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第四章 森の隠者と見知らぬ少女 その2


  2


全てに内在せし神(ナーラヤナ)として、我は命ずる。傷よ、塞がれ」


 突如現れた銀髪赤眼の青年は、アリアバードを一瞥するなり、即座に治癒魔法を使った。螺旋に広がる緑色の輝きがアリアバードを包みこむ。


 服の上からでは、よくわからなかったが、アリアバードの出血が止まったように見えた。


「誰だ、お前は?」


 ヴィリーが警戒しつつ問いかける。


「はじめまして。僕の名前は、フェリックス。見ての通り、通りすがりのただの行者」


 行者とは、法王府や冒険者ギルドなどの団体に所属せず、村の鎮守としても活動しない神官たちのことである。


 銀髪赤眼の青年がにこやかに名乗っても、ヴィリーもキサマも表情を弛めることはなかった。


「ただの行者と言われても、そのような胡散臭い挨拶をされると、警戒せざる得ませんね」


 キサマは短杖を構える。


「君たちの友人を助けた僕は、味方になるはずだと思うけど」


 銀髪赤眼の青年は、黒衣の魔術師の警戒を無視して笑みを浮かべた。そして、アリアバードを指差す。


「そのハイラントの青年は、いま『神々の眠り』に入ったから、しばらくのあいだ目覚めることはないよ。食事を取ることもないけど大丈夫だから、目覚めるまで、ほっといていい」


 アリアバードは穏やかな表情で寝息を立てていた。


「『神々の眠り』とは何だ?」


 ヴィリーは銀髪赤眼の青年に向かって問いかける。


「魂の状態になって天界へ行き、神々の教示を受けることです。そのあいだ肉体は無防備ですので、然るべきところに安置しなければなりません」


 ヴィリーの疑問に、銀髪赤眼の青年ではなく、黒衣の魔術師が答えた。


「ですが、一般的な行とは言えませんね。少なくとも法王府では行われていないです」


 キサマは、銀髪赤眼の青年を見据えながら、付け加えた。


「シャシクマールが、如何にして至高神と融合したのか。彼の40日に及んだ行は何だったのか。ハイライトはきちんと伝えるべきだね」


 銀髪赤眼の青年は嘆息する。


 シャシクマールとは、ハイラント初代法王の師であり、世界を邪竜の腐敗の毒から救ったもうひとりの救世主である。


「このハイラントの青年に伝えてほしい。森の奥で待っている。雪が融ける頃に訪れるといい。と。もちろん君たちが同行しても構わない。少なくとも、彼一人であることはないだろうね」


 銀髪赤眼の青年は、そう伝えると、その場から去ろうとする。


「待て。おまえの目的はなんだ」


 ヴィリーが呼びかける。


 その問いかけに、銀髪赤眼の青年は立ち止まって振り向く。


「最初に言ったよ。森の端が騒がしいから、気になったって」


 青年の答えは要点をはぐらかしたものだった。そして二人に背を向けると、左手を挙げて左右に振り、その場を去った。


 ヴィリーとキサマは去り行く青年に問い質したいことがあったが、気を失ったアリアバードに然るべき処置をすることが優先事項だったので、青年のことを気にするのを辞めたのだった。




「……というわけですが、『眠り』の間の神々の講義は如何でしたか?」


 キサマの問いかけに、アリアバードは戸惑った。たったいま知った衝撃の事実だったからだ。


「何も覚えてないよ。覚えていたら、嬉々として答えているさ」


 覚えていないことを考えても仕方がないので、別の気掛かりについて尋ねることにした。


「それにしても何者なんだろうね。そのフェリックスという青年」


「行者。と名乗っていましたが、どこまで本当やら」


 キサマは肩をすくめる。


「お前は、どう思う。実際に会っているだろう?」


「明確なウソはついていないでしょう。ただし、すべての真実を語っているようには聞こえませんでした」


 自身が感じたことを率直に語るキサマであった。


「ところで、ヴィリーはどうしてる?」


 アリアバードは、ふと思い出したように家主について尋ねた。


「当主ともども帝都に移動しましたが、ヴィルヘルム卿は公務に専心しているはずです。場所が変わっても、貴族の日常に大きな変化はありませんよ」


「そうか……僕も法王府に出頭しないとな」


 アリアバードは、ベットから足を出して立ち上がったが、すぐによろめいてしまった。


 それを見たキサマが、すぐにアリアバードを支える。


「1ヶ月は眠り続けていたのです。目覚めたとはいえ、もうしばらく身体を休めていなさい。あなたが目覚めたことは、私からカシウス枢機卿に伝えておきます」


「わかった。よろしく頼むよ」


 アリアバードはベットに腰を掛けると、キサマの忠告を素直に受け入れたのだった。

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