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ダイニングの様子は朝と変わらず、だったが、シルフェイミに文句を言われているミスカラルドの姿があった。それもおそらく、食事の時間の話だろう。
シユはちょうどミスカラルドと入れ違いになる。
「ミスカラルド、やるべきことなのは分かりますが、あまりシルフェイミを困らせるものではないですよ?」
「おやおや、シユまで手厳しいか……」
困ったように笑うミスカラルド。この様子だと、シルフェイミに続き、誰かにも同じことを言われたのだろう。
それは本気での文句ではなく、分かっていながら行われる日常会話のようなもの。
「ああ、身体は大丈夫かな? それと、何か変化があれば嬉しいが」
「体調は一晩眠れば落ち着くと思いますが……変化、は、そう簡単には訪れないかと」
「ああ、うん……そうだったね」
気落ちしたのか、目を伏せたシユを安心させるようにミスカラルドは優しく笑いかける。それじゃあ、とまた部屋に戻るであろうミスカラルドの背、後頭部で一本たるみなく結われたグレーの髪を見つめながら、シユはダイニングに入った。
「……あの」
特に会話もなく、食器の音だけが響いていた夕食。だが、穏やかな沈黙の中、シユは口を開いた。
その言葉に対しての明確な返事はなかったが、全員が顔を上げたことから、シユは誰かが答えてくれるなら、という思いで続ける。
「他にも、あなたたちのような人種の方はいるものなのでしょうか」
「それは人間に紛れてるかって話?」
「はい」
珍しくラシュウが食いついてくる、というよりは退屈しのぎなのだろう、投げやりに質問に質問をかぶせてくる。シユが頷けば、ラシュウは小さく鼻を鳴らして。
「まぁ、いないこともないんじゃないの?」
と、どうでもよさそうに次の一口を放り込む。
イユリも口の中のものを飲み込んでから手を止めて心配そうに首を傾げた。
「学校で見かけたの?」
「見間違いかもしれないのですが……アシュウの言っていた特徴と似ている方が」
「は? あいつが?」
皿とフォークがぶつかり、がちゃりと音がする。
見物にまで行った張本人であるはずのアシュウは驚いているらしい。皿に突き立てられたフォークに野菜などが貫通している。
「お前、見に行ったんじゃなかったのかよ」
「行ったけどよ、そこまで気にするわけねぇだろ」
「は、使えねぇ……」
「あ?」
思いっきり馬鹿にしたようなラシュウに、アシュウは一層声を低く、力任せにフォークを皿にたたきつけた。それはもう、皿が真っ二つに割れてしまうのではないかというくらい。
喧嘩っ早いアシュウもそうだが、ラシュウもつくづく一言余計だ。
「……把握はしてないな」
ぽつり、と、カイルはシユを見ずにその事実を確かめるように呟いた。
「仮にそれが本当だとしたらイユリも用心しておかないとだな」
「私も?」
「当たり前だろ、お前は美味いんだから」
そっかぁ、とイユリは手元に視線を落とす。
忘れていた、というような雰囲気だった。同じ存在だとして、兄は兄だ。それが第三者ともなれば話は違ってくる。イユリにも少なからず危険は及ぶかもしれない。
指摘したクレイも自分は関係ない、というイユリの様子に首を振った。
「でも、どうしてわざわざここに来たんだ?」
「やっぱ親父が選ぶくらいだし、土地がいいんじゃないの」
「それで父さんのいるここに?」
疑問が残る中の沈黙。彼ら人種というものは、互いに干渉したがらないため離れて暮らすことが多い。そのことに対する疑問だった。
それでも留まる理由があるとするのなら。
「シユじゃねぇの?」
躊躇うことなく言ってのけたアシュウ。それは分かっていても口にすることはできないと思うことだ。深く考えることもなく、頭に浮かんだから言ってしまう。アシュウのこいういところは、なかなかに助かることかもしれない。
「イユリは最初からここにいたから、ということですか」
「そうだな、シユが来たのもここ数ヶ月のことだしな」
「そうですね……」
シユは怯える前、彼が見せたあの心から安心しているような笑顔を思い出す。怪我がなく済んだだけの他人に対しての表情だとは思えないものだったから。
どこか心に引っかかりを感じながら、シユは紅茶の入ったカップを手に取った。
「接触してきたか……」
明日に備え、各々が部屋で休みだした頃。カイルは月明かりの差し込む暗い自室で、ベッドに腰かけていた。
窓の外の月は欠けていて若干歪だ。シユがミスカラルドに連れられてきたのもちょうど、こんな月だったと、カイルは見上げながらそう思う。
「さて、どう仕掛けてくるか……」
あれは意図的であり偶然でもあった。シユのためにも、アレのためにも事を急がせるのは良くない。カイルは他人事ながらそう思わずにはいられなかった。
これがどんな結末になるのか、カイルは想像することはできなかったがせいぜい気にかけてやろう、と、溜め息を吐いた。




