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今日から学校と仕事、始まります。②莞

土足厳禁

作者: 孤独

「くはぁ~~……」


山口兵多は疲れ切っていた。

当然、仕事の事である。久々に日曜日が休みであり、ホッとはしているのだが、先週の出来事がかな~りキイタのであった。奥さんの山口夏目は心配そうに、


「どーしたの?ゲームでもしようよ」

「夏目~。俺、ちょっと今。ゲームやる元気ねぇよ」

「それって私が兵多に勝てるチャンスじゃない!」

「フラフラな奴を相手にして、楽しいのか?」

「まー、ゲームしながら何があったのか。この夏目ちゃんに話してみなさい!」


家庭を持ったら、お互いがこーでありたいものだ。

たまにはお客様やクレーマー、社会の愚痴ばかりを描くのではなく。自分達の失態を曝け出すのも、平等と言えるんじゃないかと思い、制作。(作者の意見)


山口兵多はコントローラーを握りながら


「今、指導係をやっていたんだがよ」


嫁に苦労話を語るのであった。


◇        ◇



憧れる職業はあるものだ。無論、それが現在の職業なわけがない。厳しい現実だ。

兵多の場合、それはプロゲーマーであった。

目指した時期もあったけれど、それで好きなゲームを続けられるわけもなく、勝利を続けても足りない事ばかりだ。無職も経験し、嫁捕まえて、父親の推薦的なもので現在、配送関係の仕事に就いている。

夢破れた、みたいな書き方でもあるが。ゲームが好きな嫁と結婚できて、休日に一緒に遊ぶことは幸せ者だと思っている。なかなかそんな嫁はいないだろう。こんな年代になった友達だってそーいないはずだ。

家事が上手じゃないところは、目を瞑ってもいいくらいだ。


諦めろよって言っているわけじゃない。

折り合いつけろってところ。



ブロロロロロロ


「まず仕事は覚えること、それも簡単な事を覚えてから一つずつレベルアップだから。堅く考える必要ないよ」

「はい!頑張ります!」

「間違えない事を意識して、仕事をすること。間違えない事を続ければ、仕事も早くなるから」


誰だって最初にくれば、新人である。

新人さんの勘違いの多くは、自分ができると思っている者が多い。特に若い人。

しきたりとして、本人に言わないでおくが。会社で働いている人が新人さんに思っている事は



”こいつ、何日まで持つかな?”



である。ブラック企業とか関係なく、これは思われるのである。

ちなみに作者は、1日で辞めるだろうって、勤めてから2時間後くらいに言われた実績の持ち主です。

誰であれ、期待値など振らない。当然である。

大学卒であろうと、高校卒であろうと、中途採用であろうと、採用した人物が2,3年でモノになってくれれば、会社としては十分な利益なのである。その最低ラインを超えてもらえれば本当に助かるのである。

個人によって、仕事をこなす能力が異なるのは致し方ないが、そのラインをみんなが超えてくれればいい。


「配達の回り方だけど、お客様の希望を優先で回れ。これを無視しての再配達はめんどい。寝てたり、トイレ行ったりして、客が出てこない時あるけれどな。めげるな」


指導係は責任重大である。それは新人以上である。

早期で辞める新人さんに非はないが、指導係はせっかく来てもらった新人さんが辞めるとあっては、上司や周りからそれなりの陰口やお叱りを受ける。今の時代、自分が教わったやり方をしたらパワハラ扱いとかされるので、結構辛いのである。間違えた事を叱るのが、本当に大変な時代。



「最初の内、1か月くらいは地味で大変でも苦労をしてくれ。コツとかを教えられるが、それに頼り切るのはミスをしない前提だからな」



自分達が小学生とか中学生とか、……今の社会人となっても、教えてくれた人達というのは影響力が強い。

先生なんか目指さなくても、後輩ができれば教える事はある。

兵多の場合(作者の指導もそうだけど)。

簡単な作業でも一つ一つ丁寧にやらせて、完璧にマスターした上で、上達するコツを教えていく。

苦労は無意味だと言うのは、よく分かる。先に教えてとか言いたいのも分かる。

しかし、一度もその苦労を経験せずにコツをガンガン教えると、自分で考える力がなくなり、周りに頼りがちな社会人になるので、戦力的に微妙になるからである。特に考える力を失うと、それ以上の業務がこなせない、業務の判断ができなくなるなど、後々に響くのである。

思考力と判断力を養わないのは、学力や体力を疎かにすることである。それ以上かもしれない。

コツというのはミスをしない前提でもあり、そのミスが発生した対処法や問題もその苦労の大変さを知らないと、分かりようがないからである。無論、ミスを前提に仕事をするわけがない。

指導係の理想としては、新人がそのコツを考えられること。指導者の合う合わない、新人さんの適性とかもあるので、必ずしも正解とは限らないからだ。

妥当な範囲としては、指導者が教えるコツを新人がしっかり吸収してくれる事だ。指導者の教えが悪いもあるが、新人さん達の覚えも悪い場合、ちょっと困ったことだ。これを理解するのに苦労というのがそれなりに必要になる。



「ちはーーっす!、ここはちゃんと挨拶して入ってね。工場内の事務所まで運ぶからな」

「は、はい!ちわーっす!」



◇          ◇


プルルルルルル


「はい、お電話変わりました、山口です」

『ちょっと山口さん!最近、配達に来ている子!なんとかなりませんか!!』

「は?」


新人さんを使っていれば、とーぜん。クレームが来るものだ。2,3年という間の中で、やばい事故を起こすのは珍しい事ではない。山口だって、そうである。

指導者というのはそーいう対応もしたりもするし、しない時もある。その人による。

今回はそーいうヤバイ事故の中で、どーにでもなるはずなのに、無視して突っ込んだ事故、というか案件である。



『スリッパを履いて3階の事務所まで上がってきてくれって、言ったじゃないか!なのになんで最近の子は、土足で上がってくるんだ!こっちでも注意したのに、仕事だからって言ってくれるんだぞ!!』

「………え?」

『”土足厳禁”の紙まで貼ってあるんだよ!何度も注意してるのに!しかも、雨の日にやりやがるんだよ!山口さん来てくれよ!!』



3階の事務所まで上がるのかったりぃ~……。

と思うかもしれないが、それはその配達個所の会社さんも逆の事をそー思っている。

別にそんなところが何十件もあるわけじゃないので、指示された通りに我々は仕事をこなすだけである。こーいう会社さんはこちらにも利益のある仕事を提供してくれる事が多いので、会社としては大切かつ高い品質で対応しております。逆にデメリットばかりなら、雑に扱っています。

新人さんだろうが、なんだろうが。そーいう仕事は必ずあるもので、指導係の山口は当然ながら新人さんにご指導をする。

指導係だって付きっ切りなわけがない。



「おーい、お前。あの会社、3階の事務所まで土足で行っているのか?靴脱いで、スリッパ履いて上がれって言っただろうが」

「………………すみません」

「俺はちゃんと教えたはず。何をしていいか、何をしちゃいけないか。分かっているのか?」

「………………」

「”土足厳禁”のポスターだってある。読み書きはできても、意味まで分からないわけねぇよな?お前、大卒なんだろ?俺、高卒だけど」

「………………」


黙られても困るんだよなぁ。

イライラが集まっての、このねっちこい言い方をすれば


「パワハラですか!なんなんですか!もう!!」


どーすりゃあいいんだ!コンニャロー!このガキァ!!


新人さんから見れば、キツイことばかり。慣れるまでが大変なのは当然。

どーしてこの会社は3階まで上がらなきゃいけないのか。それ以前に仕事がキツイとこーいう事を吐き出してしまう。珍しい事じゃあない。ただ、こーも頻繁に吐き出されちゃ、指導もあったもんじゃない。

めげるわけにも、折れるわけにもいかない。社会人としても先輩な上で


「土足厳禁だったら、ダメに決まってるだろ!?俺はな、正直。今のクレーム、信じられないんだよ!ちゃんと最初、一緒に上まで上がったじゃねぇか!」

「3階まで階段で上がれっておかしいじゃないですか!あいつ等が下に降りてくればいいじゃないですか!」

「事務所が3階なんだからしょうがねぇだろ!お互いに仕事をしてるんだよ!!だーいたい!お前、階段くらい元気に昇らんかい!若ぇんだろうが!」

「若いからってパワハラさせないでください!!」

「今の状況が通常業務なんじゃい!この程度でパワハラ扱いなんて言うたら、ほとんどの仕事ができねぇぞ、コラァ!!身の丈に合う仕事をしろぉっ!!というか、そー思ってるならちゃんと仕事選びから考えろ!!どーんな仕事がお前にできるんかねぇっ!!」


やっちまったぁ……。



◇       ◇



大画面では迫力ある音と映像が流れているが、


「新人さん、俺のせいで辞めちまったんだ。そーいうせいになった」

「………………」

「おかげで上から減給喰らうは、新人が抜けた分の仕事は俺が持つことになるわ……まったく。指導の時間も考えろよ。そりゃパワハラとかあるけどよ。改善したかったら、もっと根本からよぉ。1人1人のレベルアップも重要なんだよ。目を背けるな」

「でも、兵多はその分までちゃーんと働いたんでしょ?むしろ、その新人さんのために良い事をしたと思う。続けられない仕事を長々やるのは良くないから、辞められるようにしたのは、兵多らしいじゃん」

「俺と会社としては、すげー困るんだけどな?」


ゲームしながら愚痴る。愚痴とは良い印象を持たないが、その本人にとってはこれっきりのための、別れ話みたいなことだ。新人さんだったり、先輩だったり、あるいは同期だった人が仕事を辞めるのは珍しい事ではない。

辞める事を悪いだとか、考えてはいない。

ただ、辞めるという事は今までそこで培ってきたモノを捨てる事であり、もうこれっきりの他者のせいにして生き続けてはならない事である。棄てた時間を自覚し、それを取り戻すだけの覚悟と活動をしなければならない。




いちお、このお話のモデルは自分が務め始めたくらいの時に起きた事件です。

この新人さんは大分前に辞めました。

やりたい事があるって言って。こんなことをやっていて、やりたい事はやれるのかねぇ?

ちな、この謝罪は自分だったので、結構根に持ちましたね。

1時間ほどお客様にご説教されたら、ホントに身に染みますよ。今ではお客様との関係も修復できて良かったです。



今の若い人が全員そーじゃないのは分かっているんですが、怒るとは違い、指導も難しいなって。思った瞬間でした。ちなみに問題となったのは、”土足厳禁”じゃないです。さすがにそこまで馬鹿じゃないだろって思いますが、似たようなことで、正直考えられん事をやってくれましたねぇって。

自分も新人の時、重大なミスを続けた事があるんで、あんまり強く言えませんでしたが。そーいうミスがバックボーンとなって、仕事のミスのヤバさについては五月蠅い人間になってしまいました。


軽い気持ちで始めるのは何事も大切ですが、それを判断できる頭も必要な世の中は少し生き辛いのかなって思いますね。

でも、普通に考えたらやるなよって判断できないんですかね?

公園でチ〇コを出さないでくださいって看板はないから、チ〇コを出して遊んでました。

みたいな事を曝して拡散しているんですよね?

そーいう注意書きを税金を使って告知しなきゃいけないんですかね。


世紀末感があって、恐いなぁ。


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