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7

 自室に戻っていつも通り装飾を元に戻す。指輪の石もチャームも全てシユの色に染まりきっている。こうして同じ濃度で染まっているのを見るのもなかなか素晴らしいものではあるが、こちらではあまり使う機会がないため、シユは寂しかった。


「……彼、のあれは」


 レーヴェンの耳で揺れたピアスが一瞬思い浮かぶ。偶然にしては色も形も、まるで同じもののように見えたから。

 それに、ウェイニーのしていた指輪もシユのものと似たような彫刻だったのも思い出す。レーヴェンも指輪はしていたが、かすめる程度にしか見ることができなかったため分からない。が、石の色が違うだけの同じもの、という、何を根拠にしたのかシユにも分からないがそんな確信めいたものがあった。


「彼らもミスカラルドに……?」


 シユの持つ装飾と彼らの持つものが同じだとして。本当にミスカラルドの手により同じ世界からやってきたのだとして。しかしそれはまだ、シユの中では仮説としてでしか成立できなかった。肯定できない要素がある。

 レーヴェン、だ。彼はおそらく夜野家と同じ、“人ではないもの”。しかし、一緒にいたウェイニーは人間だと思えた。ウェイニーの発言からして、彼らにはまだ家族がいるのだろう。シユの住む家と彼らの家、家族構成は似ているのかもしれない。


「……」


 いろいろ、話をしてみたい。シユは楽しみの前に緊張しているような感覚と共に小さな胸の痛みを覚えた。踏み込みたいことに対しての恐怖もまた、あらわれる。






「あいつ、何のつもりだったのかしら……」


 ソファーに足を組んで座り、肘掛けに頬杖、不機嫌に頬を膨らませるウェイニー。


「昨日もいたな、あいつ。俺の場合は助かったが」

「ふぅん……」


 目を細めて、それでも機嫌が悪いのは直らないらしい。レーヴェンは繋げなおした装飾を確かめるように手を眺めており、ウェイニーの方は見ずにいた。左手人差し指の指輪から一周のチェーン、右手の親指、中指、小指の指輪には細かくチェーンがついている。それぞれがぶつかり小さく音を立てた。


「何よ、シユは最初からあたしたちの子なのに……」

「……番人から話を聞いたときから覚悟はしてただろ」

「そう、だけど」


 ウェイニーはソファーに埋もれるように背を預け、ネイルを眺めるように手をかかげる。部屋の照明でストーンが光り、片目を閉じた。


「シユはちゃんと、思い出すかしら」

「さぁ、な……でも急がせるのもよくないだろ」

「そうね──っていうか! クィディーいるんでしょ!? 話くらい乗ってきたらどうなのよ!」


 沈んだ瞳から一変、ウェイニーは怒りをあらわに後ろのソファーに座っているであろう人物を邪魔するようにソファーの背もたれを叩く。


「ああ、聞いてるっつの。お前も思い出してもらいたいのは分かる、が、あいつの気持ちも汲んでみろ……そこまで馬鹿じゃねぇだろ?」

「う……」


 振り向きもしないまま片手を上げてウェイニーを諭すクィディー。中指、薬指、小指に深紅の石が目立つ指輪、チェーンに下げられたチャームもまた深紅だ。


「落ち着け、焦るな、シユは戻ってくる。大丈夫だ」

「ええ……」

「俺も、かけるべき言葉をかけてやるまでは諦めないからな」


 それぞれの思いを新たに、三人は石の色が違うだけの揃いの装飾がつけられた手に力をこめた。






 何気ない話をしていると思った。

 初めて装飾をもらった時の、どんなもの?、という話。

 彼女は基本の形を改造し、だいぶ文句を言いながら彼に仕上げてもらったらしい。可愛いものが大好きだと、綺麗なネイルを見せてくれた。それが彼女の──。

 彼は装飾の具合を見てくれながら、彼女に疲れた顔で文句を言っていた。

 まだ慣れない環境だったのに、それだけでもどうしようもなく楽しかった。遠慮しながらでも、つい笑ってしまう。それを、遠慮なんかすることないのに、と──。




 「……」


 目が覚めて、目元がひんやりとしていた。泣いて、いるのだろうか。シユは目元を指で拭い、少し湿っていたことに困惑した。

 何故だろう、シユはさらに袖で拭い、身体を起こした。

 夢の内容はもう薄れてしまったが、とても心が温まるような、楽しい時間の夢だったはずなのに、どうしてこんなにも切なくなってしまうのだろう。懐かしくて、大切な。それでも、それ以上追うことは許されないという思いがシユの胸を支配した。


「シユ? 体調でも悪いのか?」

「ええと……」


 クレイの声に引き戻される。目の前に置かれている料理はほとんど減っていなかった。これではそう言われても仕方がない。


「体調は平気です。ただ……夢なのにどうしても気になってしまって」

「夢?」


 そう、たかが夢。もう薄れすぎて何も思い出せないも同然なのに、どうしても気になって仕方がない。意味があるようでないような。シユは指輪を見つめる。


「奥底の記憶なんじゃないか?」

「何か思い出したとか!?」

「それは、どうなんでしょう」


 夢はつまりはそういうこと。

 興奮気味に立ち上がってしまったイユリに、シユは指輪を見つめなおし、自分でも分からず首を傾げる。


「イユリ、分かったから座れ」

「あ、ごめんなさい……でもそっか、思い出したわけじゃないのかぁ……」


 シユよりも残念がっているイユリ。興味深そうな面々ではあるがその中でただ一人、カイルだけは誰よりも険しい顔をしていた。

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