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8話 悪役令嬢は第二王子に壁ドンされる

 夢を、見た。

 前世の夢だ。

 毎日会社に行って、帰ってきたら友達とアニメ見てゲームして、そんな何の変哲もない日々。

 何もなかったけど退屈ではなかった。

 愛しい日々。でも失った。なんのきっかけもなく唐突に。

 もう、戻ることはできない──。


 …………


「おはようございます、お嬢様」


 目を覚ますと、ベッドの天蓋が目に入る。

 ライラがベッドの傍らでコップに水を注いでいた。


「……あれ? 何か、悲しい夢でも見たのかな?」


 思い出せないけど頬を涙を伝っていた。

 今日は、入学式だ。

 早く着替えて学校に行かないと。









 通学路を歩く。

 同じ制服を着た人たちが寮から学校までの短い道をぞろぞろと歩いている様子は、どこか昔を彷彿とさせるようだ。男子はブレザーのようなものだが、女子はもっと華やかでところどころにフリルなどがあしらわれたドレスに近い仕上がりになっている。社交界一歩手前のような場所だからか、男子は礼を女子は華を重視されたデザインだ。

 しかし、社会人になったときはこの後また学校に行かないといけなくなるなんて思いもしなかったなぁ……


「お。おっす」


 誰が声をかけてきたかと思えば、ラグナだ。

 さっそく制服を着崩しているあたり不良っぽい。


「おはよう、ラグナ。メイは一緒じゃないの?」

「学校まですぐだ。わざわざ顔つき合わせて登校って距離でもないだろ。女子寮で待ち伏せとかいろいろ面倒そうだしな」

「確かに。ラグナは女子に囲まれそうだし」


 ラグナも顔がいいから、女子の群れに放り込んだら出られなくなるに違いない。

 目つきが悪いところとか、刺さる人には本当に刺さるしね。


「ま、俺モテるからな。あんまりメイと一緒にいても迷惑かかるだろ」

「ふーん。私ならいいんだ?」

「あんたはいじめられるタイプじゃねえ。むしろいじめる側って感じだ」

「一言多いってば!」


 確かに悪役令嬢にふさわしいデザイン……じゃなくて、見た目してるけど!

 ラグナほどじゃないけど目じりが吊り上がって目つきも悪いし……ちょっとしたコンプレックスである。


「悪い悪い。もう着いたな」

「私、先にいろいろ挨拶とかしないといけないから」

「そうか。じゃあまたあとでな」

「ん、またね」


 ラグナはそのまま、入学式を行うホールへと向かっていった。

 ゲームではもっとガサツだと思ってたけど、意外としゃべってみると話しやすい。

 多分、ゲームではメイの一人称が常だったからだと思う。

 友達と幼馴染という距離感の違いが、ラグナの見れる一面を変えているのだろう。

 結構しっかり者に見えるが、生活感のなさのあまりメイになにかと世話を焼かれるキャラでもある。

 もともと付き人をつけていなかったことを考えると、もしかしてあの制服は着崩したのではなく、そもそも着れていなかっただけかもしれない。

 

 と、そんなことを考えている場合じゃない。

 私はみんなとは違う、校舎の中にある職員室へと足を向けた。









 うん?

 おかしい……どうしてこうなった?

 どうして私は廊下の壁に背中を合わせているわけなんだろう?

 というか、なんで……目の前にこんなイケメンが?


「綺麗な髪だ。強気さが見える貌によく似合う。背も高いな。口づけをするときにかがまずに済みそうだ」

「え……え?」


 耳元でささやかれるたびに背筋がぞわぞわする。

 何これ……何これ!?

 私の顔の横に腕が伸びている。

 後ろには壁。

 そして目の前には、まぶしいくらいのイケメン──。

 私今、壁ドンされてる!?


「俺は今忙しい。が……お前なら後で時間を作ってやろう。どうだ?」

「いや、あの……」

「そこまでにされたほうがよろしいかと」


 突然、声とともに誰かが彼の腕をつかんだ。

 エドだ。

 それも、表面上は笑顔で取り繕っているが私にはわかる。

 すっっっごい怒っている。

 

「逢瀬の最中、失礼します第二王子殿下(・・・・・・)。ですが、もう少し配慮を覚えたほうがよろしいかと。少なくとも時と場所くらいは」

「……誰だ貴様? 下から引っ張ってくれるな、服が伸びるであろう」

「エドアルドと申します。一年生同士、以後お見知りおきを」

「そうか。だが家名を名乗らぬとは貴様も礼儀を覚えたほうがいい。もう少し礼儀をわきまえれば、俺に口出しをする愚かさも理解できるだろう」

「存じ上げております。ですが、隣国の姫君を場所をわきまえず口説かれる王子の姿を見かけ、ご忠告差し上げないのが忠義でしょうか?」

「隣国の……姫君だと?」

「彼女はシアン・ミラ・マーテラ様。マーテラ国の第二王女にあらせられますので」


 イケメン……クリスナー国第二王子、アベル・ディ・クリスナーが意外そうに私を見た。


「なるほど、それは失礼した。私はアベル・ディ・クリスナー。突然にお誘いしてしまい申し訳ない。だが、貴女の見目麗しさを私なりに評価してのこと。許されよ」

「え、ええ。少し混乱しましたが、不快に思ったわけではありませんので、お気になさらず」


 私はぎこちない笑顔で返す。

 まだ突然イケメンに言い寄られた胸の動悸が収まっていないのだ。

 お構いなしといわんばかりにアベルが言葉を続ける。


「なるほど。普通の生徒ならばホールに向かうところ、こんなところにいるのはそういうわけでしたか。隣国からの使者として入学式で挨拶をされるのですね? ということはそこの……エドアルドもかな」

「ええ、第二王子殿下(・・・・・・)。私は新入生代表となっていますので」

「新入生代表? おお、お前が噂の天才平民か! なんでも入学の折に受けるテストで、戦闘以外のすべてを満点で飾ったという! であれば、家名を名乗れなどと礼を失することを言った。許せ。そして忠言感謝しよう」


 あっさりと謝罪するアベル。

 傍若無人に見えて性格は竹を割ったようにさっぱりとしている。

 金髪金眼は王家の証。片方を備えることはあっても、両方を備えるのは王直系の血筋のみだ。例えばメイの瞳は青い。

 間違いない。この男があの、ゲームのアベルだ。

 そして、私が最も警戒していた相手──!


「さて、時間をとらせてすまなかった。エドアルドもシアン殿も、この後の準備がある。疾く向かおうではないか」


 そう言ってアベルは嵐のように去っていった。

 お付きの従者が、ぺこりとこちらに小さく頭を下げる。

 私は気が緩んで、腰が抜けそうになった。

 ところを、エドに支えられる。


「お嬢様! 大丈夫ですか」

「ありがとう、エド。いや……いきなりのことで、びっくりしちゃって」


 笑って見せるが、それは力のないものになってしまってかえってエドを心配させたようだった。

 しかし、タイミングも悪かった。

 今からお世話になる学び舎に挨拶に参るのに従者をつけては失礼ではないかと、念のためにライラを外させていたのだ。

 エドが来てくれなければどうなっていたか……


「そうだ、エド。主席なんだって? すごいわね」

「いえ、まだまだ精進しなくてはなりませんから。お嬢様も、制服が良くお似合いですよ」

「もう、お嬢様は禁止だってば」


 二人で笑いあう。


 しかし、入学式が始まるまえからとんだ誤算だ。

 第二王子ルートはシアンに一目ぼれところから始まるから、遅かれ早かれこうなることは予想できていたのに……

 まさかこんなタイミングで壁ドンされるとは夢にも思わない。


「もう大丈夫だわ。行きましょう」

「ええ、シアンさん」

「そういえば、さっきエドすっごい怒ってなかった?」

「……気のせいだと思いますよ」


 エドがにこりと笑顔を見せる。

 多分気のせいじゃなかったと思うんだけど……言いたくないのに聞き出すほど無神経じゃない。

 私はエドの手を取って、アベルの後を歩いて職員室へと向かった。



壁ドンって一周回ってあんまり見ない気はする牛蒡です

今日も読んでいただきありがとうございます! 毎日やばいですがぎりぎりで毎日投稿を継続しています……!

毎日その日思いついたことを書いているので後付け設定の整合性にとらわれています。

メイの瞳の色……どっかで書いたっけ……

金髪金眼は王家の証とかその場ではやしたのでとても困りました


よければブックマーク評価よろしくおねがいいたします!

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