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会長様はちび1 (弘美の家族に関する番外編)

「会長様ー、サボんないで下さいよー」

「うっさいわねぇ。会長様は自分の仕事は終わってるからいいのよ」

「自分のだけとか、私に4人分働けと!?」

「働け下僕」

「もー。フォローする方いないんですから、冗談に聞こえないんですけど」

「は? 冗談に聞こえたんなら耳鼻科行けば?」

「……」


 私より一つ年上で背が低いくせに態度は100倍くらいデカイ彼女は、白鷺弘美。学園長の孫娘で、他の学校でいう生徒会立ち位置の淑女会の会長になったところだ。

 今までは3人の先輩方がおられたけど、今日から2人っきりだからかちょっと元気がなく、不機嫌200%だ。


「寂しいなら、小枝子様あたり呼んだらどうです? 小枝子様なら喜んで来てくれますよ」

「はぁ? 馬鹿言わないで。目の上のたんこぶがなくなって清々してるんだから」


 どの口がそんなことを。目の上とか。小枝子様が会長だった時から一番態度が大きかったのに。

 小枝子様というのは前の会長で、弘美さんを溺愛していた。綺麗な方で入学式の時の挨拶の凛とした立ち姿には見惚れたものだ。

 淑女会というのはこの学園では憧れの対象で、初めてこの部屋に入る時は天にも登る気持ちだった。


 ドアを開けた瞬間、弘美様にその幻想は砕かれたけど。


 私はため息をつきつつ仕事をしながら、ひそかに回想をした。









 4月。

 私は希望と夢で胸を膨らませる可憐な女子学生だった。姉と同じ制服を着られることにはしゃいでいた。高等部の寮に引っ越している途中、浮かれた私は段ボールを抱えたまま階段で足を滑らせた。


「と、大丈夫か?」


 通りがかったショートカットの方が背中を支えて、荷物にも片手を沿えてくれて事なきを得た。

 危なかった。一瞬であがった心拍数に汗が出る。


「あ、ありがとうございます」

「どういたしまして。一年だろ? 荷物自分で運んで偉いな。手伝うよ」


 振り向くとにかっと小気味よい笑顔でそう言うと、私から荷物をとった。


「あ…」

「部屋どこ?」


 業者が荷物を運ぶ中、私は目立っていたのだろう。そう言って彼女は私を手伝うことになった。


「終わったー」

「ありがとうございました。すみません。あ、お茶どうぞ」

「ありがと。ところで君、部活に入る予定ある?」


 新手の部活の勧誘だろうか。私は中学では誘われるまま剣道部とバレー部と文芸部を兼部していただけあって、特にこだわりはない。続けてもいいし、さらに兼ねてもいい。


「いえ、特には。勧誘なら、オッケーですよ」


 だから何も聞かずに頷いた。どんな部活かは知らないが、私は不得意なことは特になく器用貧乏と言われる程度にはオールマイティだ。彼女とならすごしやすそうだしいいかと気軽にオッケーした。


「え、まだ何も言ってないけど…ほんとにいいの?」

「はい。あなたとなら楽しそうですから」

「そうか…ありがとな。俺は滝口皐月。君は?」

「私は鮎川美幸です。よろしくお願いします。ところで、何の部活ですか?」

「んー…入学してからのお楽しみで」


 皐月様とは連絡先を交換して別れた。


 そして三日後、入学式で皐月様を見かけまさか…と思っていたら本当に淑女会だった。

 選ばれた人物のはずなのに何故私が。というか会長さんが初めて見る人で誰? 弘美様は一年ぶりに見るけどやっぱり可愛らしい人だなー。あれが噂の紗里奈様かとか色々考えながら入学式が終わり、午後に来たメールに従い淑女会室に向かった。


 こ、ここにあのお姉様方が…。


 生唾を飲み込み、ドアを開けた。


「は、はじめまして! 鮎川美幸です!」

「あんたは今日から私の下僕よ」

「…は、い?」

「ほら、早く靴を舐めなさい」


 机に座って足を組んでる弘美様が、私に向かって足を振った。


 現状が飲み込めない。ど、どういうこと?


「弘美さん、下僕は言いすぎですよ」


 隣を見ると美しく微笑む小枝子お姉様が……お助け!


「美幸さんはペットにしましょう」

「あたし、首輪持ってるよ!」


 さらに横からは紗里奈様が…。目眩がした。


「おいおい。美幸が気絶しそうになってるだろ。可愛い新入生をあんまイジメんなよ」

「さ、皐月様…」


 そうだ。皐月様がいた。目が合うと、皐月様はにっこり笑った。


「下僕とか冗談だから、気にすんなよ。な?」

「そうそ、冗談冗談。美幸ちゃん可愛いなー。食べちゃいたい」

「ま、パシリにはするけどね」

「これからよろしくお願いしますね、美幸さん」

「…心臓に悪いです」


 約2名意地が悪そうな顔をしていたけど、小枝子お姉様が優しい笑顔をしたことで何とか落ち着いた。









 こうして淑女会への憧れは撃破された。一緒にやっていく上ではその方がよかったのだと今は思うけど。

 このあと小枝子様が実は結構抜けていて天然系だとわかったりして、お姉様幻想も消えた。今ではあの頃のお姉様呼びは黒歴史だ。


 こうして思い出すと、やはりかなりのインパクトがある。猫被りのギャップとか酷かった。特にこのちび、もとい会長様。二重人格レベル。

 私ももう人のこと言えないけど。いやだって淑女会のイメージってあるし。皐月様でさえ、一人称を私にしたりしてるし。


 さて、これで一段落だ。あー、目が痛い。お茶でも……しまった。皐月様も小枝子様もいないから誰も用意してない。


「弘美様、お茶飲みます?」

「オレンジ」

「きれてます」

「買ってきて」

「お断りします」

「……」

「お茶いれますね」


 冷やしておいた番茶をグラスに注ぎ、会長席に置く。会長席は実は今日まで殆ど使われなかった。小枝子様がみんなと一緒がいいと言ったからだ。だけど弘美様はいきなり会長席。おかげで私は広いテーブルを独り占めだ。ちょっと寂しい。


「いらない。なにこのクソサブい時に氷なんかいれてんのよ馬鹿」

「お茶は冷え冷えが一番美味しいんです。アイスを温めて食べないのと同じです」

「全然違う。とにかく私は今すぐオレンジジュースが飲みたいの買ってこい」

「嫌です。暇そうにぼけっとしてるんだから自分で行って下さい」


 春になって一年生が入るまでならパシリをしてもいいけれど、ここでやってしまうと皐月様のようにずっと使われそうだから拒否する。


「そういえば、次の新人はどういう基準で選ぶんですか?」


 淑女会には何らかの基準を満たした人だけが入れると噂され、地位に関係ないとされている。それはある意味事実だけど、選び方はテキトーだ。学年主席の人を選んだり、単に知り合いをいれたりと、淑女会の人間に権利が一任されている。

 でもさすがに皐月様のように、その日最初に挨拶以外の言葉を交わした新入生、というようにして選んだのは今までに例がないらしいけど。聞いた時はちょっと凹んだ。

 いや感謝はしてますけどね。去年も全く退屈しなかったし、何だかんだで皆さんのこと好きだし。


「んー…あんたが好きに選んでいいわよ」

「え? マジすか?」

「私が抜けた後に業務が滞らないよう、優秀なやつ選びなさい。2人までね」

「お、おお…」


 あれだけ暴言を吐かれていたので、たまに私嫌われてるんだろうかとさえ思っていただけに、まさか人事権を与えてもらえるとは。実はちゃんと評価されていたのか。感激。


「選ぶの失敗しても自己責任だから」

「…はい」


 そういう意図か。確かに、もし仕事できない人なら、来年困るのは私だ。皐月様がテキトーに選べたのは一重に弘美様が優秀だからだ。面倒なことは押し付けてくるけど、ガチで優秀だ。


 うーん。なら無難に成績のいい人にしようかな。


 悩んでいるとトントン、とノックされた。


「入るぞー」


 顔をあげ、返事をする前に声がしてドアが開いた。


「や、3日ぶり」

「お邪魔します」


 やってきたのは皐月様と小枝子様だった。まあ返事の前にドアを開けるのは皐月様しかいないのだけど。


「おお、お二方ですか。いらっしゃいませ。ささ、どうぞどうぞ」

「おう。弘美、差し入れ」

「あ…ありがと。飲みたかったの」


 皐月様が弘美様にオレンジジュースのペットボトルを渡すと、弘美様は嬉しそうににっこり笑った。

 ……あれ?


「弘美様、急に態度変わってません?」


 いつもなら、気がきくわね、くらいの上から目線がデフォルトなのに。


「皐月様はもう淑女会員じゃないから、私が先輩として偉そうにする理由もないじゃない。年齢的には私が後輩だし」

「嘘だ! 弘美様は理由なくても態度がデカイはずです!」

「……あんたが私をどう見てるかよくわかったわ」


 しまった。本音が。罠かっ!


「弘美さん弘美さん、頭を撫でてもいいですか?」


 あ、小枝子様がここぞとばかりに目をきらきらさせだした。そんなに撫でたいのか。確かに今のデレ弘美様は可愛かったけど。年上に見えない。


「は? 嫌よ」

「…優しくない。もう会長じゃないんだから優しくして下さいよ」

「いや、優しくする理由じゃないし。単に、普通に普段通りの関係にするってだけだし」


 なるほど、つまり弘美様は皐月様を顎で使っていたけどそれは淑女会順列仕様で、プライベートの付き合いでは仲良しだったのか。

 ……いや、仕事関係なくみんなで遊んだ時いつも通りだった。デレ弘美様とか初めて見た。?


「弘美は二人っきりの時は結構素直だよなー。照れ屋だから普段はつっけんどんだけど」

「何ですかそのステレオツンデレは」


 完全に皐月様用のデレじゃないですか。え…そういうこと? あれ、でも皐月様は付き合ってる人いるし……。


「弘美は小枝子のことも好きだから、二人の時に頼んでみたら?」

「! わかりました」

「絶対あんたとは二人きりにならないから」

「な、何でですか!?」

「私を着せ替え人形にしようとしたから許さない」

「あ、あれは……ただ弘美さんに似合うと思って…別に着せ替え人形のつもりは……」

「あと私を溺愛してるとこがキモい」


 溺愛されてる自覚あったんですか。いいように会長を小間使いのように扱いながらキモいと切って捨てるなんて、弘美様って本当に容赦ないなぁ。

 まあ確かに、小枝子様の溺愛っぷりは小さな子供向けで気にいってなさげなのは気づいていたけど。


「弘美は相変わらず元気だなぁ。どうだ? 仕事は進んでるか? どれ、見てやろう」


 親戚のおじさんのような口調で皐月様が笑いながら弘美様から書類を受け取る。


「別に皐月様に見てもらわなくても大丈夫だけど」

「見るだけだ」

「ほんとにね」

「うん、うん……さて、遊ぼうか」


 ぺらぺらと書類を見た皐月様は、書類をばさっと机に置いて満面の笑みでそう言った。おい。


「あんた何しに来たのよ」

「弘美と美幸に会いにきた」

「手伝いに来たとかでは…」

「もちろんそれもありますよ。美幸さん、何かあるなら手伝いますから、遠慮なく言って下さいね」

「小枝子様…」


 さすが淑女会の良心。よし、優しくて有能そうな子を勧誘しよう。


「んじゃあんたら二人で仕事したら? 私と皐月様はトランプでもしてるから」

「会長様横暴過ぎる!」

「帰らないだけマシでしょ」


 本当にギリギリになったらきっと弘美様もやってくれるんだろうけど、できる限りギリギリまで押し付けようとしてくる。私を育てるためと言われたけど信用できない。


「私にもデレて下さい。いえ、むしろ常にデレて下さい」

「はぁ? 頭割って犬と脳みそ取り替えた方がいいんじゃない?」

「…さすがに酷いだろ。弘美、口悪いぞ」

「……悪かったわよ」


 今までなら確実にあんたに言われたくないと言っていたはずだ。事実、皐月様から口の悪さが移ったって紗里奈様も言ってたし。なのに素直に謝った…一応私に向けて。


「弘美様…皐月様に何か弱みでも握られてるんですか?」

「ぶっ殺すわよ」


 真面目に心配したのにキレられた。


「誰に優しくしようと私の勝手でしょ」

「皐月様にだけ顕著すぎます」

「さっきからうるさいわねぇ。婚約者に優しくして問題あるわけ?」

「………は?」


何だって?










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