14話 追いかけられるとつい逃げちゃうよね的な話
「そろそろ、1週間か。ったく、なんでこんなにツイていないんだ。」
レナは、自身の運命を呪い、この場所で死を覚悟した。代々続く騎士の家系で育った彼女は、死を恐れてはいない。しかし、自身の目的の道半ばで、命を散らす事が悔しかった。
彼女は、プラブルツ帝国の勇者の足取りを追ってスヴェント山脈の抜け道まで辿り着いた。優秀な彼女は、一人でも抜け道を通過し、ベラルまで辿り着く自信はあった。しかし、運が悪かった。半日程進んだ所で、商人達の間で赤爪と呼ばれ恐れられている、熊の魔物の群れと遭遇してしまったのだ。彼女の不運は続く、咄嗟に横穴に隠れ、やり過ごす積もりだったが、他の魔物に後ろから襲われ戦闘になり、その騒ぎで赤爪達に見つかってしまった。赤爪の手下を倒しながら、逃亡する事には成功したが、奥に進みすぎてしまった為、交易路に戻る事が絶望的になってしまった。
この1週間、魔法で生み出した水と、魔物の肉で糊口をしのいだ。だが、それも限界が近づいている。暗闇の中で、魔物の襲撃に対する緊張、出口のわからない恐怖、救助も望めない絶望。これらが死へ逃亡しろと囁く。
ナイフを取り出し、鋭利な刃を見つめる。一突きですべてを終わらせることが出来る。
――せめて一矢報いたかった。
「――けて」
人の声が聞こえた。遂に幻聴まで聞こえるようになったかと一瞬思ったが。
「助けてぇ!」
確かに聞こえた。助けを呼ぶ子供の声だ。すぐさま魔法で通路を照らし叫ぶ。
「こっちだ!来い!」
すると、暗闇から小さな子供が走り込んできて私の後ろへ回り込み、左足にしがみ付く。
「助かった!追いかけられているんだ!」
剣を抜き構える。子供が走って来た方角から、数体の魔物が見えた。数は多いがこの狭い通路では、1匹ずつ相手にできる。現れた魔物の首を難なく刎ねる。驚いた事に魔物は首を刎ねられても尚、動きを止めない。よく見れば、身体を覆うはずの皮は剥がされ、露わとなった筋肉は、食い千切られたり、引き裂かれている。一瞬でグール化した魔物と判断し、四肢を切り落としていき、魔物達を制圧していく。
「次から次へと。本当にツイてない。今度は、グールだなんて。いや、これはゾンビか!おい、ゾンビに追われるなんて一体何をやらかしたんだ?」
「え?ゾンビ?まさか!あぁっ!!ストップ!ストップストップ!!」
子供はゾンビと聞いて、魔物の姿を確認すると、私と魔物の間へ割って入る。
「あっちゃー。皆、倒しちゃったのか。おい!人間!何て事をしてくれたんだ!こいつらはボクを助けに来てくれたんだぞ!」
「何を言う。助けてくれと言ったのはお前じゃないか!先に感謝をするのが筋だろう!」
支離滅裂な事を言うこの子供をよく見れば、耳が尖って、ギザギザの歯が見えるた。細い手足にポッコリと突き出たお腹はインプの特徴だ。剣の切先をインプの首筋に突きだし問う。
「お前、インプだったのか。どういうことか説明しろ。」
「そ、それがどうした!こ、怖くないぞ!ボクに傷でもつけて見ろ!ボクの連れのアキトがお前をゾンビにして、裸にひん剥いてから首輪に繋いで人間の町を這いずり回してやるんだからな!」
「ほう。そうか。では、その怖いアキトとやらが来る前にお前を殺して立ち去るとしよう。」
「ひっ。あ、そうだ!ボクは、かの大賢者サラス様の弟子なんだ!サラス様が、お前を探し出してゴブリンの慰み者にするだろうな!丁度、3週間くらい前にベラルで貴重な素材を盗んで、逃げた奴がいるんだ。そいつを捕まえる為にサラス様の配下は、警戒網を引いているんだぞ!お前なんてすぐに見つかって、オークの慰み者だ!ざまぁみろ!」
ん?3週間前。もしかして。
「ほうほう。ベラルの結界は、随分と強力らしいじゃないか。それを突破するとは、さてはプラブルツ帝国の勇者?」
「プラブルツの勇者かどうかは知らないけど、あの結界に耐えるんだから勇者クラスの実力者だろうな!でも、それも時間の問題さ。すぐにサラス様から連絡が着て、討伐に移るだろう!サラス様の逆鱗に触れれば、お前は勿論、勇者だろうが、オーガの餌になるのさ!観念して剣を下すんだな!」
良くしゃべるインプだな。聞いてもいない事を良くもまぁペラペラと。やっと私にも運が回ってきたようね。
「ほうほうほう。そいつが盗み出した物と、お前の命どちらが重要なんだろうな?貴重な素材であればある程、お前の仇を優先とは思えないが。」
「ボクをユニコーンの角程度と比べるなんて、見縊ってもらっちゃ困るね!これでもボクはサラス様の研究を色々手伝ってたんだ!ユニコーンの角よりもボクを優先するに決まっているだろう!」
成程、ユニコーンの角か、奴の考えそうなことだ。不老の秘薬か魅了の魔術であっちの勇者を虜にするってところか。
「ほうほうほうほう。それは、随分と貴重な物を盗み出したものね。では、もし仮に私が、その盗人に心当たりがあって、更にそのバックに居る奴をサラス殿に教えれば、サラス殿は私に感謝する上に、討伐に乗り出すという事かな?」
「ん?そうだけど、なんだ?犯人を知ってるのか?」
奴への復讐が現実味を帯びてきたな、あとはここからどうやって脱出するか。
「あぁ。心当たりがある。私も奴を追ってここまで来たんだ。ところでお前、連れが居ると言ってたけど、助けに来るの?」
剣を収め壁にもたれ掛かかった。ここで争うより協力した方が得策である。
「ぐっ。ゾンビを寄越したって事は、助ける気はあるんだろうけど……お前が倒しちゃったし。」
「何?!じゃぁここから脱出する手立てはないの?!」
「お、お前こそどうなんだ!どうせお前も迷子なんだろう!いい歳して迷子何て恥ずかしい奴だな。」
「はぁ。なんて事だ。折角、奴に復習できる最大のチャンスを掴んだというのに。仕方ない。まずは、状況の確認と共有だ。私はレナ。レナ・グランツ。プラブルツ帝国で魔物ハンターをしている。お前は?」
希望が見えてきた。まだこの迷宮に籠る事になりそうだが、生意気なインプと話してるうちに、死へ誘う囁きは聞こえなくなっていた。
くっころにしたかったのに何故かこうなった。
次回22日 22時




