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「今日はね、きっと大丈夫よ!」
「ええと……?」
「レーヴェンよ、大分慣れてきたみたいだし、今日は絶対長引くだろうから対策もばっちりよ!」
ぐ、と拳を握りしめ、顔を上げたウェイニー。今日こそは話しこもうという気合いが伝わってくるようだ。
玄関に入り扉を閉めれば寒さは多少和らぎ、シユは一息ついた。
「はいはーい、ただいまー」
「お邪魔、します……」
前回同様、ウェイニーはコートを脱ぎ捨ててソファーへと放り投げる。それを目で追っていたシユはかけられた声にそちらを向く。
「クィディー、お久しぶりです」
「ああ、ゆっくりしていけ」
「ありがとうございます」
ティーセットが乗っている盆を危なげもなく片手で持ってきたクィディーが軽い挨拶をする。その様子を見たウェイニーが文句をつけるのは必然で。
「ちょっとクィディー! 危ないでしょ、ちゃんと両手で持っ──マドレーヌ!」
「分かったから、ほら」
まるで間食を楽しみにしている子供のようだと、クィディーが盆を置くよりも早く座り、ウェイニーはシユを手招きする。隣を叩いているということはそこに座れということ。シユは促されるままに座り、やはり前回と同じ位置なのだと思う。
しかし、見当たらない人物が一人。
「ああ、レーヴェンは準備してるわ。装飾のメンテするんですって?」
「はい、何があったのかは分かりませんが……」
「それならあたしたちも分からないわ、装飾の管理っぽいことしてるのレーヴェンだし」
早速マドレーヌに手をつけ、食べながら説明をしてくれるウェイニーは空いている手の指を動かしながらネイルのストーンを反射させる。
「気になっていたのですが、ウェイニーの装飾はそのネイルですか?」
「そうよ? 言ってなかったかしら、ふふ、可愛いでしょ?」
「レーヴェンに手間かけさせてまで作らせたからな、こいつは」
一旦マドレーヌを置いたウェイニーはしっかりと指先を拭いてからシユによく見えるように手を差し出してくる。
ベースは濃いめのローズピンク。一見不規則そうについているストーンは手を並べてみると左右対称になっていることが分かる。それだけでは味気ないと彩るラインはチェーンのように。
この場合、ベースの色よりも薄めのローズピンクに染まっているストーンがウェイニーのチャームということになる。指輪と独立してしまっているがウェイニーの装飾はこれでちゃんと機能しているのだろう。
「皆の装飾もおしゃれでいいけど、こっちの方があたしは可愛くて好きだからね」
「扱い方は変わらないのですか?」
「ええ、でもあたしはこっちの方が使いやすいから」
撃つからね。
ウェイニーは指を銃のように立てると腕を真っ直ぐに伸ばして狙いを定めるように片目を閉じた。
「後でちょっといろいろ遊びましょ! メンテが終われば試しにってやるはずだから」
「大丈夫でしょうか……」
「平気よ、いざとなったらクィディーが打ち消すなりできるから」
「俺を出すか、そこで」
二人の話を聞きながら一人優雅に茶を楽しんでいたクィディーは名前が上がったことに対して面倒臭そうにウェイニーを見遣った。
「何よ、そう言いつつ危なかったら助けてくれるくせに」
「ガキの面倒見るのも仕事だからな」
「ひっどいわぁ……」
ウェイニーは拗ねたように食べかけのマドレーヌを取ると、ソファーの背もたれに思い切り寄りかかり一口頬張る。子供と言われたのが気に入らないのは見て取れる。
と、リビングのドアが開いた。
「遅くなって悪いな」
「準備できたの? あたしも行くわ!」
「……邪魔はするなよ?」
飛び起きるように最後の一口を放り込んだウェイニーはシユも一緒に立たせ、ドアを開けたまま待っているレーヴェンのところまで行く。明らかに気分が上がっていそうなウェイニーを嫌がるように眉を顰めたレーヴェンだが、言っても聞かなさそうだと諦めたようだ。
「クィディー、は、行かないわね」
「ああ、終わったら呼べ」
さっさと行けとばかりに手を払うように動かすクィディーに、うん、と納得したように頷いたウェイニーのやり取りを確認してからリビングを出、玄関から二階へ伸びる正面階段、一階の右側にある小さな物置き部屋という雰囲気の部屋へと移動する。
中は工房と表現するのが一番相応しいという光景が広がっていた。レーヴェンだけの持ち場なのだろう、一人用の椅子しかなく、机もそう広いものではない。壁にかかる工具と呼んでも差し支えのないもの、掃ききれていない小さな欠片、大きさの違う引き出しの棚。
「シユ、装飾を貸してくれるか」
「は、はい」
「相変わらず雑多ねぇ……」
「邪魔するなら出てろ」
周りを観察してしまっていたシユは、呼びかけに慌てて装飾を外しレーヴェンへと渡す。正に職人の顔といった様子の彼は席に着きながらいくつかの工具を並べ、その中から先の尖った工具を取ると、棚を眺めながら部屋をうろつくウェイニーをたしなめる。それでもその目はシユの装飾しか見ていない。
「メンテと言いつつぴかぴかにもしてくれるわよ、あいつ」
「調整しようかとは言われていましたが……」
「それも一環なのよ、物造り好きだからね~、レーヴェンは」
手元を覗くわけにもいかず。手持ち無沙汰に工房を眺めたり、時折クリアブルーに光るレーヴェンの手元に目が行ったり。また二人で内緒話をするように小声になりながら作業をする彼の背中を見守ること数分。
「これでいいはずだ」
「さっすが、早いわね!」
こんな短時間で終わってしまうとは。元から微調整だったのか、ちゃんと終わらせられたのかと少しばかり失礼なことを思ってしまうが、仕上がったものを見てみればそんな考えは吹き飛ぶだろう。
レーヴェンに手渡された装飾、指輪は真新しいというほどに磨かれ、チェーンとチャームの結束がより強まった感覚が確かにする。
「できれば、使ってみてからの感覚も教えて欲しいんだ」
「……」
「できるか?」
装飾が乗せられたシユの手ごと、レーヴェンは握りこむ。一瞬シユの手が強張ったのも、装飾関係で気分が暗くなっていたことも、分かっていた。だからこそ、今ここで同じ物を持つ者として使って欲しかった。
強制はしない。レーヴェンの目は真剣でも無理強いする強さは含まれない。隣に立つウェイニーも大丈夫だと言うようにシユを呼び笑顔を向ける。
「はい、できるだけやります」
「よし! 使わなきゃ始まらないしね!」
頷いたシユは装飾を握りしめた。




