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追憶ノ7

 しっかりとクィディーからもらった本を読み、イメージは掴めていたシユだったが、やはり実践となると話は別だ。本当に。


「こりゃあ予想以上だったな……」


 控えていたクィディーが腕を組むのも無理はない。今日の番で外にいたヴェルクも無言で目を見開き、ついて来ていたウェイニーも開いた口が塞がらないようだった。本人であるシユでさえ、唖然とするしかなかったのだから。


「ど、どうしたら……」


 粉々に砕け散ったオレンジ色の破片。的にと用意された観賞用のかぼちゃ、であったもの。続く助言に覚悟を決めた彼女が試しにと放った魔法でこの状態になってしまった。散らばった欠片を拾っても元には戻ることはできないくらいに砕けている。中には消失してしまったものもあるだろう。


「所有してる魔力が多すぎるから一発も威力がでかいのか……?」

「あたしよりすごい砕け方したわね」

「ご、ごめんなさい……調節が難しくて……」


 シユは後ろの二人を向いて両手を握りこんだ。観賞用、絶対に食べるものではないと念押しされていた的でも、ここまで破壊してしまうとは思ってもみなかったからだ。彼女自身、抑え込んで放ったつもりだった。それがこの威力。


「これじゃあ俺と同じく即死級だろうな、さて……」

「あの、やはり攻撃の手段は持たないといけないものでしょうか……」

「持たねぇわけにはいかねぇな、降りかかる害は払えるくらいじゃねぇと……俺らだって一人で手一杯の時もある」


 だがまぁ、クィディーは歯切れ悪く頭を掻いた。


「お前は元から支援に回る魔法は得意そうだしな、そっちを幅広く模索してみたらどうだ?」

「いいかもね、まだ誰もいない役回り? だし」

「完全に肉体での盾野郎はいるけどな。魔力の上乗せで強化もしてるが」


 二人の視線の先にはヴェルクが。身長も高いが、体つきもがっしりとしている彼。壁のよう、なのはあながち間違った表現でもなかったらしい。

 盾。純粋に魔力で生成し、実現させられるとするなら強い力になれるだろう。何も癒しだけが支える力ではない。彼らの今までの戦闘スタイルに合わせてその幅を広げてみる。まだ攻撃の手段は見出せなくても、シユの当面の目標は決まった。




 経験を聞いてみたり、書斎へと足を伸ばしてそれらしい本を読み、支援の方向を広げていったシユ。まだ実践した回数は少ないが、この少ない日数で徐々に安定はしてきている。

 そうして数日が経った今、シユは全身が映る鏡の前に立っていた。


「着ると違うわねー! 可愛いんじゃなくて綺麗に見えてくるわ!」

「うん、丈もちょうどいいかしら、どう?」

「な、何と言えばいいのか……」


 興奮したテリスとウェイニーが部屋に押し掛けてきた朝。連れてこられった被服室にて、着替えさせられ鏡の前に立たされ、今に至る。

 肌触りが良く、軽い服。シユは落ち着きなく鏡の前で体をひねりながら見比べた。


「それじゃあ、気に入ってもらえた?」

「はい、とても……初めて着るような、と言うのでしょうか」

「ふふ、分かるわぁ、困っちゃうわよね」


 ジャケットのようなカジュアルさと、ドレスのような優雅さが合わせられた一着だ。上半身は濃い緑に白のラインで縁取られた、胸元からジャケットとベストが分かれながらも一体化したようなデザインになっている。肩と二の腕部分が二ヶ所控えめに膨らみ、袖は大きく広がりドレスのようになっている。絞ってあるが、肩口から外側は開いているため、内側からは柔らかな白いフリルブラウスが覗いていた。下半身は長すぎず短すぎず、シンプルにフリルが三段重ねとなったスカートになっている。だがしつこくなく、優雅な印象を忘れない作りだ。

 とても贅沢なものを着ている気分になってしまったシユは落ち着けずに、一度鏡から離れた。どうも、似合っているのかも上手く判断できないでいる。


「シユ、とても似合っているから安心して? 慣れないデザインで不安なのは分かるから」

「ありがとう、ございます」


 テリスもラジョラも自身満々で作り上げた服だ。その二人が似合うと言うのなら、間違いないのだと思える。ウェイニーの第一声も絶賛だった。シユは鏡を向かないまま、もう一度袖やスカートを間近に見て顔を上げる。


「何だか、ドレスでも着ているような気分になってしまって……」

「大袈裟だなぁ」


 近くの作業机で頬杖をついていたテリスはそうは言っているものの、嬉しさを押し殺せないでいるようだった。そして思い出したように隣で同じように座るウェイニーを向く。


「ウェイニーもこっちに来て初めてこんな服着たんだっけ? 一発で目覚めたあれ」

「そうそう、懐かしいわぁ……可愛いのっていいわよね──」

「ああ、やっぱりここにいたか」


 当時を思い出したウェイニーが浸るように目を閉じたところに間髪入れず、部屋のドアが開けられた。皆一様にそちらに目をやり、顔を覗かせたのはレーヴェンだった。


「装飾が完成したから探してたんだ」

「うっそ、あんたそんなに仕事早い奴だったっけ!?」

「何が言いたい……」


 入ってきた彼に対し、立ち上がって失礼極まりない言葉をぶつけたウェイニー。当然、レーヴェンは不満そうに眉を顰める。確かに、一手間かかりそうな過程をこの数日で仕上げてしまうとは早い、早すぎると言われても仕方がないのかもしれない。しかし、彼の手にはチャームも下がったチェーンが三本きちんと収められていた。指輪とは繋がっていなかったが。


「まずは指輪を──これが右手の、それと親指と小指の……」


 彼に渡されるまま、シユは自分で決めた指へと指輪をはめていく。幅の広い、まだ無色透明の石がはめこまれただけの銀色に輝く指輪。植物が巻きついたような細かい彫刻が施され、傾ける度に様子が変わって見えるようだ。既につけていることを忘れてしまいそうな程馴染んでいる。


「チェーンは魔力を通して取り外しができるようになってるんだ。イメージするだけでいい」

「……!」

「ああ、できたな」


 チェーンの端を指輪と密着させ、繋がるイメージを持って魔力を通す。するとそれらは溶けるように合わさり、まるで初めから一つのものであったかのように境目もなく綺麗な装飾になる。

 シユは真新しい装飾に両手を何度も返しては目を輝かせた。動かす度に流れ、シャラシャラと軽やかな音を立てるチェーンやチャームを楽しむように。


「へぇ、シユはこんな組み方したのね」

「ウェイニーは皆とは違いますよね」

「ええ、もっと可愛くできないかな~ってこうしてみたの」


 シユの手元を覗き込んできたウェイニーはその言葉を待っていたとばかりに顔の周りで両手を広げ、こだわりのネイルを惜しげもなくさらす。濃淡のあるローズピンク、左右で鏡合わせになるように細かなチャームを配置し、それらしくチェーンのようなラインを引いている。指輪は両の薬指に。


「面倒なことさせてくれたもんだよ」

「やるならこだわりたいでしょ!」

「チェーンで繋がない分考えることが増えたんだぞ……」


 レーヴェンは思い出して疲れたのか、顔に出しながらもシユの装飾の具合を見た。その目だけはどんな不具合も見逃さないようにと。間に挟まれる位置に立つシユは、想像に容易い当時の様子を考え小さく笑い声を出してしまった。


「まあでもあたしは細かい作業とかはできないから、デザインだけ考えてテリスにつけてもらったんだけどね」

「指輪にもこだわりはあるのですか?」

「指輪ー……はねぇ……」


 今のところ異常はないらしく、大丈夫だと手を離したレーヴェンに軽く頭を下げたシユは、続けたウェイニーに気になった一つを聞いてみる。薬指、考え方によってはその可能性もなくはないが、ない方に振れ幅が大きいか。

 ウェイニーは予想に反して目を泳がせ、歯切れが悪くなった。


「もう、今になって恥ずかしいのよこれぇ……」


 ウェイニーは赤くなって顔を覆う。これは指輪の意味に恥じらっているのではない、過去の行いに羞恥が押し寄せてきているそれだ。シユは聞いてはいけないことだったかと焦るが、その横でレーヴェンとテリスが鼻で笑ったのが聞こえてくる。


「先生が大好きすぎて遊びでお願いしちゃったの、つけてーって」

「純粋すぎたよね、ディスタもディスタだけど」

「きっと可愛い弟子からのお願いだったから断れなかったのよ」


 シユをディスタに見立てたのか、ウェイニーは両手を精一杯広げて目の前まで伸ばしてくる。その時のことを実際に見ていたのか、テリスは両者に呆れたような身振りをし、ラジョラはその気持ちが分かるとばかりに頬に手を当て微笑んだ。


「子供の失態なだけで……でも、でも勿体ないから外せないのよぉお……!」

「言うほど子供でもなかったじゃん」


 また顔を覆う一歩手前、ウェイニーは手を震わせながら何かに耐えていた。子供の頃の可愛らしい夢を今更壊すわけにもいかない、とでもいう彼女だけの葛藤のような。しかし、テリスはそれをばっさりと切り捨て言い捨てた。


「……シユ、試しに使ってもらいたいんだ。今いいか?」

「はい……ですができるものが限られていると言いますか」


 話に区切りがついたと判断したレーヴェンは説明や最終調整も兼ねてシユに時間の有無を聞く。意外にも彼女は最初の頃のように渋ることなく素直に頷いた。それでも、望まれる方法で使用できないという思いがその胸の内に溢れてくる。そこでレーヴェンは心配はいらないと笑いかけた。


「とりあえず装飾を使ってもらえれば何でもいいんだ」

「そうなると……誰かに協力してもらいたいですね」

「何、何!? シユ何かやるの?」


 ただの試運転だぞ。レーヴェンは途端に表情を輝かせたウェイニーに対し、面白いものではないと釘を刺す。一端考え込んだシユは思い当たったようにウェイニーを向き、提案をしてみる。


「ウェイニーは確か射撃が得意だと言っていましたよね」

「ええ、ディスタ仕込みのね!」

「少しだけ、手伝ってもらえないでしょうか」


 ウェイニーは満面の笑みで快く返事をくれた。だがもう少し、用意したいものがある。部屋を出ようと動いたシユに続き、レーヴェンとウェイニーはもちろんのこと、何故かテリスとラジョラも部屋を出ようとした。一端作業に区切りがついたからだろう、観戦に行くつもりのようだ。

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