8話 この紋所が目に入らぬか的な話
「証拠ならあるわよ。」
絶体絶命のピンチを救ったのは、超絶美女こと賢者サラスだった。
「サ、サラス殿。今なんと?」
「証拠ならあるって言ったのよ。そこのミノタウロスの死体自体が1つ目の証拠よ。そもそもこの召喚は、呼び出した魂に新たな肉体を与え、魂を肉体に定着させる術式を構築しなければならないはずよ。当然、生ける肉体では、元々の魂が邪魔になるから、魂に自我が目覚める前の赤子の肉体が適しているわ。魂さえ肉体に定着させれば、赤子の魂は、肉体の成長とともに、徐々に召喚した魂に吸収されて完全に1つの魂になる。でも、貴方が用意したのは、子供とは言え既に自我に目覚めた幼いミノタウロス。」
「そ、それは赤子が……」
「赤子が手に入らなければ、代わりに自我の目覚めた者でもいいわ。但し、隷属の呪いではなく、魂を封印する高度な呪術を用いるか、魂のみを消滅させた状態の肉体を用意しなければならない。大人のミノタウロスなら魂の封印をレジストするかもしれないけど、子供なら問題なく魂を封印できるでしょうし、リッチでも呼び出して魂を狩り取らせればいい。そもそも、魂の器を用意するだけならば、今の彼の様に、傀儡術に用いるスパルトイでも、人形やゴーレムでも構わない。貴方は3日で成果を出すと豪語していたんですもの。予想外に魂の召喚ができなかったとはいえ、魂の器を用意できなかったとは言わせないわよ。」
サラスの指摘に狼狽えながら、ザイルは稚拙な言い訳を述べる。
「しかし、それが謀反にどうつながるというのですかな?賢者殿とは違い浅学な私は、肉体の選択を誤ったのです。」
「あら、まだ認めないのね。では、2つ目の証拠。貴方は何故、魂の定着ではなく、召喚した魂に束縛の術式をかけて、肉体の中に放り込んだのかしら?これでは、召喚した魂がミノタウロスに取り込まれるのは当然よ。私が見抜けないと思っていたのかしら?あ、ちなみにさっきの束縛の術は、私が干渉して無効化しておいたから。」
「なんだと!そんな馬鹿な!いえ、違うのです魔王様!――そう。私はハメられたのです。そこの女狐が私に、誤った方法を吹き込み、私の失脚を画策したに違いありません。私が魔王様に謀反などありえません!」
俺を取り囲んでいたガーゴイル達は、一斉にザイルを取り囲む。ザイルは、必死に無実を訴えるが、言っている事は、客観的証拠もない言いがかりである。
「ザイルよ、ハメられたようだな。」
予想外の魔王の言葉に、ザイルは、狂喜の表情を浮かべた――
「そうです!流石は魔王さ――」
が、魔王の次の言葉によってその顔は絶望に変わる。
「しかし、ハメたのは、サラスではなく――余であるがな。」
ザイルとは対照的に満面の笑みを浮かべる魔王。
「此度の余興は面白かったぞ。最近、お前の様子が随分と楽しそうなのでな、サラスに探るよう命じて、お前のくだらない提案をわざわざ許可し、泳がせていたのだが、気づかなかったのか?サラスなど、余に役者の才能が無いと言っていたが。」
笑いを堪えながらネタバラしをする魔王に対し、サラスの顔芸は面白かった。喜びの表情を浮かべたと思えば、絶望に代わり、今度は、鯉の様に口をパクパクとさせ唖然とした顔になったかと思えば、一瞬怒りの表情を浮かべ、今は項垂れている。
こいつの顔おもしれえぇ。
「連れていけ。」
魔王の勅命によって、ザイルは衛兵に連行された。
しかし、良い所を全部持っていかれたな。わざわざ、骸骨に乗り移らなくても、その場で突っ立てれば話が進んじゃないか。
「さて、タチバナ アキヒトとか言ったか?」
油断していた。魔王を始めザイル以外の幹部はまだ居る。急に話しかけられ、慌てて姿勢を正す。
「はいっ!」
「此度の働き見事であった。褒美を取らす。まずは、その身体をやろう。サラス、魂を定着させよ。」
え?俺の身体コレになるの?普通に嫌なんだけど、汚いし。髑髏の騎士って中二心をくすぐるけどさ、これは完全にただのホラーだぜ?朽ちた肉が所々にこびり付いてて汚いし。鎧も錆びと傷だらけで穴開いてたり、パーツとの繋ぎも、辛うじて繋がってるだけで完全にゴミだし、あと汚いし。鎧下とか腐臭が染みついて臭いし、汚いし。別に潔癖でもないけど流石にこれは勘弁なんだけど。
「いや、これはちょ――」
「魔王様、できました。」
「うむ。その身体は生前、余を楽しませてくれた、余のお気に入りだ。くれぐれも丁重に扱えよ。」
ちょ、マジか。断ろうとしたのに!仕事が早すぎ!
「あ、アリガトウゴザイマス。」
「これで、お前は新たに生まれ変わった。以前の名は捨て、これからはアキトと名乗るが良い。今後については、命令があるまで、サラスの麾下とする。以上だ。」
こうして俺の長い一日が終わり、魔王軍に異世界転生させられました。




