18話 魔法でコネコネ的な話
サラスさんのからの新たな命令に、俺達はすぐに行動を移し、3日が経過した。20体を越えるゾンビやスパルトイを引き連れた集団は非常に目立つ。日中の行動は控え、日が十分に沈んでから移動する。移動は熊のゾンビを得た事でかなり楽になった。熊のゾンビの背中に毛皮を敷いて跨り、街道の端を走り抜けるのだ。動きの遅いゾンビではあるが、徒歩よりかなり早く、時速15キロ程で進む事が出来た。それ以上の速度になると、赤爪のスタミナが持たない事と、スパルトイ達がついてこれないのだ。旅立つ時に適当に持ってきた地図も移動の役に立った。何枚かが帝国内の簡単な地図でレナの土地勘も加わり、迷わず進む事が出来た。
道中は、前方に明かりが見えれば、素早く物陰に身を隠してやり過ごす。野良の魔物に遭遇すれば、倒してゾンビにする。空が白み始める頃に人目につかない森の奥や、山野まで移動し野営を行う。面倒なのが日中である為、火を起こすと煙で怪しまれる事だ。
「ゾンビの臭いさえ我慢できれば意外と快適な旅ね。食事も薬草と肉のスープだけとはいえ意外とおいしいし。火を使わないで、魔法で直接、スープの熱を上昇させるなんて、最初は魔力の無駄遣いかと思ったけど、分子の振動と摩擦熱って原理さえ理解できれば、全然魔力を消費しないのね。これは、野戦食に革命がおこるわよ。」
「俺が生きていた世界では、魔法は使わないがこの方法が普及してたんだ。でも、こうして直接調理するのではなく、調理済みの食事を温めるだけの道具だったけどな。俺自身こんなにうまくいくとは思わなかったよ。やってみるもんだな。」
「物理学は魔法の効率だけじゃなくて、使用方法にも影響を与えるんだな。アキト!今日はどんな法則を教えてくれるんだ?」
食事を終えると、3人で勉強会となる。俺は物理学に基づいた魔法のイメージを話す。チャーリーは魔術の種類や基礎、触媒となる材料などを。レナは、人間の領域の一般常識などを情報交換した。
意外な事に異世界人を多く召喚している人間の領域でも、物理学は浸透していないらしく、異世界人が齎した知識で普及したのは娯楽や食事が大半だという。これは召喚された者に剣技や魔法を教え込まなければならないので、若い10代前半の者を召喚している事。異世界人に知識や技能よりも高い個人の戦闘能力を求めた結果が原因のようだ。数学や理科の知識はこの世界の一般人より遥かに高い教養を持っているだろうが、数学はこの世界の専門家には及ばず、理科の知識が魔法に影響を与える事も、異世界人だからという事で片づけられていた可能性が高い。
「人間共は相変わらずバカだな。ボクなら物理学の教師を召喚して、その知識で強力な魔法を一人で扱えるられる奴を沢山育てるね。」
「確かにね。でも知識なんて物はそのうち漏れるものさ。俺がちょっと教えただけで、2人ともこれだけ魔法の魔力効率が上がったんだから、誰かが漏らせば、知識は広がってすぐにその優位性は失われると思うぞ。」
「ねぇ、そろそろおしゃべりは終わりにして、身体を動かさない?アキト、召喚者なだけあって呑み込み早いから、そろそろ私の良い稽古相手になりそうで楽しみなのよ。」
「いや、いくら何でも、そんなにすぐに、レナの相手ができるようにはならないと思うけど。」
情報交換を終えると俺はレナに剣を教えてもらっている。勇者をぶちのめして学生ながらに魔王国の幹部に名前が知れていたレナの実力は本物で、魔法を使い身体能力で圧倒して、漸く3分程レナの相手が務められる。気を抜くとあっさりと負けるので、全く気が抜けない。剣術を一通り教えると、実戦形式だ。レナは魔法のセンスも良く、教えたばかりの効率的な魔法を使い、剣を受けた瞬間に死角から氷の玉をぶつけたり、距離を取った瞬間に空気の刃を放ったりと、実践的な戦闘術を叩き込んでくれた。正直、今のレナなら赤爪の一味など容易く倒せると思う。
戦闘訓練も終わり、昼に差し掛かり、寝る準備を始めた頃にレナが話しかけてきた。
「ところで、アキトの鎧ってどうなっているの?出会った3日前に比べて鎧の穴とか傷が小さくなっているようだけど。特に鎧下の穴とか明らかに塞がっているわよ。」
レナの指摘に、身体を確認する確かに鎧の傷が小さくなって、骨が露出していた鎧下の破れがふさがっている。
「本当だ。今まで気づかなかったな。チャーリーどういう事?」
「バカアキト。最初に言っただろ。鎧も体の一部だって。身体の状態を良くする為に少しずつ鎧が修復されているんだ。最近は、時間の経過とともに、魂と体の結びつきが強くなってきたから、身体の修復速度が速くなっているみたいだけど。」
「成程そういう事ね。布の部分の修復が早いのは、ダメージの割合が小さいからかな?」
「はぁ。アキトがボクに教えてくれたじゃないか質量保存の法則を。そのボロボロのローブをいつも身に付けてるから、ローブの繊維を少しずつ吸収して修復したんじゃない?いくら何でも20日でそこまでローブがボロボロにならないでしょ。鎧の金属部分は、剣を手にした時に吸収されたか、穴の周辺が少しずつ薄くなって塞がっているんじゃない?」
「おー!チャーリーのくせに今日は冴えてるな!」
「ふん。ボクはいつでも冴え渡っているさ!」
そうと分かれば話が早い。要は鎧の素材となっている金属を常に身に付けておけばいいのだ。チャーリー達が寝た後はいつも、魔法の練習がてらに地中から粘土とケイ素を集め、土器を作ったりして遊んでいたが、今日からは金属を集める必要があるようだ。
チャーリー達が寝静まると、スパルトイ達に見張りを任せ、キャンプ地から少し離れた。金属を集めると言ってもただ単に鉄を集めればいい訳ではない。日本で一般的に使用されている鉄は鋼やステンレスで、鋼は鉄と炭素の合金だし、ステンレスはニッケルやクロムとの合金だ。日本の鋼材にS45Cとかいう鉄と炭素の割合が定められた規格がどうのこうのって大学時代に習ったが、細かい事は覚えてないし、この鎧がどんな金属で出来ているのかわからない。
まずは試してみるしかない。地中に手を当て、生前よく見にしていたステンレスの板を具体的に思い浮かべる。周囲の地中にどの程度あるかわからないので、大きさは10センチの正方形で厚さは1ミリ、魔法で作り出すのではなく、地中から元素を集めるように。硬くて、表面は光沢があり主成分は鉄。ニッケルやクロムとの合金で酸化に強く錆びにくい。イメージをしっかり固めて手に魔力を集めると――
徐々にイメージした金属が集まり、形を成していく。できた。台所の流しで毎日見ていたステンレスだ。
今度は少し場所を移し、魔王城からもらってきた剣を見つめ、剣の質感をイメージする。大きさや量は先程と同じ。主成分は鉄。恐らく、それに炭素を加えた鋼だ。実物が目の前にあるせいか先程よりも魔力の消耗を抑えて作り出す事が出来た。
最後に身に付けている鎧の質感をイメージして魔力を込めた。見事に錆びまで再現されて3枚目の金属板が出来上がった。材質のイメージがあやふやな為か、これが一番魔力を消耗した。これらを半分に折り曲げて、穴の開いたカ所の近くに、鎧を挟み込むように無理矢理張り付ける。吸収のされ易さや、魔力の消耗を考慮してこのうちどれかを量産していく予定だ。
次回からまた週1更新になる予定ですorz
次回は多分9月6日?




