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 人が集中しだした商店街を歩いていく。時折並ぶ店を気にしながら楽しそうに歩き回るウェイニーを目で追いながら、シユも並ぶ店に目を遣る。数ヶ月をこの地で過ごしていたというのに、これだけゆっくりと何も気にすることなく眺めながら歩いたというのは初めてかもしれなかった。


「はぁ、何だか懐かしいわぁ……」

「懐かしい……?」

「ええ、前もこうして皆で歩いたものだわ……」

「……」


 ウェイニーは両手を組んで伸びをし、どこか遠い場所に思いを馳せているのか、その瞳はここを見てはいないように見えた。

 そして宣告通り、二人から少し離れて様子を見ながら歩いているレーヴェンは二人分の鞄を持っている。シユは遠慮したがウェイニーが有無を言わさず、またレーヴェンも請け負ったことからこうなっていた。彼としては、調子に乗ったウェイニーが余計なことでも言わないかという心配もあったが。


「特に何がってわけじゃなくても、ただ違う場所を歩くだけでも違うでしょ?」

「そうかもしれませんね」

「あたしは暇だから結構物色もしたりするんだけどね」


 自分好みの小物や服が置いてある店、美味しかったスイーツ。歩き回りながら指を差し笑顔になるウェイニーに、シユは落ち着かなかった心が徐々に落ち着いていくのを感じた。今と“あの時”は違う。状況が似ているだけに怖がっていただけなのだろう。

 強張っていた身体、表情も緩んでいく。


「よし、ちょっと笑ったわね!」

「あ、えと……」

「悩みがあるなら聞く、なんていい子みたいなことは言わないわ。でもそういう話とか愚痴ならあたしは聞ける」


 元からそういうのばっかりだしね。ウェイニーは照れたように振り返り、歯を見せて笑う。

 その後ろではレーヴェンが安心したように目を伏せて小さく口元を緩めた。結局考えていることは同じだったと。


「別に今聞こうなんて思ってないわよ? シユにだって準備とかあるだろうし、だからそんなに身構えなくてもいいの」

「……」

「あたしはね、シユのこと友達だしそれ以上だとも思ってるわ。仲間とも、家族とも!」

「ウェイニー……」


 シユに伸ばした手、指の先。綺麗に施されたネイルのストーンが灯りに照らされて輝く。

 同じだから、と言葉には出さなくても語りかけるように。


「ふふ、訳が分からなかったらごめんなさいね。あたしは頭の中身が少ないようだからさ」

「お前……」

「ふふ……」


 きっとそれは笑っては失礼なことのはず。けれどシユは笑わずにはいられなかった。今のはウェイニーの気遣いもあったが、彼らがこんなことでは気を悪くしたりしないのを知っているような。


「でもね、貴女が気にしちゃうことを一番に聞いて、一番に理解できるのはあたしたちだと思ってる」

「そ、そうなんですか……?」

「ええ! きっとそうだって自信あるわ!」


 だから、だからね。ウェイニーはシユの手を取った。無邪気に、穏やかに、真剣に。一気に詰まった笑みを見せる。


「ぽっと現れた変な奴らでも、きっと、シユと何も変わらないものよ」

「……」

「違いすぎるなんてこと、そうそうないはず」


 結局どこまで行っても。小さく呟いたウェイニーが目を閉じ、開いたときには強気な笑みを。


「何があっても、あたしたちはあたしたちでしかないからさ」


 そしてすぐに懐っこい笑みで首を傾げる。

 一瞬の表情にも、言葉にも。シユは面食らってしまうが、目の前が開けたような明るい感覚もしたと感じた。


「さぁて! くそ真面目なのはここまでにして!」

「……!」

「もうちょっと歩きましょ、今日はちゃんと送ってあげるから!」


 そう言って、ウェイニーはシユの手を引いてどこへともなく歩き出す。


 気に入っている店を紹介したり、新しく目に留まった店を覗いてみたり。

 今度また一緒に、と約束をして通り過ぎたスイーツの店など。

 そうして気分を引っ張られるままに楽しんだ時間、シユはその時ばかりは胸のわだかまりを忘れて過ごすことができた。




「はい、じゃあ次の休みかしらね。レーヴェンがうるさいし」

「ごめんなさい、本当に家まで。ありがとうございます」

「いいのいいの、こいつとはまた明日だけどね~」


 ウェイニーに肘で小突かれ顔を顰めるレーヴェンに、シユはもう一度礼と笑いかける。


「本当、絶対にこいつに付き合う必要はないからな? 断ってもいいんだぞ」

「ふふ、はい」

「まあ、お前が楽しそうだったから今日はいいけどな」

「それじゃあシユ、またね!」


 大きく手を振りながら帰り道を行くウェイニーと、引っ張られるレーヴェンに小さく手を振り返しながらシユは、彼らの背中が小さくなるまで屋敷前で見送った。

 そろそろいいかと屋敷に入るために振り返り、笑みがこぼれる。純粋に、ただただ楽しい時間だったと。彼らと過ごすと不思議と笑う時間も多くなるような。






「イユリ? 私に何か……?」

「ううん、元気になって良かったなーって」


 今は食後と少し。その間、イユリはシユをずっと観察しているようだったため、シユはここで切り出した。余りにも気になってしまったから。

 ティーカップを両手で持っていたイユリは嬉しそうに一口を流し込む。


「この前から沈んでるみたいだったし、私も何かしたいなって思ってたんだけど……」

「目に見えて沈んでいましたか……?」

「そりゃあもう! あのアシュウ兄さんでさえ本当に悪いことしたのかなって言ってて……!」

「そ、そうでしたか……ごめんなさい、空気を悪くするようなことを」

「大丈夫だよ、それにもう元気になったでしょ?」


 はい、とシユは笑顔を返す。イユリも良かったというように笑顔で頷いた。

 そして最後の一口だったのか、カップを呷り身を乗り出してくる。


「あの、赤い、くるくるの髪の子!」

「ウェイニーのこと、でしょうか?」

「ウェイニーさんっていうの?」


 今までにないような食いつきよう、輝いている瞳。

 テーブルを挟んでいるにも関わらず圧ともいえそうなそれに、シユは若干背中を反らした。


「おしゃれで可愛いなぁ、って思って。ちょっとお話してみたくなっちゃった」

「きっと、いい友人になれると思いますよ」

「本当?」


 今日また一つ分かったことでもあったが、きっと彼女は可愛いものが大好きであること。これは最初から分かっていたことでもあるが、とても親しみやすいこと。

 気が合いそうなこの二人は、本当にいい友達になれそうだと。シユは未だ首にまとめたままである装飾に触れた。

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