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5話 アリエルへの復讐3

 彼女の書斎には大きな本棚と、そこに満載された数々の書物があった。

 女神によれば、それらはすべて魔導書らしい。



「世界一の魔法使いと呼ばれるために、アリエルも普段から努力をしていたんですねえ。こんな難解な魔導書を何冊も読んで……」



 ホロリ、と涙をこぼしていた。

 ボクにはその努力がどういったものかわからない。

 なぜなら猫は努力などしないから、『努力してたんですねぇ』という発言のどこに涙を流す要素があったのかわからない。


 今、アリエルは、その努力の跡である書棚にいた(・・・・・)


 丈夫で重厚な光沢を放つ書棚に、両手両脚を縫い付けられている。

 手のひらと足首にナイフを突き刺して、そのまま貫通したナイフの切っ先が書棚に刺さっている状態だ。


 どうにも痛いらしくてさっきから涙をこぼしうめいている。

 鳴き声は、喉をうまいことつぶしたので、かすれた呼吸音が聞こえるだけだ。



「……しかし、これだけデカイ生き物でも、ずいぶん痛みに敏感なんだニャア。デカイ鳥とか犬とかは、すごく痛みに鈍い印象だったけどニャ」

「人類は痛みを与えられるために、痛みに弱く創られているのです」

「変なものを創りたがるやつもいたもんだニャ」

「痛みを知ることは重要ですよ。――さて、少し難しい魔法を使ってもらいますよ」

「魔法はだいぶ慣れたニャ。ボクが何回あいつを治癒(ヒール)したり拘束(バインド)したりしたと思っているのニャ」

「そろそろ、語尾と一人称、警告しておきますね」

「……俺が何回魔法を使ったと思っているんだニ……」

「……」

「…………」

「セーフ」

「……しっくりこなくて気持ち悪い」

「しかし、いずれ慣れます。あなたが繰り返し魔法を使い、魔法に慣れていったように……その『慣れるために重ねる試行回数と思考時間』こそが、『努力』なのですよ」

「なるほどニ……」

「……」

「なるほどにー!」

「……うーん……セーフ!」

「面倒くさい……」

「これから儀式魔法なのでさらに面倒くさいですよ」

「……こんな復讐、本当にご主人様は望んでいたのか? もうさっさと殺しちまえよ」

「あいつは『身分』にこだわるクソ女です」

「それがなんだ」

「だから『身分』を剥奪します。……いいですかクソ猫、ヒトの嫌がることをするのが復讐の基本です。大事にしているモノがあれば、奪い、壊す……ほしがっているモノがあれば、目の前にぶら下げて、しかし渡さない……これこそ、復讐です」

「なるほどにー」

「……次はアウトにしますよ」

「で、儀式魔法っていうのは? 台本にも『ここで儀式魔法!(※心身が弱り切っていなかったら指先から順番に刻んでいく)』としか書いてなかったんだが」

「わたくしの指示通りに陣を描いてください。……うふふふふ」



 やけに楽しそうな女神の指示に従い、書棚に磔にしたアリエルの足もとへ陣を描いていく。

 なんの陣かまったくわからない。

 猫には魔法陣とか無縁なのだニャ。



「では、陣に魔力を流していきましょう」

「なにが起こるんだニ……起こるんだ!?」

「きっとあなたへのご褒美ともなるでしょう」

「答えになってない」

「今回は『生き残らせるプラン』なので、死より辛い目に遭います、とだけ」

「相変わらず答えになってない」

「とにかく魔力流して! ほれほれー!」

「わかったよ……」

「あと今回、わたくしが復讐をプランニングしましたけど、次回以降はできそうならあなたも一緒に考えてくださいね。復讐方法を考案することこそ、勇者を悼むことです」

「わかった」



 それを、彼が望むなら。

 ……まあクソ女神に乗せられている感も賢いボクは当然気付いたのだけれど、やっていくうちに色々な学びがあって楽しいし、そのうえご主人様のためになるなら乗せられるのも悪くないだろう。


 もともと猫はそういう生き方が合っている。

 楽しそうならやるし、楽しくなさそうならやらない。



「魔力を流すニ……流すにん!」

「…………!?」



 アリエルの足もとの陣が光を放ち始め、すぐに、彼女の肉体の方にも変化が現れた。


 ボコン! ボコン!


 そういう音を立てて、手足のかたちが変わっていく。

 縮み、赤い体毛に覆われていくのだ。



「さっきは手足を萎縮させたらずいぶん怒られたけど、今はいいのか?」



 かすれた悲鳴を聞きながら、女神に問いかける。

 女神はニンマリしていた。



「いいんですよ。指も潰したり切ったり、そのたび治癒で治したり、ずいぶんいじめましたからね」

「しつこくやりすぎて最後の方、俺は飽きてた」

「見てください、アリエルの体についた血のあとこそ、我らの努力の成果なのです」

「……その努力の成果が赤い体毛に覆われて見えなくなりつつあるけど」



 アリエルの萎縮、発毛は、すでに胴体まで及んでいた。

 もはやまともにヒトらしいのは、赤い大きな瞳をたずさえた目だけだ。


 というか、あのカタチは――



「さあ、クソ女から剥奪しましょう――ヒトとしての権利、ヒトのカタチであれば当たり前に与えられる、『人権』を」



 女神がうっとりした顔で天井を見上げながら言った。

 天井になにかいいものでもあるのかと思って、ボクも見上げた。

 照明器具しかなかった。

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