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 忙しく立ち回っていた。

 崩れ落ち、見る影もなくなったその場所で。少しでも動けば砂ぼこりが舞い、視界が悪くなる。

 それでも仲間の機微は見逃さず、相手の行動も見極め、的確に術を駆使する。やはり相手も強く、攻防戦は続いた。後はもう、集中が切れるが先か、魔力の限界が来るのが先か、連携が崩れるのが先か。

 何度も何度も、通い続け誘い続けただけはあるのか、彼は諦めることなどしなかった。それこそ、こちらの全員を殺し尽くすまで。


 きっとこの交戦の中で、気が付いていたのは彼と私だけだったのかもしれない。間をおいて、狙われていることを。

 支え、癒し。狙われ、対処し。


 視界の端で捉えた動き。

 ──間に合わない。そう察した時には体はもう、走り出していた。

 彼らの間に入り込み、盾となりつつ強めの攻撃魔法を放つ。

 相手には、当たった。と、同時に当てられてしまった。体に走る激痛が、悲痛な呼び声が。

 私、は──。






「……!」


 飛び起きて痛む部位に手を当てる。夢の名残か、現実の感覚とはかけ離れたように、浮いた痛みが後を引く。左側、胸の周辺、腹部も含まれているか。苦しいよりも気持ちが悪く、頭も痛くなる。

 さらに、推測できるあの続きが、混乱を招く。


「死、んだ……?」


 呟いてみて、納得できたような奇妙な感覚に陥る。頼りなく震える右手は喉元に、左の手の平を上に向けて、チャームの抜けた場所に目を遣る。これはただの直感でもあったが、同じような失くし物ではないかと、残さない覚悟を持った上での。

 いくつかの光景が画面のように頭の中で切り替わる。埃っぽい地面に染みる血、抜けがなく等間隔に揃ったチャーム、彼の耳に下げられたピアス。そして、今、自分の手に戻ってくる。


「……」


 両手を布団の中に沈めるように置く。シユは目を閉じ、頭を振りながら左手で押さえた。ひとまず、考えを散らしておこうと。






 文字を追う目を閉じ、その文字が書かれている紙も折りたたむ。吐いた一息は長く、重たい。

 側にいたウェイニーは罪悪感を感じているようではあるが、不機嫌な表情で眉間に皺を刻んでいた。


「ごめん、ってば」

「別に怒ってないぞ?」

「嘘つき、普通じゃない時にそれ持ち出してくるの知ってるもの、あたし」


 レーヴェンは無言になりながら、折りたたんだ紙を使い古していそうな本に挟んで閉じる。ウェイニーから謝ってくるということは、それなりに酷い顔をしていたのだろう。しかし、それを言えばこちらにも非はあった。どっちもどっち、そう言うしかない。


「だから怒ってはないって言ってるだろ」

「あからさまに変な顔してるくせに」

「だから怒ってるんじゃなくて、こいつは別なことを危惧してるんだろ」


 テーブルに読んでいた本を投げて置いたクィディーは脚を組みかえた。そうしたクィディーの顔をしばし見つめたウェイニーは、さらに顔を歪めて目を逸らす。上辺だけでも知っているからこそ、察せらる怖さがある。


「シユがまたどこかに行っちゃうとか思ってる?」

「……」


 ウェイニーはソファーの背もたれに腕ごともたれかかり、彼が危惧しているであろうこと、自分でも心配になったことを言葉にしてみる。彼女自身、視ただけであり、折り重なる状況の中をもがいたわけではないため、それは一種の憶測にしかならない。

 ウェイニーは、ちゃんとレーヴェンの目を見ながら話しておきたかったが、どうしても合わせてもらえないため、仕方なく目を逸らした。


「あたしは、それはなさそうだと、思うんだけど……」

「まぁそれには俺も同意だな」


 体勢を元に戻したウェイニーは、膝の上で両手の指を絡ませながら、言い訳を並べるように目を伏せる。そこへクィディーが同意を示したことにより、レーヴェンはどこを見てもいなさそうだった目を動かした。


「そこまでの脅威なんてないわ、ここには……きっと……」

「今度はどこに消えるって話だな」


 とんだ笑い話もいいところか。レーヴェンはふっと笑った。

 今までもこんなことは経験してきている。それこそ、今更動揺していることが可笑しくなってくるくらいには。やはり、後には引けない状況なためか。以前よりも弱気になりやすくなっている。


「それにしても劣化しないのね、その紙」

「……あぁ、かけられたものがまだ効いてるんだろ」


 落ち着いた雰囲気からか、ウェイニーは閉じられて見えないにも関わらず、あの紙についてずっと思っていたことを言ってみる。

 レーヴェンはわざわざ紙を取り出し、手首を返しながら表面を確認した。ウェイニーはどれだけの時間が経過したものなのかはっきりとは理解していなかったが、その割には真新しい見た目だと常々気にしながら見ていた。何度も折りたたまれているはずなのに、折れ目が毛羽立っていないことが。


「ふふ、何だかシユさまさまね」

「必死、だったんだろうな……」


 前のめりに頬杖をついて、ウェイニーは面白そうに歯を見せて笑い声を出した。次いで、切なそうに微笑み彼の手元を見つめる。


「ね、読ませてよ」

「駄目だ」

「えー! どうしてよ?」


 レーヴェンに近づくように座る位置を移動しながら、ウェイニーは紙に手を伸ばした。が、レーヴェンは取られる前に素早く紙を避ける。手が空振り、冷たい言葉も聞いたウェイニーは、むくれて足をばたつかせながらソファーも叩いた。


「誰が読んでもいいように書いてあるが、これは……」

「……そう」


 文面は内側になっているが、反転した文字が透けて見える白いままの裏側。レーヴェンは持つ指に力が入り、苦しそうな視線を落とした。むくれていたウェイニーは言葉の意図を感じ取り、諦めたように口を尖らせて目を逸らす。


「シユがそうしたんなら仕方ないわ」

「俺の意思は無視か」

「場合によるわよ」


 ちょっとした仕返しのつもりか、腕を組んで踏ん反り返ったウェイニーに、クィディーは可笑しそうに喉を鳴らした。レーヴェンは紙を閉じなおしながらクィディーに目を遣り、何が可笑しいのかと、笑われたことに対して不快そうに眉を顰める。


「何だか、早くシユに会いたいわ……」


 そんな様子を他所に、また膝の上で頬杖をついたウェイニーは、小さく溜め息を吐いて目を閉じた。

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