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 不安がないわけではなかった。

 あれは不意打ちが過ぎたから、ちゃんと集中すれば大丈夫。邪念を払って、横一列、等間隔に並んだ光を見据える。

 装飾に巡る魔力、これから使う魔法の影響でチャームが重力に逆らい浮き上がる。迸る電流が音を立て、シユはそれを拡散させるように手を横に薙いだ。


 迸り、弾け、割れる。舞った欠片は白に、水色に煌きながらやがて消える。溜めていた息を全て吐き出すかのように、手を下ろしながらシユは深く息を吐いた。


「──す」


 すごい、やっぱりすごい。未だ座って見物していたウェイニーは地面に手をついて前のめりになっていた。

 壮観、だったと言える。横一列に並んでいた光は、シユが手を払い電流を当てれば左から連鎖するように弾けて消える。

 嬉しさに表情を変えたのはウェイニーだけではなかった。レーヴェンはふっと笑い、それ以上標的を出さなかった、クィディーも最初こそ驚きに目を見張ったが、満足そうに口角を上げる。


「大丈夫じゃないシユ! どう、楽しかったでしょ?」

「……は、はい。ウェイニーが楽しむのも分かった気がします」

「で、装飾の方はどう?」

「今度は巡りが良すぎて少し怖いですね……」


 走りながら立ち上がったウェイニーがシユの背中を叩く。驚いてウェイニーを追っていたシユだが、質問に色が薄れたチャームの下がる右手の装飾を確認しつつ考える。


「調整後すぐはそうだろうな」

「そうそう、皆一緒だからそこは深く考えなくても平気よ」


 管理をしているレーヴェンと、実際に使っている彼らが言うのであれば別段おかしなことでもないのだろう。シユは手を下ろした。


「何もしないと冷えるし、また中でゆっくりしましょうか」

「そうだな、話すこともあるだろ?」

「そりゃあもう!」


 そんな話をしていればクィディーは中に戻っていったようで既にここにはいなかった。片がついたからか、困ったウェイニーのためにも準備をするためか。シユは上機嫌なウェイニーに連れられるまま、レーヴェンはそのあとを追うように、一度庭を振り返ってから屋敷へと戻った。


 話、となると暗いものになってしまうことは確実だろうと、シユは迷ったが聞ける可能性があるのなら聞いておきたいとも思っていた。どうしても臆病になってしまう他人へ向ける魔法を。






「別にそんなの普通にあったわ」


 まるで日常会話の一つでもしていたような軽すぎる返事に、シユはしばし考えが途切れてしまった。


「ふ、普通に……」

「ええ、あたしたちは割と使える方だから暴発っぽいのも、怪我させるのもさせられるのもね」

「確かに、怪我は日常茶飯事だったか……?」


 今しがたシユは、この前起こしてしまった事故にも等しい暴発の件を話していたところだった。もう誰も気にしてもいないし、気にしなくてもいいとさえ思っていること。不意打ちだったとはいえ、暴発により怪我を負わせてしまったことだ。

 こんな話に明確な答えよりも同情などが先に来てしまいそうなものだが、よりによってこんなにもあっけらかんとした会話になってしまうとは。シユは隣でマドレーヌを貪っているウェイニーを見て、これだけ重く考えを巡らせているのが変な気にさえなってくる。


「得手不得手っていうのは誰にでもあるってね」

「……」

「まぁ、お前の場合は優しすぎるんだな、きっと」


 最後の一口を放り込んだウェイニーはカップを、カップを置いたクィディーは頬杖を。話の内容と、彼らの雰囲気が噛み合わない、何とも不思議な空間。あえてそんな空気を取り繕っているとも思えないそれは、本当に彼らがそのような日常を過ごしてきたのだと感じさせる。この会話そのものが日常茶飯事であったかのように。


「逆にあたしとクィディーなんか壊すしか能がないからね」

「……否定はしねぇ」

「そうなんですか……?」

「そうよ、シユみたいな優しい魔法なんかからっきしだもの!」


 ウェイニーの装飾へのこだわりは可愛いという以外にも撃ちやすさもあるのかもしれない。指先に集中させることでさらに扱いやすくするためか。

 クィディーの扱う魔法はまだ見たことさえないが、綺麗でも背筋の凍るような深紅の色はそれを物語っているのだろうか。


「元から持ってる素質もあるだろうな」

「レーヴェンは創ったり造って組み合わせるとかしか能がないもんね」

「それでもいいって言ったのはクィディーだぞ……」

「それも複雑なもの、ですよね?」


 当然だというように頷いた三人。

 生まれ持った才能や素質はあれど、誰もが避けて通りたい道はある。シユやレーヴェンが得意とする魔法がそれだ。誰かを護り支える術は続く集中力と膨大な量の魔力が必要であり、己の力で一から創り出し組み合わせ、別なものへと変換したりする術もまた、過程が複雑で面倒というもの。


「シユはそうね、護って支えることしか能がない」

「ふふ、そうかもしれませんね」

「何でそう否定的にしか考えねぇんだ……」


 簡単でいいじゃない、ウェイニーは得意げに脚と腕を組んでふんぞり返る。

 穏やかに微笑んでいたシユだが、さらに聞きたいことはこれよりも重いものだということに、膝に置いていたカップを持つ手に力が入ってしまう。


「あの、こんなこと聞かれても迷惑だと思うのですが……いいでしょうか」

「答えられることなら問題ないと思うが……」


 先程の切り出しよりも深刻な様子になっているのは明白。彼らはそれとなく居住まいを正した。


「私、は……人を殺したことがあるのでしょうか……」


 本当に、聞かれても迷惑極まりない内容だ。不確かで、自覚のない殺人を犯したことを他人に聞くなど。

 しかし、彼らの目は何よりも真剣さを含んでいた。目の色そのものが変わったかのような、何をも聞き落としてはならない真剣さを含んで。


「……どうして、そう思ったの?」

「ごめんなさい、信じてもらおうとは思っていませんが……夢、を」

「夢……」


 そうだ、たかが夢。けれど、シユはそれを失われた確かな記憶として認識している。

 知り合って間もないと言っても過言ではない彼ら、しかし誰よりも親しみやすく馴染みがある彼ら。こんな突拍子もない話をしようと思ったのはそれだけが理由ではなかった。

 夢で見た、共に行動をしていた彼らは、レーヴェンとクィディーだったのだから。

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