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「と、突然変異……ですか」


 ウェイニーの言いたいことは分かる。けれど突飛な言葉がいきなり出てきたことにより、シユはしばし意味を理解することができなかった。言葉にしてみて、やっと落ち着ける。


「そうそう、レーヴェンの血縁か何かでさ」

「もっと、特殊な経緯でもあるのかと思っていました……」

「まあ、あたしたちは寄せ集めみたいなものだしね。違うところは違うわ」


 でも仲良しよ。ウェイニーは得意気にウインクをしてみせる。


 確かに、あり得ない話ではない。シユはミスカラルドから聞かされた話を思い出した。

 人と人ならざる者が住まうこの世。当然、何かしらのかたちで出会いを果たすこともないわけではない。そして、混血の者が現れるのもまた然り。シユが解釈できるところ、それと似たようなものなのだろう。


「だからまぁ、そういうことなんだけど」

「俺たちもレーヴェンにとっちゃあ、魅力的なものに映っちまうんだが、シユはさらにみたいでな」

「だから……」


 だから少しもしないうちに辛そうになってしまうのか。シユはレーヴェンを見遣った。目が合えばレーヴェンは目を閉じて俯き笑い、小さく首を振った。

 突然変異、カイルが言っていたことが本当だとしたら。それでもウェイニーが出したその言葉ではまた意味が違うような気がしないでもない。シユはあえて指摘はしなかった。


「私の魔力は、彼らにとっても良い糧になるそうで……それと同じなのでしょうか」

「根本は同じだからな、そうだろ? レーヴェン」

「何で俺に振るんだ……まあ、そう、なんだろうな……」


 歯切れの悪い答えなのは、やはりそういうことなのか。何らかのきっかけにより、身体が変化してしまった。言いたいことは、要はそれだろう。

 レーヴェンから離れていたウェイニーは満足そうに頷いてその頭を引っ叩いた。小気味いい音が鳴り、レーヴェンは呆気にとられてウェイニーを振り仰いだ。


「何しやがる」

「っふふ、こいつもまあ頑張ってるってことよ!」


 ウェイニーはシユの隣に戻り勢いよくソファーに腰かけ、いつかと同じようにシユの手を取った。


「だからさ、事情が分かったことだし仲良くしてやってよ」

「そうだな、俺からも頼もう。何か粗相をしたんなら蹴っ飛ばしてやってもいいからよ」

「おい」

「ふふ……」


 遠慮のないやり取りに、シユは自然と笑い声を出す。ウェイニーと初めて会ったあの放課後、帰り道に感じたときと同じような思いがまた、シユの胸を満たす。

 初めてのことであるはずなのに、遠く懐かしい日がもう一度やってきたような。それも一瞬で霧散してしまった。


「俺たちは補給の仕方も間接的にできるようにしてるからな、余程のことがなければ噛みついたりはしないはずだ」

「俺が一度でも噛みついたことがあったかよ」

「まだ、ねぇな」


 意地悪く言ってのけたクィディーに、レーヴェンは小さく舌打ちをする。


「これからはまだ分からないわねぇ~、シユも気を付けてね」

「はい、負担はかけさせないようにします」

「だめそうだったら手をあげても平気よ、こいつ頑丈だから」


 悪戯っぽく、ウェイニーは親指と人差し指を立てて銃でも撃つかのようにレーヴェンに向けた。その仕草、ウェイニーのネイルストーンが光り、シユはまだ聞いておきたいことがあったのを思い出す。


「そういえば、皆さんも装飾を持っているようですが……やはり貰い物ですか?」


 レーヴェンの装飾とクィディーの装飾、そしてシユの装飾は繋ぎ方は違うものの、こうして集えば同じ集団に見られてもおかしくはないように見える。ウェイニーの装飾は同じものであり、違うものにも見える。


「うーん、貰い物、といえば貰い物だけど」

「……?」

「これ独自のものだしね、どう答えればいいのかしら」


 ウェイニーがネイルを眺めていれば、端でクィディーとレーヴェンも同じように眺めている。シユもシユで、装飾の意味を考える。


「私は、この装飾は貰ったものだと思っていて、その……手放してはいけない、大切なものだとも思っているんです」


 私自身のためにも。

 シユが顔を上げてみれば、ウェイニーとクィディーは驚いて目を見開いており、レーヴェンも驚いてはいるが、その眉は切なそうに歪んでいた。


「……あの?」

「うん、それでいいと思うわ。シユがそう思ってくれているのなら」

「っう……」

「おお、っと」


 まずいか。

 ウェイニーが泣きそうに微笑んだ、後ろでレーヴェンが苦しそうに口元を抑えて唸った。またも酷いものだが、ウェイニーは顔を顰めてレーヴェンを向き、立ち上がる。


「今日はいい感じに大丈夫だと思ってたんだがなぁ……」

「全くよもう、ほらっ! ちょっともたせてあげるからシユと握手ぐらいしなさいな!」

「……お前なぁ」


 八つ当たりもいいところ、また乾いたいい音を立てながらウェイニーはレーヴェンの頭を再度叩く。そうして、いくらか顔色が良くなり立ち上がったレーヴェンの少し前へ、シユは立つ。


「では、また改めてよろしくお願いしますね、レーヴェン」

「ああ、よろしく頼む」


 そうして、装飾を小さく鳴らしながら握手を。固く繋がれた手はすぐに離れ、レーヴェンはソファーに崩れるように座り込んだ。


「本当、ちょっとの時間だけね……ごめんね、シユ」

「いえ、楽しい話もできなくて申し訳なかったのですが……ありがとうございます」

「でもシユにとってはいい話だったんでしょ? ならいいわよ」


 レーヴェンから離れ、シユは放り投げられていたコートを取りに行くウェイニーを目で追う。あまり長居はできないことはシユも分かっている。けれどもう少しだけ居たい気持ちもあることが、自分でも子供のようだと思ってしまう。


「そんな顔しないでよ、また来ればいいじゃない! その時こそ面白可笑しいことでもしましょう?」

「はい、またお邪魔したいです」

「うん、それじゃあ帰りながら話しましょうか、公園まで行こうじゃない」


 コートを羽織りながら、行ってくるという意味を込めて手を振り部屋を出て行くウェイニーの後から、シユは挨拶と礼をし外に出た。

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