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彼らのこの屋敷にも裏に庭があるらしく、暇つぶしや魔法を使って遊ぶときは決まってここを使うらしい。夜野邸とは違い、木々の中にくり抜かれたような芝が広がり、石造りのようなガゼボが置いてあるだけのまるで殺風景な場所だ。
「よし、レーヴェン、あれ出して」
「何でお前がやるんだ」
中央を陣取りやる気を見せるように振り返ったウェイニーと、その後ろにシユ、レーヴェンが眉を顰め腕を組む。遅れて出てきたクィディーは屋敷の壁にもたれかかりその様子を眺めているだけ。
「何か撃ちたくなってきたし、シユもその方がやりやすいんじゃない?」
「……それもそうか」
「だからほら!」
そうして何もない正面を指差しながら急かすウェイニーに、溜め息を吐いたレーヴェンは右手を掲げてチャームの魔力を放出し、大小様々なローズピンクの光の塊を辺りに浮かべる。何とも幻想的でもある光景だが、ウェイニーはこれを撃つという。
両手の指を銃のように構えたウェイニーは挑戦的な笑みで浮遊する光を目で追う。
「じゃあレーヴェン、適当によろしく!」
「ああ」
と、強く踏み込んだウェイニーは手始めといった様子で三発、人差し指から放った閃光で光を消し飛ばして見せる。その標的にも抜かりはなしか、当てられた光はガラスが割れたような音と虹のような欠片を伴って消し飛ぶ。
「やっぱこれでしょう! 楽しいわ!」
「ったく、こんな余計な……」
などとそんな文句を並べつつ、レーヴェンは小さく手を動かし始める。するとそれに連動するように光の塊が縦横無尽に飛び回り始めた。
しかし、そんなことは些細なことだと、ウェイニーは舞うように立ち回りながら的確に動き回る光を消し飛ばしていく。片手を押さえながら重い一発を撃ちこんでみたり、時には両手同時に撃ってみたりと、様々な立ち回りを見せる。それでも狙いは決して外すことはない。
「……」
何て、楽しそうな。
虹色の欠片が舞う中、気分が乗ってきたウェイニーが見せている笑顔は無邪気でもあり、戦う者のそれでもある。眺めていたシユは、自然と手が上がっていくのを抑えることはしなかった。手の甲を傾けて乗っていたチャームを転がしてみる。
そして。
「レーヴェン! なんで撃っ──!」
「ご、ごめんなさい……! 頼まれてもいないことを……」
レーヴェンは視界の端でシユが動きを見せたことに気が付いたからこそ、そんなことをしてみたのだろう。普段であればやるはずのないこと、いくつかの光の塊から光線を射出させたのだ。
とんでもない不意打ちを食らったウェイニーだが、それを避け、撃ってきたものを撃ち消す。怒り心頭なのは明らかで、構えの姿勢を崩さないまま彼女はレーヴェンに相応の言葉をぶつけようとしたところ、さらに追い打ち。
避けられない。ウェイニーの目の前、シユは障壁を作って打ち消した。唖然とした表情のウェイニーに気が付いたシユは狼狽えてしまう。
「いいじゃない、もっと楽しくなりそう! シユ、頼めるかしら?」
「……!」
「できるか? あいつは言いだしたら聞かないぞ」
「は、はい! できる限り支援します」
よしきた、ウェイニーは拳を握るとまた手を構えて備える。
「俺は俺で好き勝手にするからな、お前らのことは考えないつもりでいくぞ」
「上等じゃない! あたしにはシユがついてるもの!」
再開。
変わることのない百発百中というウェイニーの腕。撃ち消した側から新しく作られ、時折光線を発射する光の塊を操るレーヴェン。
その中でも上手く立ち回っているウェイニーを見ている限り支援などは必要ないと思うシユだが、そこはあえてやっていることなのだろう、レーヴェンが回避不可能な合間で仕掛けてくる。先程渋っていたことが関係しているのは間違いなく、促されるように魔法を使うことに申し訳なさを感じたシユも、調整のための一環と思うことにする。
「レーヴェン、意地悪にも程があるでしょ」
「いや、上手くできてるよ、お前」
「そうじゃなくて──って、シユありがとう!」
「い、いえ……」
楽しそうなのは変わっていないが流石に疲れてきたようで、ウェイニーは一気に両手で撃ち消したところでレーヴェンに向かい文句を言う。シユの後ろ盾があるとはいえ、追い打ちをかけすぎではないかと。
しかし当の本人はどこ吹く風。最後に一発とばかりに撃ちこみ、ウェイニーが対処できないと分かるとシユがそれを弾き返す。
「はぁ、もうやめとくわ」
「ああ、一旦休ませてくれ」
「お疲れ様です、二人とも」
「ふふ、シユもありがとうね。久しぶりにすごく楽しかったわ」
ウェイニーが手を振りながら項垂れれば、レーヴェンも手を下ろして浮遊していた光を消す。
「シユ、どうだ、違和感とかあったか?」
「いえ、むしろ以前より魔力が通りやすくなった気がします」
「それなら良かった」
それぞれ魔力を消費し、色が薄くなったチャームを手元にウェイニーとレーヴェンは芝の上に直接座り込み、シユもそれに倣って一緒に座り込む。
そして最終確認を。シユは思い返すように装飾を見つめ、確かな体感を伝える。安心した溜め息を吐いたレーヴェンの隣で、ウェイニーは腑に落ちないような唸り声を上げた。
「でも今やったの護りばっかりだったじゃない、ばちばちもやらなくて平気?」
「ば、ばちばち……?」
「ああ、ごめん。あたしが勝手に呼んでるだけなんだけど……」
シユはもしかして、と思い当たるものを見つける。唯一でもないが、直接的に他人へ影響を与える術を。試しに右手の装飾にそれを巡らせてみる。
チェーンを伝うように目に見える電流が音を立てる。
「そう、それそれ!」
「……意外と知られている技、なのでしょうか?」
「っあー、使う奴は使うわね……それよりシユもやってみたら? 楽しいわよ!」
立ち上がりそうな勢いで先程立ち回っていた場所を指さしたウェイニー。今度のレーヴェンは嫌な顔一つしなかった。やるならやる、といった様子。
「不安ならクィディーでも隣に置いておけばいいわよ」
「物扱いか全く……まぁよくやってたじゃねぇか、シユ」
「そ、そうでしたか?」
「ああ、何もそう不安がることねぇよ」
様子見から一変。休憩に入った彼らを見たからか、クィディーがやってきて側に立った。彼のことだ、世辞でも気遣いでもない言葉と共に、シユの頭に荒々しく手を乗せる。少々乱暴すぎるそれは、シユにはちょうどよかった。
「どうだ、俺が見ててやるからやってみるってのは」
「いいのですか?」
「何よクィディー、珍しく人がいいこと言っちゃって」
「拙い奴の面倒見るのも一環だろ?」
そうして右手の装飾を揺らす。
「お前が手を出す気になったんならこっちも助かる」
「万全の状態で帰してやりてぇだろ?」
「まぁ、な……一通りの確認をしないと意味ないからな」
レーヴェンが立ち上がり、シユもつられるように立ち上がる。それぞれ装飾、チャームの色を確認しながら数歩前に出る。
「俺は標的は動かさないし、一定の間隔で置いておく」
「お前は好きなようにそれを壊せばいいさ、やるか?」
「はい、お願いします」
先程とは違い、浮かぶ光の塊はクリアブルーだった。レーヴェンのチャームと変わらない色。
シユの少し後ろではクィディーが腕を組んで待機している。見ただけではまるでやる気がないような。けれど悟られないように気を張っているのも感じられる。
シユは伸ばした手の装飾を見つめながら集中を始めた。




