Prolog
─── そう、始まりは一通の手紙からだった。
朝は朝食の支度をしている母さんの代わりに、玄関横の門柱に備え付けられた壁掛けのポストから郵便物を取ってくるのが俺の日課だ。
「 ねみ、」
ふぁぁ…と込み上げて来る欠伸を盛大に一つ零しながら向かう先は玄関。外に出て実際肌で感じる温度は家の中とはまた異なり暑過ぎず寒過ぎず。柔らかく照らす春の陽射しが丁度心地良い。
ポストの蓋を開け中を覗くと色々入っていた。まずはお目当ての新聞。後は近所に新しく出来たラーメン屋のチラシだったり、選挙活動に来た人のフレイヤーだったり それから ……
「 ん?」
奥にまだ何か入っている。他の物に紛れてよく分からなかったけど。それは、取り出してみると 一通の封筒だった。奇妙な事にその封筒は黒い色をしていた、おそらく白インクで書かれたのだろう偉く達筆な文字の示す宛名は ──
── 佐久間 優羽 様 ──
「 オレ宛 … ? 」
そう、佐久間 優羽は俺の名前だ。裏面にひっくり返してみても何の情報も無い。つまり差出人不明というやつだ。
「 まさか、今どき不幸な手紙とかいう類のやつじゃないだろうな 」
中の手紙も気になるものの、今は取り敢えず郵便物を母さんに届けるのが先だろう。そう判断した俺はポストの蓋を閉めて、段々と香ばしい匂いが立ち込めて来た食卓へと向かうのであった。
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「 さて、と……。」
朝食を済ませ、まあ 手紙の事も気になってやや早めに切り上げて来たのだが ── 今は自室。手には問題の手紙が一通だけ。もしかしたら先程見逃した情報があるのかもと改めて封筒を、今度は念入りに確認してみる。
色が黒い事を除けば形状は至って普通。重さも重くなく、寧ろ一般的な手紙に比べて軽い方…なのかもしれない。封筒を閉じている赤いシール( ? )は見た事もない模様、のような何かだった。
「 特にさっきと変わったところも無いけど……じゃ、まあそろそろ中身を見てみますかねっと 」
特にそれらしい情報は見当たらない。一通り封筒を眺めた後、いよいよ中にある手紙を読んでみようと シールに手を掛ける。得体のしれないその手紙を開けるか否か一瞬躊躇するも、思い切って封を切ってみた。
「 …って、開けたらドカンって爆発はしねぇよな流石に。」
つうっと嫌な汗が一つ頬を伝うのを感じながら、中の手紙を、手紙を、
「 は…?これってカード? 」
中身は厳密に言えば手紙では無かった。ポストカードより少し小さめのカードが一枚、これもまた封筒と同じく黒を基調とした色だった。
カードに書かれていた肝心の内容はというと
── 今夜、時計の双針がぴったり重なる頃、お迎えに上がります ──
「 悪 戯 か よ !!!」
脱力しきったように椅子からずるずると崩れ落ちた。なんかどっと疲れた。
「 誰だか知らんけどこんな手の込んだ悪戯仕込みやがって。もーちょい他の事に頭回せっての 」
なんて誰に向けるでも無い、強いて言えばこの手紙の差出人の顔の見えない誰かだろうか ── に愚痴を零しつつ、役目を終えた手紙はもれなくごみ箱へと放り投げられるのであった。
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???
「 やっと、やっと会えるね…ユウ君。」