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第一章 祓魔師は海都にて その1

初投稿です。


勝手がわからないので、改行が少なめです。

読み難かったらスミマセン。


  1


 街道を黙々と歩く一人の若者がいた。


 癖のある金髪。透き通ると錯覚しそうな白い肌。卵形に整った柔和そうに見える顔は、傾き始めた太陽のせいか、頬がほんのりと赤く見える。


 ベージュ色の帽子をかぶり、同じ組み合わせのマントを纏った若者の薄緑色(ライトグリーン)の瞳は、街道の先に見える都を見据えていた。


「あと少しで辿り着ける。帝国最大の海都に」


 6時課(日没)の鐘が鳴ると閉め出される。そうなる前にたどり着かないと。若者が歩みを早めることを決意したとき、後ろから来た乗り合い馬車が、若者を追い越していく。


 若者の名はアリアバード。


 職業、祓魔師(ふつまし)。神官の一業種である。


 人外の魔物が冬眠前の熊のように闊歩し、剣や魔法の技術に長けた冒険者という名の便利屋がそれらを排除することが日常茶飯事の世界。アリアバードの仕事も大枠では似たようなものだ。


 ただ冒険者と決定的に違うのは、アンデット族相手を専門に、かつ話し合い以外の方法を強制執行する職種であるということだろうか。


 ハイラント法王府という機関に所属し、職種ゆえの地方出張と同僚よりも面倒な案件――上司は有能さを評価しているというが――の繰り返しという毎日に嫌気がさしたアリアバードは、任務完了の報告を法王府の寺院に告げた後、しばらく行方をくらませるべく、帝国最大の海都を目指したのだった。ここからなら、移動手段も豊富だし、何処へだっていける。




 海都フォン・ブラウンは、タウゼンマイル河の河口にある商業都市である。もともとは漁業と宿屋の町だったが、交易上の要地としての地理的優位性に気がついた商人たちが居を構えるようになってから、繁栄を始めた。そして200年ほどまえにタウゼンマイル河の上流に、帝国の新帝都建設と遷都が実行されたとき、繁栄はより加速し、同時に海賊たちの標的としても名声を高めるようになった。フォン・ブラウンは、当初、自警団を組織して対抗していたが、海賊たちが意思統一された組織ではないことや徐々に増えていった防衛費と手間に業を煮やした何代目かの代表が、帝国と手を結ぶことにした。もちろん反対派の有力者もいたが、帝国の治安維持能力と都市外への陸路インフラの整備が、フォン・ブラウンへの人と富と情報の集積をより強化すると、表立って非難する者はいなくなった。


 どうにか日没前に城門をくぐり抜けたアリアバードの眼前に広がったのは、日没間近ゆえに閑散とした幅の広い中央通りだった。右手には、いくつもの水路が張り巡らされた商人たちの区画が、左手には、行政府庁舎と住宅街が見える。そして街全体は、上空から俯瞰すると、巨大な楕円形の高台になっており、行政府庁舎がその頂点になっている。


 行政府庁舎の一部に強い灯りが点いた。夜明けまで輝き続ける魔法による灯りだ。行政府庁舎は、夜が明けるまで灯台としても機能するのだ。




 改めて閑散とした通りを眺めながら、アリアバードは投宿先を考えねばならなかった。手持ちの金銭に余裕はある――むしろ作った――が、これからのバカンスのために宿代だけで豪遊という訳にはいかない。法王府の寺院なら無料でそれなりに快適だが、あっという間に身バレする。逃亡中(?)の身とては避けねばならない。高すぎず安っぽくなく、それなりの安全も確保する。となると、冒険者組合の宿屋を選ぶしかない。


 そう結論づけると、彼の足は、日没だからこそ賑わう歓楽街へと進むのであった。


 どちらかと言えば、ボンヤリとして見える。そう評されるアリアバードが、貧困に生きる少年たちに格好の獲物として選ばれたのは、当然のことだった。獲物に選ばれた側と言えば、お登りさんらしくキョロキョロと辺りを見回しながら散策している。


 囮役の少年たちが、アリアバードの前方で騒いで通行を妨げる。アリアバードの歩みが一瞬止まる。その瞬間を狙って、いちばん腕のいい少年がアリアバードの銀貨袋を掠め取ってみせた。しばらくすると、騒いでいた少年たちも、ごく自然にアリアバードの前から消え去った。


「チョロいもんだったね」


 少年たちは、収穫物を分けるために、人通りの少ない路地裏に集まっていた。


「早く分けようぜ」


 スリ役の少年が銀貨袋からお金を取り出した時、少年たちは目を見張った。金貨だった。彼らにとっては想像以上のものが出てきたのだ。


「おい。金貨だぜ。でも大きくないか?」


「見たことないな」


「……でも、金貨だぜ」


「大金貨は、お釣りを出してもらないから、両替しないと使えないよ」


 戸惑っている少年たちに声をかける者がいた。銀貨袋を盗まれた当の被害者である。


「それ。銀貨も入ってるから、持っていかれると困るんだ。返してくれないかな」


「やべっ」


 少年たちは逃げ出そうする。もちろん逃げながら、パスワークで銀貨袋を持ち去る算段だった。ここは自分たちのホームグラウンド。ボンヤリ然とした旅人から逃げ切る自信はある。


 刹那。


 青白い光が、軌跡を残しながら右へ左へと移動した。光が軌道を変えるたびに、仲間の短い悲鳴があがる。最後に銀貨袋を持っていた少年も、一瞬だが強烈な痺れと痛みを感じると、尻餅をつくように倒されていた。


「銀貨袋を投げられて、持ち逃げされたら堪らないからね。仲間から片付けさせてもらったよ」


 眼前の出来事に理解が追いつかず呆然とする少年に、アリアバードは微笑んだ。


 青白く輝く拳に照らされた若者の柔和な微笑みが、少年には美術品のように見えた。人が死ぬときは天使やら悪魔やらが迎えにくるというけど、このように微笑むのだろうか。一瞬だけ過ぎった妄想も、身体の痺れで、我に返る。そして、あることに気がついた。目の前の若者は少しだけ宙に浮いている。だが、それを口にする余裕はなかった。


「『高速浮遊(ホバリング)』。脚の速いアンデット族を相手にするための必須技能(スキル)。銀貨袋は返してもらうよ」


 アリアバードは、少年の疑問を見透かしたかのように口にしながら、銀貨袋を取り上げる。そして、バカンスの軍資金を取り戻すという用事が済んだので、とっととその場を去ろうとしたのだが、ふと思い立って、少年に尋ねた。 


「ねぇ、君。お薦めのご飯がおいしい酒場か宿屋を教えてくれる?」


「それだけ持ってれば、選り取り見取りだろ?」


「高級だからって、居心地がいいとは限らないんだよ」


 経験談なのだろうが、上から目線の発言ではある。


「……宿屋ヴォストーク。そこの娘婿が、腕がいい」


「ヴォストーク(征服しろ)?物騒な名前の宿屋だね。武器屋なら、わかるけど」


 そんな感想を漏らしつつ、アリアバードは袋の中から銀貨を探し出し20枚ほど取り出すと、少年の前に投げ出した。


「……憐れみなら、いらない」


 少年は真剣な表情で、アリアバードを見返した。


「いま、僕に宿屋を教えてくれただろう。だから、情報料。正当な取引さ」


 そう言って、今度こそ立ち去るのだった。

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