3話 宰相の悪だくみ的な話
7月中は1日置きに22時にストック分を予約済みで、9話まで公開予定です。7月18日時点で14話分はできていますが、矛盾点が生まれると遡って修正するので、10話以降は筆の進み具合で公開となります。
薄暗い魔王城の廊下を、早足で歩く小さな男。この国の宰相であるザイルは、焦っていた。うまく魔王を丸め込み、自身の計画を計画を立案したまでは良かった。召喚術も完璧に解析できていた。人間共と違い魔力も十分にある。呼び出す者を魂に限定したとはいえ、何度でも異世界人を召喚できる。はずだった。
しかし、何度やっても呼び出せなかった。
明日は、魔王との約束の日。3日で成果を見せると嘯いた以上、召喚できませんでした。では笑いものだ。
癪だが、サラスに協力を求め、召喚だけでも成功させなければならない。
目的の場所にたどり着き扉をノックする。
コンコン
「開いてるわ」
「失礼する。」
扉を開けると、使い魔達が忙しそうに己の仕事をこなす中、何食わぬ顔でソファーで書物に読み耽る女性の悪魔。彼女の名前はサラス・ヴェーダ。スヴェント魔王国の賢者にして、その知識と魔法の実力は魔王をも凌駕するといわれている。
「あら、誰かと思えばザイル宰相じゃない。例の召喚がうまくいかなくて泣きついてきたのかしら?クスクス」
サラスは意地の悪い笑みを浮かべ、見透かしたように核心を衝いてきた。
「くっ、恥ずかしながら、おっしゃる通りです。何卒、ご指導を頂けないかと参りました。」
ザイルは、怒りで怒鳴り散らしたい気持ちを抑える。彼女に協力してもらわなければはっきり言ってお手上げだ。
「フフフ。今日は随分と聞き分けが良いのね。明日、貴方が大恥を晒すのを楽しみにしていたけど、その悔しそうな顔に免じて手伝ってあげるわ。」
ザイルは、サラスを自身の研究室へ連れてくると、魔法陣に魔力を注ぎ込み、召喚術を起動する。魔法陣は青白く光を放つ。解析した術式では理論上、間違いなく異世界人の魂を召喚できるはずなのだ。しかし、暫くすると光は失せ何も起こらないのだ。
サラスは、その様子を観察する。時折魔法陣にも触れ、術式の中に誤りが無いか確認した。
「ご覧のような有様です。何か気付いた点はおありですかな?」
「わかったわ。」
「そうでしょうな。いくら賢者殿とはいえ、これだけでは……なんと!わかったと申されたか?!」
「えぇ。原因は単純な事よ。呼び出した魂が、世界の狭間を渡る事に耐えられずに、自我を保てなくなってしまったの。通常の召喚であれば、魂は肉体に守られているから、肉体の代わりに魂を保護する為の魔力結界を張ればいいのよ。で、ここからが肝心なんだけど。魂が世界の狭間を渡るのは、私達からすれば数分でしかないけど、彼らにとっては何時間も時間が経過しているのね。簡単に言うと通常の魔力結界の維持よりも100倍以上の魔力を注ぎ込まなければならないわ。更に、世界の狭間に居る、目に見えない相手に魔力結界を張る事になるんだけど。それは、召喚術式に干渉して位置を特定し、私が微調整を加えれば何とかなりそうね。」
「つ、つまりは……」
「アンタじゃ無理って事ね。」
さらりと言い放つサラス。
このままでは成果をすべてサラスに持って行かれてしまう。しかし、召喚ができなくては、明日の発表で恥を晒すだけだ。仕方ない。
「で、では、召喚は願い致します。」
そう言うとザイルは、魂の器となる、配下の魔物を呼び、召喚の儀式が始まる。
結果は成功。何度やっても成功しなかった異世界人の魂の召喚は、完璧に行われた。そして、待機させていた魔物に魂を移す作業に入る。
まさか、こんなにも簡単に召喚してしまうとは。しかし、お陰で異世界人勇者並み手駒が手に入る。
醜い笑みを浮かべるザイル。召喚はサラスに任せたが、ここからは自身が行う。召喚した魂に、新しい肉体を与えると言いながら、実際は、配下の魔物に召喚した魂を取り込ませる儀式であった。
「準備はできています。サラス殿。魂をこちらへ。」
ザイルの指示で魂が魔物の中に吸い込まれた。
「成功だ!」
思わず叫ぶザイル!しかし。
「まだよ!」
真剣な眼差しで魔物を見つめるサラスにザイルも配下に注目した。
配下の魔物は、痙攣を起こし始め、次の瞬間。
「オオオオオオオオオオオッ!」
雄たけびを上げ、がむしゃらに腕を振り回し暴れ始めた。
「な、何事だ!おい!奴を拘束しろ!」
命令を受ける前に、素早くザイルの前に飛び出した護衛は、万が一に備えてあったグレイプニルの鎖で拘束した。
拘束する事は出来たものの未だに暴れ続ける魔物。
「これは一体どういう事だ……」
「ふむ、その子が召喚した魂を取り込んでしまったようね。力を制御できずに暴走させてしまったみたい。力を制御できるようになるかは、この子次第だけど。少なくとも3日以内に制御できなければ魂は消滅すると思うわ。」
「くそっ!では失敗か!」
「まぁ、何度かやればそのうち成功するだろうし、ここまで形にできれば、報告としては十分でしょう。魔力の制御で疲れたし、私は、このまま休ませてもらうわ。」
面倒事はご免。と、言わんばかりにサラスは立ち去ってしまった。
そのあっさりとした対応に、残されたザイルは怒りに任せ持っていた杖を床に叩きつけた。
「あの小賢しい女狐めっ!」
実験の結果、力を暴走させた魔物に目をやり思案をする。
「サラスの言う事にも一理ある。暴走はしてしまったものの、真の目的である魂を取り込ませる実験には成功した。何度かやれば、いづれ成功はするだろう。それこそ明日の実験で成功する可能性もある。問題は失敗した場合だ。」
間もなく、計画に新たな修正を加える事を思いついた。
「よし、このまま進めるとしよう。うまくいけば良し。失敗しても魔王とサラスに一泡吹かせてやれる。」




