にも遠い存在ではあった。


「ほう、そうしておれば、なかなかのものじゃな」

 間人が正装した姿で現われたとき、兄皇子は意味ありげに微笑んで、ぽつりとつぶやいた。


その日のうちに、二人を乗せた牛車は大勢の護衛の兵に守られて都に入り、近江の弟皇子も少し遅れて二人と合流した。


 舒明帝は意識が無く、息遣いも頼りなげであった。母皇后と三人の子供たちは夜半過ぎまで、帝の傍で見守った後、しばらく休息するために控えの間に向かった。


「これは姉上、皇子たち、ご心痛お察し申し上げまする」

 小さな部屋の中には、皇后の弟軽皇子が彼らを待っていた。極の実の父親である。


 近しい者たちは部屋の中に座り、沈痛な面持ちで黙ったまま床を見つめていた。ただ、軽皇子は、何やら口元に笑みを浮かべながらじっと間人を見ていた。間人はその視線を感じてとまどいながらも、叔父であり、愛しい極の父親でもある人だったので、嫌な気持ちを抑えてじっとうつむいていた。


「のう、姉上、我が元には蘇我の大臣よりの多くの見舞いの品が参っておりまする。いかが処分いたしましょうぞ?」


 皇后はやや不快な表情で弟を見やり、低い声で答えた。

「大王のご快癒のあかつきにお知らせいたせばよい。それまでそなたが預かっておいてくだされ」

「ふふ…はい、そういたしましょう。されど大臣たちにも困ったものじゃ。是が非でも己れの一族の娘を我に嫁がせようと、あれやこれやと品物をおくりつけてくるのでござりまする…」


 軽皇子はそう言うと、皇后の横に座った葛城皇子に話しかけた。

「のう、葛城皇子、わしは大臣の娘を正室にした方がよいのかのう?」

 中大兄皇子はあからさまに不快の感情を顔に表して、叔父皇子に目を向けた。

「さあ、そのような大それたことに答ゆる立場にはござりませぬゆえ、ごかんべんを…」


「うむ…されば我らの一族の中に嫁いでくれる者がおれば、一等よいのじゃが…。どうかのう、そこな妹皇女は…」

「お言葉にはござりまするが、妹は本日都に上がったばかり、まだ右も左もわからぬ幼き者にござりまする。ましてや蛇蝎の住みかのごとき都の…」


 母皇后はあわてて息子を押し止めた。もともと激情型の息子の性格をよく知っていたからだった。

「二人とも控えよ、今はそのような話をする時ではない」


 中大兄皇子は憤懣やる方ない表情で叔父から目をそむけ、軽皇子は冷笑を浮かべながらも大仰に頭を下げた。


 その日の明け方近く、ついに帝は意識を回復する事無くこの世を去った。在位十三年、まだ四十二歳の若さだった。


 中大兄皇子が秘事を行い、それによって自らが世継ぎであることを公にしたのであったが、まだ即位の年齢に達していなかったので、当座の皇位を誰が継承するかについて、群臣による協議が行なわれた。会議はかなり紛糾したが、結局、宝皇后が、当面の間皇位に就くことで折り合いがついた。即位は年が改まってからということになった。


 大王崩御の報せは、激震のように国中に伝わっていった。束の間の平和を享受していた人々は、再び不穏な世の中になるのではないかという不安を抱いた。


 確かに、不安の種となるものは幾つかあった。

 国内では、以前から次代の大王と言われながら、不運な境遇に甘んじている聖徳太子の子である山背大兄皇子やましろのおおえのみこの存在、蘇我氏と旧物部派の豪族たちとの反目、ままならない蝦夷の帰順など。


 また、国外に目を向けると朝鮮半島では、唐の後ろ盾を得た新羅しらぎが旧任那地域を完全に手中にした後、百済・高句麗にもじわじわと侵攻しつつあった。百済、句麗からの亡命貴族は一段と数を増し、朝廷も彼らの処遇に手を焼いている状況だった。


 つまり、本来であれば国内の結束を固め、唐や新羅の侵攻に備えるべき時だったのである。そのことは、もちろん誰もが理解していた。ただ、もともと新羅とのつながりが深かった蘇我氏は、新羅がわが国を侵すことはあるまいと、たかをくくっているところがあった。

 それに対して、唐の留学生からの情報や百済の亡命貴族たちからの情報を熱心に集めていた中大兄皇子、中臣鎌足など、少数の改革派の豪族たちは、一刻も早い中央集権的律令国家の建設と、そのための蘇我氏打倒へ向けて結束を固めていったのであった。


 さて、大王崩御の報せを受けた久米の館では、すでに心積もりはできていたので、皆冷静に事態を受けとめた。

 当主穂足は十月の初めのある日、一族の者を館に集めて、今後のことについて協議した。


「…以上じゃ。おのおの当初の計画に従うておのが役割をしっかりと果たすように」

すでに今後の一人一人の役割については確認済みだったので、一同はさっと平伏し、協議は短時間で終わった。


「さて、次じゃ…」

 穂足はそう言うと、末席に座っていた極に目を向けた。

「皇子、こちらへ御座れ」

 穂足が公の場で極のことを「皇子」と呼ぶのは初めてのことだった。

極が何事だろうという顔で傍に来ると、祖父は自分の場所に極を座らせてから、一歩退いて両手をついた。それにならって、他の者たちも平伏する。


「皇子、よくぞ今日まで堪え忍んでこられました。世を欺くためとはいえ、これまでの我らが非礼、なにとぞお許しくださりませ」

「じ、爺様、なにをおおせられまするや。一体、これは…」


 祖父は優しく微笑んでうなづき、さらに続けた。

「すでに、かねてより我ら一同で話し合うていたことじゃ。皇子、今日よりはそなたがこの久米の主。我らは何事もそなたの差配に従うていく。さあ、皆の者にお言葉を…」


 極にとっては思いもかけない事態で、何をどう話せばいいのか見当もつかなかった。ただ、とっさにひらめいたのは、かねてから考えていたことで、いつ祖父に願い出ようかと思案していたある計画だった。


 極は、祖父をはじめ一族の者が注視する中で、思いつくままにこう言った。

「方々に申し上げまする。この極、ご覧の通りの若輩者にござりますれば、久米の主を努めてゆくには、まだまだ力不足にござりまする。されば、この後も爺様を中心に、何事も合議ごうぎによって取り決めて参る所存。ただ、久米の主として、せめて都に出て、時世の動きをお報せできれば、と考えておりまする。この議、なにとぞお許しいただきとうお願いいたしまする」


「ははっ」

 穂足が平伏し、他の者も一斉にそれにならった。


 こうして、久米の若き当主となった極は、間人に遅れること一月、いよいよ暗雲渦巻く飛鳥の都に、そして歴史の表舞台に出ていくことになったのであった。


 例年より早く大和盆地に霜が降り、木々は一斉に紅葉を始めていた。

 橿原の館を後にした極は、祖父のいいつけに従って、まず、山田の里に蘇我倉山田石川麻呂そがのくらやまだいしかわのまろを訪ねた。供は、幼い頃から本当の兄弟のようにして育った従兄の春通、叔父である久米田彦麿くめのたひこまろ、下人三人という少人数だった。


「おお、ようござったのう。うむ…穂足殿が自慢するだけあって、なかなか凛々しき若者じゃ」

 石川麻呂は気さくな態度で極一行を迎え、大いにもてなしてくれた。


 今をときめく蘇我一族の一人でありながら石川麻呂は領地である山田の里で、欝とした日々を過ごしていた。

 もともと武骨で、裏工作とか駆け引きとかいうことが何より嫌いな性格だった。そのため、蝦夷えみし入鹿いるか親子とは折り合いが悪く、彼らから疎まれる存在だった。一方、極の祖父穂足とは気が合い、年に何度か互いの館を訪問し、酒を酌み交わすことを楽しみにしている間柄だった。


「穂足殿の書状には、そなたをいとやんごとなき血脈のお方と書いてあるが…人に言えぬ事情があるは、今の世の人の習いじゃ。よかったら、そなたの身の上を聞かせてもらえまいか?」

 宴会が終わり、極たち一行が挨拶をして寝所に引き上げようとしたとき、石川麻呂は一行を呼び止め、密かに自分の部屋に招き入れた。そして、彼はいかにも興味深気に、十四歳の若き久米の当主に尋ねた。


 付き人の春通は、極が答える前に両手をついて平伏しながら言った。

「恐れながら、申し上げまする。我が主は、まだかくのごとき若さゆえ、自らの身を守ることおぼつかなく、従者も我ら二人のみという心細き身の上でこざりますれば、今はただ力ある方々のご厚情におすがりするよりほかになく…」


 石川麻呂の顔に、むっとした不興の色が現れるのを見た極は、そこで春通を手で制し、居ずまいを正して石川麻呂に言った。

「大殿におかれましては、ご不審のこと、もっとものことと存じまする。されば、我が身の上のことお話いたしまする」


 極の言葉に春通と田彦麿は驚き、内心、これで命の保障はなくなったとほぞをかんだ。

「我が亡き母は久米穂足の娘にて、名を綾女。父は宝皇女の弟君、軽皇子と聞いておりまする」


 それを聞いて、石川麻呂の顔は瞬時に青ざめ、固くこわばった。

「なんと…それがまことならば、そなたゆくゆくは皇位を受け継ぐ者となるやもしれぬのじゃ。それはおわかりかの?して、何か証になるものはお持ちか?」


 極は、赤子の頃から肌身離さず首から下げていた守り袋を取って、石川麻呂に差し出した。

「それは宝皇女様より賜ったものと聞いておりまする。中には伊勢の御社の護符と皇女様御手ずからの、我が名を記した紙が入っておりまする」


 石川麻呂は、そのやや古ぼけた美しい錦織りの袋をじっと見つめながら、深いため息をついた。

「ううむ…いや、これを見るまでもなく、そなたがただならぬ生まれであることは一目でわかった。じゃが、これからが難儀じゃぞ。これは、そなた次第で身を守る袋ともなれば鬼を産み出す袋ともなりうる。心しておくことじゃ」


 石川麻呂の手から守り袋を受け取りながら極は明るい笑みを浮かべて答えた。

「はっ。されど、われには大望はござりませぬ。まずは久米の家を守ることを第一とし、身の上は生涯明かさぬ所存にござりまする。大殿におかれましても、なにとぞその旨、お知りおきくださりますようお願いいたしまする」


「そうか…うむ、ようわかった。されば、わしもそなたを久米の後嗣こうしとして遇し、後ろ盾となってゆこうぞ」

「ははっ、ありがたき幸せに存じまする」


 石川麻呂は少年の誠実さに打たれ、さらにこう尋ねた。

「そなたの素性を知っておるのは、久米の者とわしの他に誰ぞおるのか?」

「はっ…さきほど申し上げたとおり、わが名極は宝皇女様より下されたもの。されば、皇女様はご存じかと。また、皇女様の御息女、間人皇女様と佐伯連の方々もご承知にござりまする」


「ふむ…されば、皇后とその御子たちは知っておるのじゃな。とすれば、後々二人の皇子にとって、そなたは目障りな者となるであろう。よくよく気をつけるがよいぞ。ふむ…さすれば、そなたを山背大兄皇子のもとへ舎人とねりとしてつかわそう。山背大兄皇子は、亡き厩戸太子の御子にて、人望厚きお方じゃ。きっと、そなたを悪しき者の手よりお守りくださるであろう」


 動乱の渦中に身を投じた少年皇子にとってこの蘇我石川麻呂との出会いは、大きな幸運であった。

石川麻呂は賢明で、情に厚く、この後も極の窮地を幾度も救ってくれる恩人となる。ただ残念なことに、大化の改新の五年後、いわれのない反逆の罪を着せられ、大海人皇子らによって殺されるのだが、この動乱の時代にあって誠忠を貫いた硬骨漢であった。


 さて、極一行は石川麻呂の口入りで、山背大兄皇子のもとに舎人として入館した。この山背大兄皇子との出会いも、極にとっては第二の幸運であった。皇子も聡明篤実な人で、極の素性とそのつつましやかな希望の旨を知ると、大いに感動して、極を可愛がってくれたのである。

 皇子は極を養子として朝廷に届けを出し、「近江彦龍皇子おうみひこのたつのみこ」という名を与えた。そして、都に用向きがある時は、常に極をそばに随行させ、また僧旻みん南淵請安みなみぶちのしょうあんの私塾へ通わせて、仏・儒の教えや大陸の最新の情報・知識を学ばせてくれたのだった。


 当時、こうした私塾には皇族をはじめ、豪族の子弟たちが集まり、大いに学び、議論を闘わせていた。中大兄皇子、大海人皇子、中臣鎌足なかとみのかまたり、蘇我入鹿など歴史の立役者たちが一同に顔をそろえていた中に、極も入っていき大いなる刺激を受けたのだった。


 中大兄皇子は、まだ極と直接会ったことがなかったので、顔を知らなかった。極も近江彦という名で通っていたし、なるべく目立たないように言動を謹んでいた。

 ところが、霜月も半ばのある日、二人が直接顔を合わせるきっかけとなるできごとが起こった。それは南淵請安の塾でのことである。


 請安はその日、生徒たちに「唐の律令をわが国にどう採り入れるか」という題で討議させた。多くの者が、唐の律令制のすばらしさを讃えその制度をそのままわが国に導入すべきだと意見を述べた。

特に、中大兄皇子はその意見の熱心な信奉者だった。ところが、二人だけがこれに反対する意見を述べたのである。一人は紀連古麻呂きのむらじこまろ、もう一人は近江彦龍皇子、つまり極であった。


 極は、唐の律令制がよく整っていることを認めた上で、こう付け加えた。

「わが国は唐と違い、村々の数は少なく、民の生活は極めて貧しきものにござりまする。今、唐の制度をそのまま取り入れたれば、民の苦しみはいよよ増し、国を支ゆる土台が崩るるは必定。されば、わが国のなすべきことは、まず、国を支ゆる民の力を強うすることと考えまする。田畑を増やし、民の暮らしを豊かにすれば、おのずから国の力は強まるでござりましょう」


 十四歳の少年の、生意気ともとれる発言に他の生徒たちはいっせいに驚きと反発の目で極を見つめた。

 特に眉をひそめたのは、中臣鎌足だった。彼は、少年の言ったことが正論であることを知っていた。ただ、これから中大兄皇子に取り入って、政治の中枢に進んで行こうと思っていた彼にとって、それは唾棄だきすべき考えであったのだ。


 一方、中大兄皇子は、自らの考えの未熟さを指摘されて恥辱と感じながらも、新しい世界観に目を開かれるような感動も同時に味わっていた。

「鎌足、あれは…?」

「はっ、山背大兄王の御子にて、近江彦皇子にござりまする。何もわからぬくせにあのような知ったふうなことを…」

「ふふ…なかなか面白い奴。もっと話を聞きたいものじゃ」

「あ、はっ…まあ、ひねくれ者にはこざりまするが、面白い男ではありまするな。」


このことがあってから、中大兄皇子と鎌足はときどき極に声をかけ、親しく話をするようになったのであった。



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