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第二章 事情と思惑 その1


  1


 翌朝。


 季節がら遅めに現れた陽射しより、さらに遅めの時間に目覚めたアリアバードは、唯一にして最大の疑問を解消するためにハイラントへ帰参することを決めた。


 ヴィリーとキサマに黙って行動を起こすのは余計な詮索を生むと思ったので、彼らが現れるまで宿の朝食をとりながら待つことにした。


「明日、朝食が終わるころに、また此処に来ます」


 と、キサマは言い残したからだ。


 ライ麦多めの黒っぽいパンと目玉焼きと少々の野菜という一皿を食べ終わり、コーヒーを飲み始めたところで、ヴィリーとキサマは現れた。


「相変わらずの簡素な朝食だな」


 ヴィリーは、食べ終わった後の食器を一瞥して、言った。


「朝食なんて、こんなものさ。神学校の頃もそうだったろ?温かいのがありがたいくらいだね」


「おはようございます。昨日の夢見は如何でしたか?」


「残念だけど、覚えてないね」


 アリアバードは肩をすくめた。


「僕は、一度ハイラントへ戻る。キサマ、大金貨を両替できるかい?金貨だけでいい」


「できますが、『門』を使うなら、私が『瞬間移動(テレポート)』してもいいですよ」


「個人的な用件だ。そのくらいは自腹を切る」


「そうですか」


「俺が金貨を出してもいいぞ」


 ヴィリーは、好感度を稼ぐチャンスと言わんばかりに、身を乗り出した。


 だが、アリアバードは、塩対応という表現がふさわしいくらいの素気なさで、申し出を断った。


「お前への借りは、別の意味で見返りが高く付きそうだから、嫌だ」


「借りられるときに借りるというのは、悪いことではないと思いますよ」


 キサマは、祓魔師と貴公子の関係性を無視して、表向きは反論の余地なき正論を語る。


「キサマ。お前はどっちの味方だ」


 問いかけと睨みつけを同時に行ったアリアバードに、キサマは悪びれることもなく、言い切ってみせた。


「もちろん。不利な方の味方です」




 かつて邪竜アトゥムが、勇者アクィナスとその仲間たちに倒されたとき、断末魔として大地に腐敗の毒を撒き散らした。邪竜の呪いである腐敗の毒は大地を侵食し続け、生命はわずかな時間ですら存在することができなかった。


 この危機に“至高神と融合せし”シャシクマールが、地母神とともに浄化の儀式を行って世界を救い、そして息絶えた聖地ハイラント。


 法王府は、その聖地に鎮座している。


「どうして騎士じゃなくて、祓魔師の僕なんですか?」


 アリアバードは養父でもある上司に、質問をぶつけた。それが彼にとっての最大の疑問点だったからだ。


「皇帝陛下に御子が居らず、皇嗣も定まっていないことは、お前も知っているな」


 カシウスは、諭すように話を始めた。


「皇帝陛下が即位して16年。皇帝陛下自身がいかに現役であることを願い続けても、いずれは帝位を譲らねばならぬ」


「次弟殿下か、末弟殿下か」


「次弟ヘルベルト殿下に譲れば、その息子イザーク殿下がいずれ帝位を得る。マリウス殿下は、母君の出自の低さが貴族たちに問題視されている」


「将来の悪帝を心配するか。卑き身分の風下に立つか。それが問題だ。ですか」


「どちらが登極しても、ハイラントは中立を保ちたい。それが法王猊下の意思だ。だが、先般、ヴィルヘルム卿とイザーク殿下が一悶着おこしたのは、知っているな」


「当事者から聞かされましたから」


「その件で、ランチェスター侯爵家は、貴族の間でマリウス殿下派と思われている。ハイライトとしては騎士を派遣することで、デュラハン退治は建前で実際はランチェスター侯爵家、延いてはマリウス殿下に肩入れしているのではないか、と思われたくないのだよ」


「デュラハン退治は事実ですし、正々堂々としていればいいじゃないですか」


「我々が正々堂々としていても、相手の見方が歪んでいれば、その認識も歪む。この世の真理のひとつだな。そこでお前だ」


 なにが、そこでお前だ、なのだろうとアリアバードは思った。


「お前は騎士ではなく祓魔師だから、ヴィルヘルム卿が雇った一冒険者として誤魔化せる。あるいは、友情に厚いお前が個人的に馳せ参じたことにしてもいい」


「つまり、ハイラントは関与していない。と言い張る気ですね」


 それが建前とはいえ、トカゲの尻尾と位置が変わらない。


「話が早くて、助かるよ」


 カシウスは、アリアバードの理解力に賛辞を示しながら、同時に謝罪の言葉も口にした。


「すまないな。政治的なゴタゴタは騎士や祓魔師の職務には関係ないのにな。手ぶらで行かせるわけにもいかないから、これを持っていけ」


 カシウスが懐から取り出したのは、宝飾品としての加工がされていないダイヤモンドだった。


「『聖なる光の結界』に触媒として使うといい。効果が高くなる」


「……わかりました。ありがたく頂きます」


 アリアバードはダイヤモンドを受け取ることで、任務受諾の意思を改めて示したのだった。

字数制限で

ルビが振れなかった単語



ライ麦多めの黒っぽいパン(ロッゲンミッシュブロート)


聖なる光の結界 (サークルド・ホーリーライト)


2022.08.23追記

 未登場の他のキャラクターとの兼ね合いから

「皇帝陛下が即位して18年」

→「皇帝陛下が即位して16年」

に変更しました。

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