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追憶ノ8

 台の上に置かれた例のかぼちゃ。その正面に立つのはウェイニーだが、その斜め後ろにシユも立つ。レーヴェンもやや遠目に見守り、屋敷二階、談話室の窓からは他全員が覗いていた。ただ装飾を使ってみるだけなのだが、これではまるで何か壮大な何かを行うかのようだ。


「ウェイニー、あれを壊すくらいで撃ってください」

「いいの? 本当に粉々にするわよ?」


 シユは迷いなく頷いた。

 装飾の使い方はほんの少し前に聞いた。意図的に魔力を溜めることもできる。それを実行し、今シユのチャームには魔力がそれなりに溜め込まれている状態だった。それを、この数日間で模索していた方法で使ってみる。


「それじゃあ遠慮なく──!」


 勇んだウェイニーは人差し指を立て、的に向けて狙いを定めないまま一発を撃ちこんだ。だがそれは寸分の狂いなく真ん中へと飛んで行き、宣言通り的を粉々に砕かんとする勢いだった。しかし手応えがなかったと言うべきか、砕ける音もなく妙な音がしたため、彼女は肘の力を緩める。


「あれ? 弾かれちゃ──弾いたの!?」

「で、できた……」


 的に手を向けたまま、二人は似たような姿で立ち尽くした。一方は驚愕に振り向きそうに、一方は安堵で脱力しそうに。上からは称賛なのか、口笛が吹かれる。

 的の前には紫色の障壁が残されていた。砕かれるはずのかぼちゃは傷一つなく、置かれたままの状態でそこにあった。ウェイニーが撃った瞬間、シユはあの障壁を作り、見事に打ち消してみせた。実際の意味で盾になったのはこれが初めてだが強度も申し分ないらしい。


「へーえ、本当に壁……盾? だわ」

「シユ、どうだ?」


 興味津々に維持されたままの障壁に向かったウェイニーは、ちょっかいをかけるように対した威力もないものを二、三発撃ちこんだ。次にもう一つやってみたいことのために障壁を残したシユの元へやってきたレーヴェン。不思議そうにチャームを眺めていたシユは顔を上げた。


「素の時よりもずっと扱いやすいです。けど注意しないと滑って、しまいそうな感覚が……」

「それは最初だから仕方ないな、後、そういう目的も兼ねてる。そう感じてもらえてるならよかった」

「ねぇシユ、これ残したままなの?」


 尤もな答えだ。ひとまず調整しておかなければならない不具合はない、レーヴェンは力強く頷いた。そして、未だに障壁の周りをうろついていたウェイニーがお構いなしに尋ねてきたため、シユはもう一つと彼に伝え、ウェイニーの元へ向かう。


「ウェイニー、今と同じ力でもう一度お願いできますか?」

「また違うことやるのね? いいわよ!」


 先程もそうだったが、いつもの人懐っこい笑顔とは違う、挑戦的で射貫くような笑みで的を向いた彼女は早くも狙いを定めにいっている。一度、シユに目配せをしたのはタイミングを合わせるのかどうかの確認だったのか、ウェイニーはやや笑みを深くすると指先から一発を放った。それは障壁の向こう側にある的をめがけて飛んでいき。


「割っちゃったー!?」


 障壁を粉々に砕いた。

 ガラスが割れた時のような音。ウェイニーは思わず、といった様子で怯み立ち尽くした。鳴った音が音なため仕方がないだろう。だがこれは意図的なものだ。シユが意図的に障壁を同じ強度で維持し、ウェイニーに同じ威力でと頼み、試した術で意図的に壊した。予告がなかったのがいけなかったらしい。


「ごめんなさいウェイニー、これで合ってるんです!」

「う、そうなの……?」


 涙目で振り返ったウェイニーへと叫んだシユは説明が足りなかったと駆け寄った。しかし、そうと知れたことで彼女はそういえば、と未だ傷一つない的へと視線を移す。何か手応えを感じた素振りだ。


「もうちょっと威力上げて撃ったみたいな大きさ、だったかしら」

「はい、放たれた瞬間を見計らって力を上乗せしてみたんです」


 そうすれば、もしもの事態にはならなくて済む。ただ、これを実際に戦闘の場で使うとなればかなりの練習が必要になってくるが。威力を計り、的確な大きさの力とタイミングを以って対処する。

 装飾の試用を含め、実際に形として扱ったのはこれが初めてである。出だしとしてはまずまずだろう。


「装飾使ってやってみたのは初めてなのよね?」

「それが、こうして使ってみたのは初めてなんです、ずっと一人で考えて小さく作ってみたりしただけで」

「シユは飲み込みが早いのかもしれないわね」


 それは、とシユは談話室の窓から見下ろしてくる全員を見上げた。その中で一人頷いてみせたヴェルク。お礼をするように彼に向かい頭を下げたシユに、ウェイニーは開いた口が塞がらないようだった。


「まさかヴェルクに教わってたの!? 一緒にいるところ見たことなかったけど」

「彼も少し人目を気にしていたみたいです」

「あいつも焼きたい世話は焼く方だけど……」


 信じられない、そんな顔でヴェルクを見上げたままのウェイニー。彼も上で小突かれていた。

 この数日間の中のある日、作業組は部屋に籠り、外出組は買い出しに出るなど屋敷に人がほぼ残らない日があった。その時、たまたま外に出ていたのがシユとヴェルクであり、彼女は気分転換にと庭で練習を、彼も外の空気を吸いたいと、ぎこちなく過ごした一時。

 意外にも、先に声をかけたのはヴェルクだったということ。普段寡黙すぎるところもある彼から声をかけられたシユは、集中していたこともあり何事かと半ば驚きはした。だが、彼女が試そうとしていた技が自身と似通ったところがあると見た彼は、その方法やコツなどを懇切丁寧に教えたのだとか。

 彼としては、手伝えそうだったから教えてみただけ、または暇を持て余していたから、といった理由かららしいが。


「ようし、シユ。ちょっと俺の一撃を防いでみろ」

「馬鹿言えクィディー! まだ……!」


 軽い、いつもの冗談のような雰囲気でありながら、その目は本気のようだった。新しい何かに触発されたらしいクィディーが、上で悪戯が過ぎる笑みを濃くする。どの指で狙うわけでもなく、不気味に右手を上げただけの彼。突然の予告にシユは焦り狼狽え、レーヴェンも怒りに一歩踏み出した。標的を捉えていないように見えるが、その手は何となく、ウェイニーを指しているような。


「は、ちょ、何であたし狙ってんのよ!?」

「張り合いが出るってもんだろ──!」

「──っ!」


 何の一言もなかった。炸裂した閃光は撃たれる側の視界を奪い、上で見物していた面々もその向こう側の様子を確認することすらできなくなる。

 そんな中で一つ、緊張に震えた吐息が聞こえた。


「……あ」


 シユが立っていた。クィディーへとかざした右手の前にはしっかりと障壁が展開されおり、その後ろには尻餅をついているウェイニーが。どちらも一歩も動けないどころか思考停止状態になっていた。極度の緊張で力が入ったまま動けないシユに、腰が抜けたように座り込んだまま彼女の背中を見上げたままのウェイニー。

 先に動けたのはシユだった。


「ウェイニー、怪我はありませんか!? 押し退けてしまって……」

「え、えぇ……平気……」


 そう返事はするものの、ウェイニーはまだ上の空のようだ。すぐ側に膝をついたシユが慌てているのも関係しているか。シユが立てるかと差し出した手、ウェイニーはその手を取って立ち上がり、上に元凶の姿を捉えた途端我に返ったらしい。


「クィディー! このっ……!」

「よぉ、無事で何よりだ」


 どの口が。怒りにもどかしく、片足で思い切り地面を踏んだウェイニーは、余裕そうに笑ったクィディーを殴りに行きそうな勢いだ。そうなるのも仕方ないと言えば仕方ないのだが、彼女は脱力して首を振り、考え込むように頬に手を添えた。


「でも何かしら、ヴェルクよりも安心感があるわ」

「さらに一枚壁があるからな」


 少し距離を取っていたらしいレーヴェンが溜め息混じりに戻ってくる。考えなくても言いたいことは分かった。鍛えられているとはいえ体を張って守りに行くのと、盾があるのでは随分感覚が違うというものだろう。

 レーヴェンは右手を気にしていたシユを心配して声をかける。


「……シユ、何ともないか?」

「はい、衝撃も一瞬でしたので」


 気にしていたとはいえ怪我をした意味で、ではなかった。間に合わせで考えたような技が早くも力を発揮したことによる、僅かな高揚感からだった。素直な笑顔が返ってきたことに安心したレーヴェンは、一端終わりだと休憩を促す。いらない緊張をかけすぎたためだ。

 そして屋敷に戻り、ウェイニーが意気揚々としていたクィディーを一発、素で殴りに行ったのは言うまでもない。






「悪いなシユ、付き合ってもらって」


 屋敷を出、森の中を歩くころ数分。町の影が見えてきたところでクィディーは口を開いた。

 ちょっとした買い出し、気分転換だ。ここのところシユは、更に扱う魔法の幅を広げるための模索や実践、たまに任される温室の植物の管理ばかりをしていたため、連れだしてみたという次第。

 何かあれば物を買ったりもあるが、要は荷物持ちになる。シユは構わないと首を振った。


「いえ、他の町には滅多に行かなかったので興味はあります」

「そりゃいい、ずっと家のことやってるのも飽きてくる頃合いだとも思ったからな」


 とは言いつつ、こうして町に出ることもあまりない。どうしても自分たちでは補えない用品や食材をまとめて買いに赴くだけだ。


「ったく、あの二人もよく頼んでくるもんだな……」


 重くなるぞ、とクィディーは愚痴をこぼす。きっとラジョラとテリスがリストに載せた布や飾りのことだろう。作業中に足りなくなる前に補充しなければ途中で切れた時が困る。


「シユ、持っておきたいものがあれば早めに言えよ」

「はい、気を付けます」


 何だそれ、とクィディーは肩を揺らして笑う。必要に迫られないと言い出さない彼女にとっては大事な心がけのようなものだ。

 日常の中の行動と変わらない。一つや二つ荷物が増えたところで日々の買い出しなのだ、手短に終わらせられるだろう。

 そうして商店が立ち並ぶ大きな通りへ。決して大きな町ではなかったが、店主と地元の客が親しそうに話していたり、外からやってきたらしい人物もいたりと、交流がある様子は見ていてとても雰囲気がいい。毎回この町に出ているのか、今日はこの町なのか、シユはただついて来ただけだが生まれ育った町と似ているために心地が良かった。


「……」


 しかし、リストに載ったものが並ぶ店に立ち寄っても品物を見るだけで、彼らは購入までしなかった。まるでいつものように談笑しているようでありながら、周囲を警戒しているような違和感。それを悟られないよう上手く隠した買い物風景。それに気づいた瞬間、シユにも緊張が走った。


「──気づいたか、レーヴェン」

「……ああ」


 覗いていた商店から離れると同時。低く、忌々しいものを見たかのような声音でクィディーは前を向いたまま、やや後ろを歩くレーヴェンへと問いかける。彼もまた気づいていたらしく、緊張感のこもった低い声で小さく頷いてみせた。

 それを聞いているだけで十分だった。良くないことに見舞われている。シユは振り返り見慣れた笑顔を向けたクィディーに対し、落ち着かない表情で見上げるしかなかった。彼もその表情に察していることは感じたらしいが、それを崩さない。


「シユ、少しばかり物騒だが付き合ってくれ」

「何か、あるんですね」

「ちょっとな、あの手の輩は早めに潰しておくに限る」


 買い物のついでを誘うような、軽くて次の文句を挟めてしまいそうな口調。しかし、事態を察している身としてはそんな浮ついた気分などではいられない。クィディーは深刻な顔で見上げてくるシユに対し、一度真剣な声音で答える。それは接触する意図と、考え得る最悪の結末を生むことを意図しているように聞こえた。

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