第三章 首なしの騎士はふたたび訪れる その3
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ヴィリーの剣撃が唸る。
アランが仲間を庇いつつ追撃を与える。
キサマはストーン・サーヴァントをけしかけながら、『火炎障壁』でデュラハンの進路を制限していく。
デュラハンは、それらの攻撃にダメージを喰らいながらも、反撃の手は緩めない。
アリアバードは味方のダメージ軽減と治癒回復に腐心する。
そして足元には、デュラハンに砕かれたストーン・サーヴァントの欠片が散らばる。
そのような応酬を繰り返しながら、アリアバードたちはデュラハンの障壁を削り取っていく。
「これならどうでしょう」
キサマが呟くと、周囲の『火炎防壁』から宝石のように輝く炎の粒が湧き起こった。炎の粒はデュラハンに向かって吸い込まれるように動き、爆散霧消する。
最後の障壁が黄土色の光と共に砕け散った。
次の瞬間。
デュラハンの背後からアリアバードが奇襲をかけた。ローキックでデュラハンの右脚を狙う。『滅却』で削り取り、動きを封じるつもりであった。
そうはさせじと、デュラハンは右手に持つ剣を裏拳の要領でアリアバード目掛けて振るう。
アリアバードは、すぐさま蹴りを空振りの動作に切り替えると、下方から振り上がるようにやってきた斬撃を潜るように躱す。頭髪が僅かに宙を舞った。
アランが盾でデュラハンに突撃をかける。一瞬、デュラハンの動きが止まった。
ヴィリーの剣撃が、ついにデュラハン本体に届いた。両手剣が肩を斬りつける。デュラハンの左肩に裂け目ができた。だが、頭部を抱える左手は微動だにしない。そして痛みを感じる素振りも見せず、切り傷を冷静に無視して反撃する。
ヴィリーは籠手を使って、デュラハンの剣撃を受け流して捌く。
デュラハンの左肩の裂け目は、少しずつ回復しだした。
「チッ。これだから、アンデットは」
「ですが、完全に回復するわけではありません」
ヴィリーの舌打ちにキサマが慰めをかける。回復速度が遅いのは、アリアバードの『結界』の効果だった。
「そうだな。追い討ちをかけるか」
ヴィリーは、キサマに一瞬だけ視線を送って応じる。
デュラハンの足元に小石が投げ込まれた。デュラハンに砕かれたストーン・サーヴァントの欠片をアリアバードが放ったのだ。
「『聖なる光』」
神聖魔術をかけられた小石は、急速に輝きだす。その眩し過ぎる輝きにヴィリーとキサマは目を薄くする。
数える程ですらない僅かな時間。だが強烈な光。それが徐々に落ち着いてくる。
ヴィリーとキサマが目を開くと、デュラハンの傷の再生は途中で妨げられていた。
「一声かけろ!アリアバード」
ヴィリーはアリアバードに、つい怒鳴り声をあげた。『聖なる光』と、それに続いた一瞬の盲目は、帝都で旅の剣士と神官を取り逃がした時の苦々しい記憶を刺激したからだ。
「声をかける時間も惜しい」
もちろんヴィリーの内心など知る由もないアリアバードは、いつものように惚けた返事をする。
「その程度を惜しむな」
ヴィリーは剣を上段に構え直すと、デュラハンに向かって両手剣を振り下ろした。
デュラハンはヴィリーの剣を弾き返す。
ヴィリーは踏み留まって二撃目を続ける。だが、二撃目は受け流され、ヴィリーはデュラハンの右側に押しのけられた。
アランがデュラハンの左側面から攻撃を仕掛けた。
デュラハンは、ヴィリーを受け流した勢いで身体を右回転させ、アランに向き直る。
デュラハンはアランの剣を弾いた。
だが、二撃目三撃目とアランの剣は止まらない。デュラハンは、しばらく防御に専念することになった。
アランの応酬によって生み出された時間を、キサマは無駄にしなかった。
「万物の根源たる揺らぐ弦よ。黒焔と成りて焼き尽くせ。敵を巻き込め。『爆炎の監獄』」
デュラハンが円形の障壁に包まれた。と同時に、障壁の内側で焔の演舞が巻き起こり、障壁全体を青紫色に染める。
数秒後、青い焔を包み込んでいた障壁が消え去ると、焼け焦げたデュラハンが現れた。
デュラハンの間合に踏み込んだ斬撃が、キサマに襲いかかる。
その斬撃を受け止めたのは、ヴィリーの両手剣だった。
「やらせはせんよ」
ヴィリーがカバーしてくれたので、キサマは、カウンターで『火炎の弾丸』を唱えた。
複数の火炎弾が、周囲の『火炎防壁』から現れた。デュラハンは剣撃で弾こうとするが、全方向から飛来する火炎弾のすべてを避け切ることはできず、更に焼かれる。
アリアバードが『見えざる一撃』で追撃する。単音節で成り立つ攻撃魔法はデュラハンに襲いかかった。
デュラハンの胴体は、何かに殴られたように一瞬だけ仰け反った。デュラハンの動きは、より鈍くなった。
もう少しでトドメを刺せる。
メンバーの誰もがそう思ったとき、この戦場で、あってはならない声が響いた。