第三章 首なしの騎士はふたたび訪れる その2
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「よくやった、アリアバード。あとは任せて後ろに下がれ」
デュラハンの注意がアリアバードに向いたことで、自然とデュラハンの背後を取ることになったヴィリーが叫ぶ。
「言われなくても、後ろに下がるよ」
アリアバードは、そう言いながらデュラハンとの距離をさらに取る。
ヴィリーはデュラハンの頸部を狙って剣を振るった。だが、その先にデュラハンの首はない。らしからぬ失態であったが、数多の戦さ場で培った経験と術がヴィリーの肉体をそのように動かしたのだった。
空振りに終わったヴィリーとデュラハンの間にアランが割って入り、デュラハンの剣撃を盾で防ぐ。彼の剣は、まだ『魔力付与』をかけられていないので、戦術として防御に徹するしかできないのだった。
それに気づいたキサマは、『魔力付与』を行った。アランの剣が淡白い輝きを帯びる。さらに『石の従者』を唱えた。ストーン・サーヴァントを作り出して、盾役を増やすという戦術を実行するため、通常なら攻撃魔法を連続で使うことに用いる『二重詠唱』を行ったのだった。
デュラハンを挟んでヴィリーの反対側にいるアリアバードは、懐から宝石を取り出して掌で掲げる。そして薄緑色の瞳を薄く閉じて詠唱を始めた。宝石はカシウスに譲られたダイヤモンドである。
「おお、ウェンズ。天界の書庫に座して叡智を司りし神よ。我アリアバードは偉大なるあなたに祈りを捧げ、乞い願う。理を畏れるモノに安寧への道筋を。導き手たる我らに加護と恩寵を与え給え…『聖なる光の結界』!」
詠唱を終えた瞬間、掌の上にあった宝石は白い輝きを放ちながら周囲に飛び散って消えた。神々への貢物として天界に捧げられたのだ。
アリアバードが構築した『聖なる光の結界』でデュラハンの動きは少し鈍った。
アランが攻撃に転じた。淡白く輝く剣がデュラハンに当たると、デュラハンから黄土色の鈍い輝きが壁となって現れる。そして、その輝きはアランの剣撃が閃く度に少しずつ薄くなっていく。
「ストーン・サーヴァントたち。目の前の敵を排除するのです」
キサマはストーン・サーヴァントに攻撃を命じた。三体のストーン・サーヴァントがデュラハンに殴りかかった。本来ならデュラハンに対して非力なサーヴァントの攻撃だが、黒衣の魔術師の魔力が上乗せされている分だけ、打撃が通るのだった。
デュラハンは、まとわりつくストーン・サーヴァントに剣撃を加える。攻撃を当てられたストーン・サーヴァントが一体、一撃で砕け散った。
デュラハンの注意がストーン・サーヴァントに向けられたことを見てとったヴィリーは、魔法の両手剣をデュラハンの胴体に向けて薙ぎ払った。その衝撃は、黄土色の輝きとともにデュラハンをよろめかせた。
だが、デュラハンは直ぐに体勢を立て直す。
「万物の根源たる揺らぐ弦よ。火柱と化して立ちはだかれ。ただし、範囲は極小で……『火炎防壁』」
その瞬間、デュラハンの立っている場所だけに火柱が立ち、デュラハンを包み込んだ。『火炎防壁』は、本来ならば10メートルの距離に渡って炎の壁が構築される。だが、キサマはピンポイントで敵のいる場所に効果を出現させ、攻撃魔法と成さしめた。それはキサマの状況判断力と技量と自信が融合した産物であった。
アリアバードは、味方の防壁力を上げるべく、『持続せし守護の防壁』を唱え始めた。
「おお、ウェンズ。天界の書庫に座して叡智を司りし神よ。我アリアバードは偉大なるあなたに祈りを捧げ、乞い願う。我らに持続する神盾を与えたまえ……」
ストーン・サーヴァントを除く味方全員が、一瞬だけ現れた緑色に輝く球形の防壁に包み込まれた。