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2話 主人公死んじゃった的な話

 友人に誘われて県外へタケノコ堀に行くことになった俺は、至る所に設置されている古ぼけた看板に不安を募らせていた。書いてある文字は『熊注意』『危険 熊出現』の文字だ。


 そして、嫌な予感は的中するもの。


 タケノコを掘り始めると、完全に熊の事など忘れていた。


 俺は、次々と掘れるタケノコに夢中になっていた。


 こいつはでかいぜ!


 両手でタケノコを掴むと、早速、友人に自慢しようと思い目線をあげる。


 目の前には巨大な熊。


 見つめ合う目と目。


 手にしたタケノコを手放すと同時に、情けない悲鳴を上げながら後ろへ飛び上がる俺。目の前の熊さんも驚いて立ち上がる。


 緊張が走る一人と一匹


 藁にも縋る思いで友人に助けを求めようとした直後。

 背後からは、友人の叫び声と枝葉をかき分けて走り去る音。


 マジかよ!アイツ逃げやがった!


 怒りを覚えるものの、逆の立場だったら自分もそうするかもしれない。


 こういう時は振り返らずに、少しずつ後ずさるんだったよな。あとなんか武器!


 さっき程まで持っていた鍬は目の前にあるが、手に取るには熊に向かって2歩ほど近づかなくてはならない。


 絶対無理。あ、鉈!鉈持ってた!


 腰に剣鉈を吊るしていたのを思い出し、熊さんを見据えたまま、少しずつ後ずさりる。同時に腰に下げた剣鉈のベルトを外す。剣鉈なので切りつける事も突き刺す事もできるが、如何せんリーチが短すぎる。これで戦うのは現実的ではないが、武器を握っているだけで若干の安心感を覚える。


 心のどこかで、友人が助けを呼んできてくれる事を期待しながら、少しずつ、少しずつ、後ずさる。一体何分が立っただろうか。いや、多分1分も経っていない。1秒が何倍にも感じる。


 そして、一人と一匹の静かな攻防は不意に終わりを告げる。


 突然、視界が大きく動ぐ。それと同時に尻に走る鈍痛。


 こけた。


 山林で後ろ向きに歩いたら、落ちている木の棒や蔓に足を取られて転ぶのも当然である。

 背負い籠のせいで尻餅をついた状態となり、慌てて体を左に捻り起き上がろうとする。しかし、右肩に鋭い痛みが走ると同時に、左に捻る体とは逆向きに力がかかり今度はうつぶせに倒れ込んだ。


 チャンスとばかりに走り込んできた熊が、右前足で背負い籠にキツイ一発をお見舞いしたようだ。熊の鋭い爪は右肩をかすり背負い籠の肩紐は千切れ、周囲にはタケノコが飛散していた。


 目の前に迫りくる熊。

 頭は冴え渡っている。世界がスローモーションのように感じられた。

 激しい痛みによって、右腕では剣鉈を振り回せない。左手に剣鉈を持ち替えると同時に体を右に捩じるが、体を半分捩じった所で熊は俺の体に馬乗りになると、その狂暴な口は、大きく開き、涎をまき散らしながら文字通り目の前に迫る。鼻を衝く獣の口臭。


 今しかない!


 体を捻りながら、左手に持った剣鉈を熊の首元にねじ込む。


 そして引き裂くように剣鉈を抜くと、顔に生暖かい血が降り注いだ。


 血の味がする。視界は血で塞がれた。耳からは熊の悲鳴と周囲で暴れまわる音が聞こえる。獣の口臭は消え、血の鉄臭い匂に変わっていた。


 生きてる。


 左手の袖で顔についた血を拭って立ち上がると、動きの鈍くなった熊が見えた。

 それが最期に見た光景だった。


 ターーーン


 響く銃声。


 悲鳴を聞きつけ、熊の出没に周囲を警戒していた猟師は、熊を見つけ引き金を引いたのだが、熊と猟師の間に突如、人が現れたのだ。


 弾丸はまっすぐに彼の頭部に吸い込まれ、脳漿をまき散らした。


 こうして、俺こと、タチバナ アキヒトは死んだ。


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