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 イユリにクレイ、そしてカイル。家の中から様子だけと眺めているだけの面々も、その尋常ではない量の魔力と扱う術には驚き、言葉なく見つめるしかなかった。

 決してラシュウには直接的に傷を負わせることなく、全てアシュウの崩れ方に的確に対処し護る。先程のように壁を作ってみせたり、また弾き返す壁であったり。その合間に疲れを癒すなど、シユはそれほどまでに護ることに扱う魔法に長けていた。


「疲れてきてるんじゃねぇのか、お前?」

「堂々と反則してる奴が、何言ってんだ……」


 そして時たまに、一撃に力を乗せ支援することも。

 それでもいいと言ったラシュウではあったが、疲れを知らない相手と重い一撃を食らうことに対しては嫌気がさしてきていた。それが毎日馬鹿みたいに相手をし、ぎりぎりでも負かしてきた兄弟ともなれば尚更。


「今度同じ目に遭わせてやる……」


 かなり、恨みがましい声音だった。

 そんなラシュウの心情など知ったことか、アシュウは気分がいいのか意地の悪い笑みを携えたまま仁王立ちしている。


「……そろそろやめとくか?」

「……最後の一回くらい」

「っははー! それじゃあ食らえ!」


 そうは言っていても情けをかけるような声音ではなく、これがいつものやり取りだと言うようにも聞こえた。勝ち負けが分かったところでの締めのような。

 ラシュウが頼りなく構え直し、アシュウは元気よく振りかぶり。


「!」

「なっ……!」


 振り下ろされた剣はラシュウが受け止めるより前、空中で弾かれ耳が痛いほどの音が鳴り響く。弾かれた反動により、アシュウは何とか体勢を立て直しながら二、三歩引き、驚愕の表情を浮かべた。

 勿論、阻んだのはシユの作りだした壁ではあるが、それはラシュウを守るための位置ではなく、二人を隔てるためのものだった。


「おい、シユ! ラシュウには何もしないんじゃなかったのかよ」

「今のは隔てただけです……男性の勝負事に水を差すのは私も気が引け──」

「あー、だめだだめだ! 受けきれる気がしなかったし、シユ、助かった……」


 仰向けに寝転がってしまったラシュウ。かなり消耗しているのは誰が見ても分かる。彼は受け止められないと、避けるべきだと、判断を鈍らせた。

 それをあの一瞬で捉えたから、シユは二人を隔てた。あのまま放っておけばラシュウは怪我をしてしまったことまで予測できたからだ。


「……まあ、俺も調子に乗りすぎたか」

「ラシュウ、寝転がってしまったところ悪いのですが……起きられますか?」

「ん? ……ああ」


 身体重たそうに起き上がったラシュウに、シユは両手を差し出す。

 当然、意味が分からず首を傾げたラシュウ。手を、とシユが促せば素直に乗せてくる。


「楽にしていてください」

「……!」


 シユが目を閉じ、周りには柔らかな魔力が巡る。

 わけがわからないままであったラシュウも、起きた身体の変化に息をのんだ。足りなくなったものが補われ、疲労感がなくなる感覚。細かな傷まで癒えていく。


「凄いな……」

「どこか不調などは?」

「いいや、にしても……」


 離された手、ラシュウは見つめながら表現できない気分にただ笑うしかなかった。住む世界が違うとはいえ、こんなにも滅茶苦茶な使い方を平然とやってのけるなんて、と。

 そこへ当然、不満の声が。


「はぁ? 狡ぃじゃねぇか!」

「どの口が言うんだよ、馬鹿」

「俺は地味に魔力減ったままだぞ!?」

「はっ、昼飯まで待てよ」


 一度復活してしまえば止まることのない嫌味、口喧嘩。このまま二戦目に行かなければいいと、シユは目を伏せた。


「アシュウには手合わせの支援もしましたし、これくらいが公平だと思いたいのですが……」

「それじゃあ直接寄越──いっ!?」

「……!」


 自然の風ではない、一陣の風が吹いた。

 背後からシユの肩を掴み振り向かせようとしたアシュウが痛みに唸るような声を出した。左頬を押さえ膝をついた彼の手の隙間から、血が滴り落ちる。


「アシュウ!」


 ああ、私は何てことをしてしまったのか。これでは最初の頃とまるで変わらないではないか。また、また私は──。

 シユは我に返り慌ててアシュウに駆け寄るも、そんな自責の念ばかりが頭を巡る。自分が怪我をさせてしまったと分かっていながら、乱れる心を落ち着けることができない。


「ごめんなさい、ごめんなさい……今治癒を」

「お、おい、落ち着けってシユ……痛ぇけど大した傷じゃ……」

「……本当、ですか?」


 取り乱しているシユに驚いてもいるのか、アシュウはその場に座り込んで顔から手を離す。変わらず血は止まっていないし、痛みもあるが、そんな自分よりも痛そうな顔をしているシユを見たアシュウは何故か冷静になってしまう。

 何より、自分自身が全面的に悪いことを分かっていたから。


「それよりほら、治してくれるんだろ?」

「っはい、勿論です……」

「……へぇ、凄ぇな」


 頬をそれなりに深く何本か、耳にまでも到達してしまっていた傷。シユが治癒を施せば何事もなかったように塞がっていく。先の手合わせよりも酷い傷を負ったというのに、アシュウは体験に満足したのか口の端を上げてにやりとする。


「まあ俺は人間より丈夫だからな! これくらいは平気だぜ?」

「……もう少し注意しておきます」

「……」


 全て馬鹿な兄が引き起こしたことだとは分かっていたものの、その兄も少なからず怯んでいたのは、ラシュウでも見て取れた。二人を外から見ていたからこそ、だ。

 あの程度の魔力で放っていたものだというのに、殺傷力が凄まじい。“普通なら”あそこまで傷は深くはならない。不意打ちで放ってしまっただけの、威力もなさそうな力であったのにも関わらず切り裂いたあの風。

 ラシュウだけがシユの扱う魔法を考え込んでいたわけではない、身近で経験もしたアシュウも同じくして、見ていただけのカイルやクレイも、尋常ではないものがあるという考えに至っていた。

 そして、何を以ってあの父親はシユを連れてきたのか、と。

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