9話 体のいい流刑です的な話
皆さんごきげんよう。俺は今、ふんだんに花びらを入れた湯の中で優雅に寛いでいる。と、言っても風呂ではない。寸胴鍋に頭の先まで浸して、弱火でじっくりコトコト煮込まれているのだ。昨日は、花びらではなく香りの強い葉っぱと一緒に煮込まれた。と、いうのもサラスさんの麾下となり、今後どうするか聞いたところ。
「ついてこい。それと臭うから3メートル以上近づくな。」
と、だけ言われた。モテた訳ではないが、生前そんな事言われたことのない俺は、大変傷ついた事は言うまでもない!サラスさんの3メートル程後をついて行った先は、城の庭だった。サラスさんは、配下インプを呼び出して準備をさせ、それから丸1日インプ達が交代で俺を煮込んでいる。
生前であれば、これは完全な拷問である。この骸骨の身体は、熱や痛みを感じる事はできるが、今の状況は苦痛ではない。負傷を追うような状況ではない限り苦痛として、認識しないようだ。ちなみに、鎧や剣、吊るす為の首枷と首枷から30センチ程伸びた鎖も体の一部らしく、脱着は不可!剣だけは置いたりできるが、一定距離離れると鞘に戻る。『それをすてるなんてとんでもない』所か、呪われて外せない装備である。その辺の説明は、最初に煮込まれる時に、インプのチャーリーが色々と教えてくれた。
チャーリーとは、サラスさんの下で研究の補佐などをこなし、そして今、俺を煮込んでいるインプだ。今後は、俺の補佐兼教育係兼監視役という事になる。しかし、こいつは口が悪いうえに、知識量はあるのに、頭が悪く、しかもうざい。これから上司になる俺に対しても、『お前は、こんな事も知らないのか、ハァ、コレだから脳みその入っていないスケルトンは嫌なんだ。』などとほざくのである。温厚な俺もイラっと来ることが多々有り、都合20回はぶん殴っている。見た目が生意気そうなクソガキなので、余計に腹が立つのもポイントだ。
これは絶対、チャーリーを俺に押し付けたな。そうじゃなければ、ただの嫌がらせだ。
「よし、お前の蛆虫を引き寄せる匂いも、野良犬を引き寄せる程度になっただろう。アキト、サラス様のところへ行くぞ。」
チャーリーをひっ叩いて、サラスさんの元へ行くと、サラスさんは優雅にティータイム中だった。
「随分と時間がかかったわね。アキト。魔王様より命令を預かっているわ。これより、スウィーチ王国へ旅立ちなさい。そこで、野良の魔物達をまとめ上げて拠点を築くのが貴方に課せられた命令よ。質問は?」
質問しかねーよ!スウィーチ王国ってどこだよ!?魔物をまとめ上げるってどうするんだよ!?拠点ってなんだよ!魔物の町でも作れってのか!?チャーリーと2人でか!?人員は?資金は?旅の荷物は?――落ち着こう、一つ一つ質問していけばいいや。
「サラス様。いくつか質問があるのですが。」
「サラスで良いわ。あなたは、一時的に私の麾下に組み込まれているけど、本来は魔王様の直下扱いだから。」
「では、サラスさん。まずスウィーチ王国とはどこになるんでしょうか?」
「スウィーチ王国ならここから南西に2000キロほどにある国よ。詳しい事は道中にチャーリーに聞きなさい。そうそう、私の研究施設までは、転移術で移動できるから実質1500キロほどね。歩いて2か月もあれば着くでしょう。」
歩いて2か月とか、あほか!
「ば、場所についてはわかりました。旅費や旅の荷物とかは無いんでしょうか?」
「忘れていたわ。旅立つ前に、城の倉庫で適当に必要そうなものを見繕っていきなさい。でもあなたワイトだし、魔素さえあれば、食事も睡眠も要らないから必要ないでしょ。それと魔王様から伝言よ。お前の錆びついた剣じゃまだ鎖なんて斬れないから、2度とやるな。だそうよ。良かったわね。アキト。あなた、魔王様が咄嗟に鎖を斬ってくれなかったら、あの時、面白い事になってたわよ。クスクス。」
「くぅううう。」
表情には出せないが、鎖を斬ってもらえなかった場合の事を想像して悶絶しそうになる。
あの時、斬った感じがしないと思ったらそういう事かよ!ってワイトってなんだ?
「あの、今、仰った。ワイトとは?」
「そのままよ、あなたの種族は、分類的にワイト。ワイトの定義について聞きたいなら後でチャーリーにでも聞きなさい。他にないならさっさと準備なさい。」
「えっ?いえ、まだ聞きたい事が、命令についてですが、魔物をまとめ上げるとは具体的にどうするのでしょうか?」
「殴って言う事を聞かせればいいでしょう?あとは自分で考えなさい。以上ね?」
うわっ。ナニソレ。不良マンガですか?拳で語れって奴?適当すぎだろ。
「最後に1つだけ、拠点とは、一体どのようなものを作ればいいのでしょうか?町でしょうか?砦でしょうか?またその人員や資金は?」
「知らないわよそんなもの。あなたの好きなようにやりなさい。何を作るか知らないけど、人員も資金も自分で調達しなさい。殺されない限り生きてるんだから、時間はいくらでもあるでしょう。以上よ。あとはチャーリーに聞きなさい。知識だけならあるから役に立つわ。」
「わ、わかりました。」
ふむふむ、つまりは、スウィーチ王国まで行ったら好き勝手やれって事ね。あ、これ知ってる。平安時代とかの流刑ってやつだ。太宰府天満宮とか鎌倉幕府立ち上げてやろうか!
こうして、適当な命令を受で、俺たちは旅立つ事となった。まずは旅支度である。
倉庫では、人間から奪ったらしい武器やら、防具やら、テントやら旅に必要なものは揃っていた。貴重な物や、金目の物はここには無いらしい。旅に必要な物を選ぶのはチャーリーに任せた。だって俺には必要ないらしいし……
「んじゃ武器でも探しますかね。」
俺に必要なものは、武器。自前の剣はガラクタである。それと余計なトラブルを避ける為にもローブで身体と顔を隠す必要がある。武器は色々な物が置いてあった。しかし。
「どれも、状態が悪いな。腰に提げた剣よりましだけど。」
見た目で明らかに錆びていたり、刃が毀れているものは除外していく。剣の良し悪しはわからないが、手に取って振ってみたりして見繕っていく。
気に入った物を、槍5本、剣を10本、盾を2つ見繕って気が付いた。
補給は期待できないし、全部持って行った方が良いじゃん!でも流石に邪魔だよな。戦いになったら邪魔だし、剣3本と盾1つならなんとなるか。
「んじゃ、これとこれとこれと、これで、武器はOK次だ。」
ローブはどれも似たようなものなので、比較的綺麗で身をすっぽりと覆い隠せるものを2枚選んだ。それと、リュックサックに、地図らしき物を数枚に紐やロープ、包帯、状態が良いナイフを10本ほど鞄に詰めた。ナイフは棒切れに括り付ければ槍になるし、場所を取らないので、多めに用意した。
支度を終えて、サラスさんの部屋へ再び集まる。チャーリーは、自分の身体よりも大きなリュックに、何やら沢山詰め込んだようだ。
「ちゃんと準備をしているようで感心だな。」
「ふん、墓場や犬小屋で快適に生活できる骨と違って、ボクはデリケートなんだ。」
当然の様にぶん殴る。意外とこいつはHPが高そうだ。途中で置き去りにしても問題ないだろう。
「お前は、反省という言葉を覚えた方が良いぞ。」
「置いていくわよ?2人とも、歩いていきたいの?」
ふざけてる俺らに呆れながら、サラスさんは魔法陣に促す。魔法陣に乗ると、一瞬で景色が一変した。
やっとタイトル回収。さらっと流すつもりだったのに、なんでこんなにかかったんだろう。4話書いてた頃の段階では、9話で拠点手に入れる予定だったはずなのに……
次回更新は8月3日土曜日22時を予定しています。




