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「いつこいつが気付くかと、わざわざずっと黙ってたのによ」


 航平は驚いて、その場から一歩後退りした。


「おいおい、お前は知らねえかも知れねえが、お前とオレサマの付き合いはそこそこ長いんだぜ?そんな扱いしてくれなくたっていいじゃねえか」


「そんなこと言われても―――」


 航平は、沖を横目で見た。沖は苦笑いすると、大丈夫だと航平をなだめた。


「そいつは正真正銘、使い魔だ。その使い魔の主人を俺は知ってる」


 それに、と沖は続ける。


「人語を使える魔獣は居ない。使い魔にならそう珍しくもないけどな」


「本当、喋れて良かったぜ。そうでなかったら、昨日のうちにその男に始末されてたかもしれねぇ」


「場所が場所だけに、もしかしたらと思っただけさ」


「何、別に気にしちゃいねえよ。もう過ぎたことだぜ」


「なら良かった」


 それで、と沖は航平と向き直った。


「戸田 航平君といったか―――君はもしかして、あの戸田 航平君かい?―――いや、その使い魔を見る限り、そうだと考えるべきか」


「えっと、それは一体...」


「ああ、済まない。そうだな―――君は秋野 瑞希という女の子を覚えているかい?」


「それは―――」


 航平は口ごもった。


「別に言ってもいいだろ。話しちまえよ」


 使い魔が航平を促す。


「そうだな―――沖さん、実は俺、彼女に関しての記憶を、ついこれまで失ってたんです。記憶喪失っていうのか―――部分的に、彼女のことだけ忘れていたんです」


 それで、と航平は続ける。


「沖さんは彼女について、何か知っていませんか?同じ魔法使いですし」


「ああ」


 沖は頷いた。


「知ってるよ。その子の代わりに、俺がやって来たんだから」


「とは?」


 航平は沖に、詳細を求めた。


「話せば、少し長くなるよ?」


「俺は構いません」


 分かった、と小さく息を吐くと、沖は語った。




 彼女の話をする前にまず、この土地について話さなくてはならない。


 魔獣の住む平行世界と、この現実世界とを繋ぐ境界口というのは、ある特定の地点にのみ形成される。いつでも、どこにでも発生するわけではない。決められたポイントのみでの発生だ。その地点のことを、俺達の間では“ゲート”と呼んでいる。


 “ゲート”というのも、そうありふれたものではない。世界規模で見ても、その数は二十と少しといったところだ。つまり、本来のところ“ゲート”は各地に非常に分散しているんだ。


 だが、この町にはその“ゲート”が二つある。複数の“ゲート”がこんなに狭い地域に存在する例は、ここの他にない。しかも、その二つの“ゲート”は異常な緩さだ。他の“ゲート”と比べると、魔獣の出現頻度が圧倒的に高いんだ。この町は、世界で一番危険だろうな。


 その前提ありきで、話を彼女――秋野 瑞希の方に戻そう。


 そんなわけで、“ゲート”は希少であるため、その“ゲート”から出現する魔獣の魔力を受ける地域も限定される。つまり相対的に、魔法使いの人口だって少ないわけだ。


 彼女がこの町にやって来た当時、この日本に現役の魔法使いは六人しか居なかった。その六人の中に、彼女と俺は居た。


 当時、俺と彼女と、もう一人の魔法使いが日本にもう一ヶ所だけ、別の地域にある“ゲート”を見張っていた。そしてこの町は、もう三人の魔法使いによって守られていた。しかし、この町には長らく新しい魔法使いが生まれていなかった。三人は魔法使いとしては高齢で、いよいよ、並の魔獣でさえ三人で相手しなくてはならない程になっていた。


 だから俺達は、若く優秀な魔法使いをこの町へ送った。それが彼女、秋野 瑞希なんだ。この町の二つの、この橋と、君と彼女の通っていた中学校周辺にある“ゲート”を、彼女と他三人の魔法使いが見張っていた。


 やがて彼女が中学二年生になって、三人の魔法使いは現役を退いた。彼女は優秀だった。二年近くも、この町を一人で守れるほどに。


 けれど、彼女はまだ幼かった。そして優秀過ぎた。


 七年前、この橋の下の“ゲート”から、大型の魔獣が同時に三匹出現した。七年前にこの地方に起きた大災害を覚えてはいるね?その張本人だよ。大型の魔獣というのは、世界中を見ても十数年に一度程度の頻度でしか現れない。大型は強力で、出現と同時に大災害を引き起こす。だから、なるべく大人数の魔法使いが、迅速にその処理に当たるのが常だった。だが秋野 瑞希はそうしなかった。自分の優秀さを過信したのか、それとも別の理由があったのか―――


 兎も角、彼女は三匹の大型魔獣を一人で相手取り、深手を負った。

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