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7話 おうおう、この桜吹雪が的な話

 首を刎ねられた牛頭の身体は、静かに光の玉へと変わる。それに触れると、俺の身体に吸い込まれ、牛頭の想いが伝わってきた。


「わかった。お前の弟も連れてくるよ。」


 こいつと鎖で拘束された牛頭は、幼いミノタウロスの兄弟だった。2匹は、今回の実験の為に捕らえられ、隷属の呪いによってザイルに支配されていた。先に弟が実験台にされた。弟の牛頭は、あと2日程で魂が消滅してしまうらしい。取り込んだ力を制御できれば、強力な力を獲得できるようだが、たった1日で寠れた体は、それが不可能であると物語っていた。こいつの望みは、そんな、苦しみ、藻掻く弟を一刻も早く解放し、楽にさせてやる事。


 暗い世界は徐々に崩壊していく。景色は先程の城の中に戻った。ザイルが間抜けな面を晒している。ぶん殴ってやりたいが、今は牛頭(弟)を開放するのが先決だ。足元で静かに横たわる牛頭(兄)は、既に息をしていない。すぐさま牛頭(弟)の身体に入り込んだ。


 牛頭(弟)の暗い世界に入り込む。目の前で蹲って藻掻く牛頭(弟)の輪郭は、炎が揺らめく様に、酷くぼやけている。その一方で、周囲を明るく照らすような力強さも感じる。文字通り、命の炎を燃やしている。そんな印象を受けた。


 俺は、途惑っていた。先程の戦いでは必死だったし、牛頭が幼いとは思っていなかった。しかし、今は幼いミノタウロスが、衰弱し、苦しみ悶えている事を認識している。

 弟を苦しみから解放するのが、あいつとの約束だ。覚悟を決めて一歩踏み出そうとすると、俺の身体から、牛頭(兄)が現れた。牛頭(兄)は、静かに弟へ近づくと、弟をそっと抱きかかえ、こちらに振返る。直後、強い光を放つ光の玉となり、俺の身体に吸い込まれた。


「ごめんな、俺の覚悟が足らなくてお前にやらせてしまった。」


 再び、玉座の間に現れると、周囲はざわつき、ザイルは慌てて「こんなはずでは」などとほざいている。兄弟の魂を取り込んだ事により、この世界の言葉や、現状を正しく理解している。ザイルに落とし前を付けさせてやろうとしたが、この場所では、光の玉の状態である事を思い出した。


 やっべ、今の状態だと、動く事くらいしか出来ないじゃん。


 勢いに任せて行動していたが、少し、冷静になる。


 ザイルの中に入り込んでぶっ殺すか?いや、ここにいるのは、魔王とその幹部達だ。ミノタウロスの子ども相手にギリギリ勝てた程度じゃ、勝算は低い。勝てたとしても後で、袋叩きに遭う。では牛頭(兄)の身体に戻るか?魂の無い状態であれば、乗り移って操作する事も出来そうだ。乗り移ってから、ザイルの計画を暴露する。完璧だな。あ、ダメだ。兄弟は隷属の呪い受けてるんだった。2匹の身体では邪魔が入る可能性がある。他に乗り移れそうなものは……


 ――ギィ、ギィ、ギィ……


 天上から吊るされた骸骨が視界に写る。


 あれしかないか。


 迷っている時間は無い。城内が騒然としてるうちに素早く、骸骨に飛び込んだ。


 目の前では、天井付近の壁が左右に揺れている。正しくは、揺れているのは自分の身体だ。両手を顔の前に動かし、掌を握ったり開いたりする。問題なく乗り移れたようだ。そのまま腰に提げた鞘から剣を引き抜く。刀身は茶色く錆びつき、刃毀れが多い。不安しかないが、やってみるしかない。腕を上げ、首から伸びる鎖に向かって錆びついた剣を振るう。


 ドスン!


 手ごたえもなく、鎖はあっさり切れ、地面に落ちた。


「ア゛ー。アー。アー。あー。よし。魔王様。そして、お集まりの幹部の皆様。初めまして。異世界より召喚された。タチバナ アキヒトと申します。」


 突然の出来事に周囲は、驚きや困惑、警戒.など様々な反応を見せる。魔王は、にやついた笑みを浮かべ、配下に動かぬよう、威圧する。


「まずは、この身体を勝手にお借りし、発言をした事をお詫び致します。しかし、私は、どうしても、魔王様にご報告させて頂きたい事柄がり、このような手段を取らざるを得ませんでした。」


「ほう、許す。続けよ。」


「はっ、ありがとうございます。ご報告致しますのは、この召喚の儀式に隠された、ザイル宰相の謀反についてです。」


「バカなっ!」


 召喚の儀式をめちゃくちゃにした上に、謀反などと発言する勇者の骸に、ザイルは思わず声を出した。どこまで知っているかは知らないが、自分の名前と役職を理解している事から、目の前の骸が計画の一端を把握している事を理解した。これ以上、奴に発言をさせてはまずい。


「魔王様、こやつは我が身の保身に、出鱈目を申しております。私に謀反の意などございませぬ。衛兵!こやつを捉えよ!私を侮辱しおって!」


「黙れ。お前に発言を許した覚えはないぞ。」


「し、しかし……」


 ――コン


「も、申し訳ございません。」


 魔王が玉座のひじ掛けを爪で叩くとザイルは、発言を止める。


「では続けよ。」


「はっ、此度の召喚ですが、真の目的は、宰相の配下に異世界人の魂を取り込ませ、強力な私兵団を作り、魔王様を弑逆する計画の第一段階でした。」


「出鱈目だ!証拠がない!」


 魔王に睨まれるが知ったことではない。こいつはすべて知っている!まずい!何とかせねば。


「証拠ならあります。魂の器として用意された2匹のミノタウロスには、隷属の呪いがかけられています。この儀式が成功していたら、ザイル宰相には、勇者に匹敵する配下が加わっていたことでしょう。」


「はっはっは。隷属の呪いが証拠だと?召喚した異世界人の魂が、素直に従う保証などない。自身の身を守る為の保険に過ぎん。こんなもの召喚を行う際の常套手段だぞ。」


 マジか!詰んだ。他に客観的な証拠が他にないか考えるが思い浮かばない。言葉に詰まると、周囲の目は俺への疑念に変わりザイルの口は饒舌になる。


「他に証拠はないのかね?魔王様、こやつの発言は信用なりませぬ。やはり、魔王様のおっしゃった通り、所詮は人間の魂。早々にこの場で処分致すのがよろしいかと。」


 魔王は、ザイルの発言を黙認している。

 形勢は逆転した。俺の周囲を、衛兵のガーゴイルが槍の穂先を向け取り囲んだ。


「証拠ならあるわよ。」


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