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 家から近いところにある公園にウェイニーを寄越す。

 前日にレーヴェンからそう告げられたシユはその公園に向かっていた。今日は約束の休日。

 何故か初めて友人の家に遊びに行く子供のような落ち着かない気持ちになりながら、道中一人なのにも関わらずシユは口元を緩ませる。


「シユ!」


 公園の入り口、ポールに腰かけていたらしいウェイニーは飛び起きながらシユに手を振る。肌寒いせいか、早くから待ってくれていたのか、若干鼻の先が赤くなってしまっている。


「待たせてしまいましたか?」

「ううん、シユを見逃しちゃいけない! ってあたしが早く出過ぎたのよ」

「そうだったんですか……鼻の先が赤くなっていたので」

「嘘っ!」


 慌てて鼻を覆い隠すウェイニー。シユが微笑ましく思っていれば、ウェイニーは仕返しとばかりにシユを思いっきり指差した。


「シユだって少し赤いわ! ほら、早く行きましょう? 家はいい感じに暖まってるから」

「そうですね」


 手を差し出すような仕草でコートの裾を翻し歩き出したウェイニー。シユはその少し後ろを、道を確かめるように歩いた。






 住宅街より離れ、立ち並ぶ木々を抜け、見えてきたのは別荘のような屋敷だった。森の中に佇む洋館さながらに。人が住んでいるのだとしても、夜に見たのならさぞ不気味な印象を与えることだろう。

 ウェイニーは迷わずに扉に手をかけて引き開ける。


「ほーら、帰ったわよー!」

「お、お邪魔します……」


 シユは入る前にコートを脱ぎ、ウェイニーは奥に向かって叫ぶ。おそらく近くにあるリビングにでも呼びかけたのだろう。返事はないが、ウェイニーは未だ玄関先で立ち尽くし、あたりを見回していたシユを振り返った。


「家は野郎しかいなくてね、ちょっと退屈だったのよ」


 だからシユが来てくれて嬉しいわ。先日の笑顔とはまた違う、少しばかり照れが混ざったような笑顔で、ウェイニーは左側にあるドアを開ける。


「はぁ~、暖かい!」


 着ていたコートを脱ぎソファーに放り投げたウェイニーに続き、シユも部屋の暖気を逃がさないためにドアを閉めた。身体を包む暖かい空気に思わずほうっと息が漏れる。


「ウェイニー、お前……」

「わぁかってるってば、あ! シユはここら辺座ってて!」

「は、はい、ありがとうございます……」


 入って正面、一人掛けのソファーに座っていたレーヴェンは呆れたように声を漏らした。ウェイニーはちっとも悪いとは思っていない様子でシユに三人掛けのソファー、レーヴェンから遠い端を指差す。

 シユは面食らいながらも礼をして腰を下ろした。ウェイニーは満足気に腰に手を当て頷き。


「さて……クィディー! なんか温かいのちょうだーい!」


 そのまま奥に続くドアの向こうにいる人物に声をかけながら走っていった。

 忙しいその様子にシユは唖然としてしまい、レーヴェンは仕方なさそうに溜め息を吐く。


「悪い、忙しない奴で。気分が上がりすぎていつもよりおかしくなってるみたいだ……」

「いえ、私のところもあまり変わりませんよ。見ていて楽しいです」


 そう言ってもらえると助かる。レーヴェンは俯いて目を閉じた。

 閉めきられていないドアの向こうから小さく言い争いが聞こえてくる。比較してしまうには人数が違いすぎるが、夜野家の騒がしさには困ってしまうシユも、今のこの騒がしさには自然と微笑んでしまいそうな何かがあった。


「よお、シユ」

「こんにちは……」

「こいつらから話はよく聞いてる」


 文句を垂れるウェイニーを背に出てきた男性。黒髪だが所々が深い緑にも見える色をしている。気怠さを感じさせる見た目だが、隙の無さも感じさせるような雰囲気の男性だ。

 近くまでやってきた彼に、シユは立ち上がる。差し出された手、彼の装飾の、綺麗だがぞっとするような深紅が揺れる。


「これは愛称だが、クィディーだ。よろしく頼む」

「シユです、初めまして」


 握手を交わす。今日、シユは装飾をちゃんと着けていたため、装飾同士がぶつかり小さく音を立てた。

 クィディーはレーヴェンの向かい、シユと近いところにある一人掛けのソファーに座る。


「もう、挨拶するからって酷いじゃない!」


 人数分のティーセットを持っていたウェイニーはシユの隣に座りながら、それをテーブルの上に置く。乱暴とまではいかないが、それでも不満そうに。


「クィディーの名前ね、馬鹿みたいに長いのよ。だからみんな愛称」

「そうなんですか?」

「ああ、呼ぶには少し不便だな」


 先程の不満はどこへやら。ウェイニーは鼻歌でも歌いだしそうな勢いでカップに紅茶を注いでいく。彼らは湯気の立つ淹れたてを一口飲む。


「それにしても、よく来たな」

「私が行きたいと言ってしまったので……」

「いいのよ、みんなシユとゆっくり話したかったんだから」


 シユは紅茶の熱で指先も温めるようにカップを持った。その隣ではウェイニーも同じようにしている。きっと冷えに冷えてしまっていたのだろう。


「何、こいつが怖がらせたって聞いたものだからよ」

「クィディー、てめぇ……」

「事実だろ?」

「……」


 レーヴェンを顎でしゃくり、不機嫌そうに顔を歪めた彼をニヤニヤと茶化すクィディー。レーヴェンも事実だと返す言葉もなく顔ごと目を逸らす。


「そのことでお聞きしたいのですが」

「ん?」

「お二方は、その……普通に人間だと思っているのですが……」


 シユの指摘に、三人は間の抜けた顔で互いを見遣る。そしてクィディーとウェイニーは今合点がいったようにあぁ、と気の抜けた声を出した。


「あー、っと……その、これは……」

「私がお世話になっている家も似たような構成で……気になってしまったのですが」


 困っている、よりはどう説明したものか、と迷っている様子のウェイニーに、シユは慌ててしまう。気になるから知りたい。その気持ちはあるが返答に困らせてまで答えを得ようとは思っていなかったから。


「あの──」

「ああ、そう!」


 突然手を打って立ち上がるウェイニー。ぱっとした明るい表情からいい方法でも浮かんだのだろう。ウェイニーはそのままレーヴェンの後ろに回り込み、首を抱き込むように腕を回した。


「そう、そうよ、これはね、突然変異的なやつなのよ!」

「……」

「はぁ……」


 まるで取ってつけたような答え。

 これで大丈夫と言いたげなウェイニーに何を言っているんだとウェイニーを横目に睨むレーヴェン。クィディーに至っては手に負えないといった様子で頭を抱えた。

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