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「大丈夫だった!?」

「大丈夫かお前たち!」


 案の定ともいうべきか。外で喋り倒していればイユリとクレイが屋敷の中から勢い良く飛び出してくる。

突然の介入に三人は振り向くが、シユだけは居心地悪そうに目を逸らした。


「シユちゃん大丈夫?」

「いえ、私はどちらかと言うと加害者なので……」

「何言ってるの! アシュウ兄さんにたべられそうになってたでしょ!?」

「けれど過剰防衛が過ぎましたし……」


 イユリは真っ先にとシユの元までやってくる。何故か兄よりも優先的に心配されてしまっているシユは、隣でクレイに様子を見られているアシュウを気にしながら、心配されるべきなのは自分ではないというように言い訳を並べ立てる。


「いいんだよシユ、この馬鹿は一度くらい痛い目見ておけば。いい薬になる」

「やっぱちょっとむしゃくしゃするじゃねぇか……」

「全く、お前の気分は何をどうすれば晴れるんだ?」


 シユの施しもあってか元気そのものであり、あんなに血を流したとは思えないアシュウにクレイは感嘆と安心の溜め息を漏らし、最終的には血で汚れた服の心配をする始末。だが、相変わらずと言った弟には流石に呆れる。

 これはどれだけ痛い目に遭っても直りそうにないと。


「それより薄々思っちゃいたけどよ、お前やっぱ天才だよな」

「天才、ですか……」

「お前の世界がどうだったかなんて知らねぇけどな、あんな魔法みたいなものほいほいできる奴、そういねぇよ」

「……」


 天才、その言葉に一瞬、シユは表情を曇らせた。

 構わず無邪気に続けるアシュウに、シユは申し訳なくも困ったように眉を下げて笑う。


「それとな、あのくらいの暴発なんかいくらでもあるからな?」

「……」

「一々気にしてたら始まらねぇぞ?」

「……ありがとう、ございます」


 指を差しているのかいないのか、アシュウは妙な手つきで差して言えば、シユは慰められているような気がして思わず礼の言葉が出てくる。

 それに対しての照れ隠しか、それとも本当に純粋な助言のようなものだったのか。アシュウは昼飯がどうだの、剣を取り直して伸びをし屋敷の中へと戻って行った。


「兄さん適当だなぁ」

「でも、あれの何も考えてなさそうな発言には割と助けられてるよな」

「まぁね~、シユちゃん、そういうことです」

「そ、そうなんですね」


 シユは自分のせいで、と罪悪感に囚われてしまうが、むしろ誰も気にしていないし全てアシュウが悪いということになっている。当の本人でさえ気にしていないというあの様子からしても、引きずる必要はないだろう。誰にだって起こり得ることだと。

 しかし、この様子を上から見ていた彼こそはシユのそんな機微を誰よりも厳しく見ていた。ある程度の事情は把握しているからこそ、見逃してはいけない物事というものがある。カイルは屋敷の中に戻りだした彼らを見届け、窓辺から離れた。






 出向いた街を歩いていた。

 彼らと一緒に来たらしく、賑わいにはとても心が躍るようで。

 けれどすぐに離れなくてはならない状況に陥ってしまったらしい、だんだん人気のない場所まで来ていた。あの屋敷の帰り道ではない、また別なはずれの森のような。

 胸が騒ぐ。まだこれには慣れたばかりだというのに。

 守ってくれると、大丈夫だからと言ってくれた彼らでも、任せているばかりではいけない。もう、一員になってしまったのだから。


 ──やめて。


 チャームが光り閃光が飛び交う。

 現れた数人の相手も各々の魔法を以って応戦する。

 選んでしまった道なのだから。どれだけ危険なのかは分かっていたのだから。覚悟していなかったわけでもない。全うしなくては、私がそうすると言ってしまったのだから。


 ──やめて、やめて。


 彼が、苦戦している。敵方には一切の容赦もしない彼が。

 今回の相手はなかなかにしぶといらしい。焦りの色が。

 ああ、やめて。彼らを傷つけないで……!


 ──やめて、嫌、見せないで。


 危ない、と思ってしまったが最後。まだ上手く扱えないのに、制御できていないのに。

 放ってしまったものは、もうどうしようもなかった。


 ──嫌、嫌っ!


 断末魔。

 当たってしまった彼の身体は、跡形もなく──。




「っ! ……っは……はぁ」


 目が覚めるだけでは済まなかった。飛び起きて息が切れる。

 冷たい空気が肺を満たし、汗ばんだ身体は外気に触れて身震いをする。酷い熱が一気に冷えるかのように、頭が覚醒していく。


「……」


 眺める手の平は頼りなく震えていた。

 夢? 現実? ……記憶?

 逃げるように両手で顔を覆い、蹲る。これは紛れもない“過去の再現”だという思いしか浮かんでこない。克服し、乗り越えたものであったはずのこの“記憶”。昼間の事故から触発されてしまったのだろうか。

 しかし、何故こんなにも鮮明なのだろうかとも思う。それだけ根強い記憶なのか、あるいは全ての根底なのか。


「どうして……」


 確かな音にもならなかったその声。

 どうしてこんな一部なのか、現実から触発されてしまった夢なのは重々承知しているし、自分自身が見たくないと閉じてしまったせいもある。それでも違和感がどうしても拭えない。

 どうしてこの状況で安穏としていたのだろう。外から意図的な介入があるかもしれないのに、と。

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