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第三章 首なしの騎士はふたたび訪れる その1


  1


「……来た」


 玄関ホールの中央階段に座していたアリアバードがその気配を感じたのは、デュラハンが屋敷に剣先を向けた瞬間と同時だった。


 アリアバードは即座に立ち上がって玄関の扉の近くに張り付くと、窓の外へ視線を送る。敵の位置を確認した瞬間、重要なことに気がつくとキサマに抗議した。


「キサマ。デュラハンが馬に乗っているなんて、聞いてないぞ」


「馬付きなのですか?抗議をしたい気持ちはわかりますが、私だって知らない情報は伝えようがありません」


 キサマはアリアバードの八つ当たりを冷静に受け流す。そして、即座に戦術を変えることを宣言した。


「馬槍突撃をされると厄介ですので、一度『強化施錠』をかけます」


 言うや否や、即座に玄関扉に魔法をかけた。


 直後。


 デュラハンが突撃をかけたであろう音が、玄関扉から轟いた。だが『強化施錠』が施された扉は、すぐに破られることはない。


「ヴィルヘルム卿。玄関扉を破壊することになってもよろしいでしょうか?」


「構わん。いずれデュラハンが扉を打ち破る。なら、ダメージを与えられる方がいい。何やら策があるのだろう?」


 玄関扉からの衝撃音は続く。


「策というよりは力押しですが」


 キサマはどこからともなく紫色の宝珠が付いた短杖を取り出すと、詠唱を始めた。


「万物の根源たる揺らぐ弦よ。紫電となりて我が短杖に集え……」


 宝珠の周囲に紫電が集まりだすと、少しずつ規模を増していき、人間の頭部の大きさを優に超えた。そして『強化施錠』を施された扉が限界の悲鳴を上げたタイミングで、さらなる詠唱を続ける。


「目的地は向こう側。扉の先のさらに先。阻むものは全て巻き込め!」


 キサマは紫電を纏った短杖を大振りに構えると、投擲をするように一気に振り下ろした。


「『紫電の閃撃』!」


 振りかざされた短杖の先端から、紫電がほとばしる。それは弱り切った玄関扉を打ち破り、その向こうにいたデュラハンと首なし馬を貫き、さらに先の森の木々の一部を焦がした。


 『紫電の閃撃』を浴びせられたデュラハンは、その肉体を燻らせながらも平然としているように見えた。首なし馬は弱って見えたが、その脚を大地に屈することはなかった。


 デュラハンは、自分に攻撃を加えたキサマに敵意を向ける。そして、一気に駆け出した。


 詰められる距離。


 館内への境界を突破される。


 もはやキサマとの間を阻むものはない。


 だが。


 デュラハンの突撃は止まった。もちろんデュラハンの意思ではない。


 アランがその盾と纏った鎧で立ちはだかり、キサマが貫かれることを阻んだのだ。


 つかさず、ヴィリーが魔法の両手剣で首なし馬に向かって斬りかかる。


 声を発することがない首なし馬が悲鳴を上げるように、頭部――にあたる部分――を仰け反らせた。


 さらに首なし馬に打撃が加わった。


 アリアバードの青白く輝く拳が首なし馬の腹部に叩き込まれたのだ。


「『滅却』」


 アリアバードに打撃を加えられた部位が青白い輝きを帯びる。その輝きは光の粒子と化して広がり、首なし馬を崩壊へと導いていく。


 首なし馬が消え去りきると、デュラハンはその足で地を踏み付けることになった。と同時に、愛馬を消し去ったアリアバードに向かって長剣を振り下ろす。


 アリアバードは軸回転のような動きで右半身を後ろに下げると、デュラハンの長剣を僅差で回避する。そして、すぐさま左斜め後方へ飛んだ。直後、アリアバードが立っていた場所で、デュラハンの二撃目が空を斬る。


「これで当初の予定に戻った……かな」


 アリアバードは柔和ならざる笑みを浮かべた。

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