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女の子には、優しくしようと思います。

女性の月経についての表記があります。

苦手な方はご注意下さいませ。



小学四年生になって、保健体育の授業を受けた時。

俺たちは男女別々の教室で授業を受けさせられた。

その時、俺は気づいてしまったんだ。


俺たちには、成長期と言うものがあるということに。




◇◇◇




「先生、失礼します」

「あら、かんたくんじゃない!どうしたの?」


保健室の沢村先生は、サバサバしたショートカットの女性教員だ。

授業はおもに体育の先生が保健を担当していたけれど、保健室の先生が保健について知らないわけがない。

そう思った俺は、授業後の保健室を訪れた。


「折り入って相談があります……」

「何かしら?かんたくんが保健室にくるなんて、珍しいわね?」

「凄く言いにくいことなんですが」

「何?相談?何でも言ってね」

「ありがとうございます……実は、俺、女の子の体について教えて欲しいんです」

「はい?」


先生の言葉に俺が素直に答えると、先生は鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔をしていた。

半開きで開いた口から、何も言葉が出てこなかったので、俺は思わず先生の眼の前で手を振る。


「先生?」

「あの、もう一度、いいかしら」

「はい。女の子の身体について教えてください」

「えっと、そうね、大丈夫よ?す、ストレートに聞いてくる子は珍しいなって、思っただけで……でも、そうよね。かんたくんも思春期だし、他の子よりも落ち着いているとは言え、気になるものよね」

「大事なことなんです。色々調べて見たんですけど、やっぱりちゃんと先生に聞いた方がいいと思って」

「わかったわ…そこまで言うのなら、女のコの体について何が知りたいの?」

「主に、生理のことについてです。あとは、おっぱいについても教えて欲しいです」


ハッキリそう言うと、今度こそ、先生は倒れそうになった。

顔を真っ白にさせながら、目をこれでもかという程、泳がせている。


「本当にストレートね?!」

「ハッキリ言わないと伝わらないかと思ったので」

「男の子同士でそう言う話とかも出るでしょう?」

「しませんよ?」

「今時の男の子は、下ネタも話さないの?」


先生の言葉に、俺はピクリと眉を動かした。

どうやら、先生は勘違いをしているらしい。

俺の説明が悪かったのかな?


「先生、俺が知りたいのは生理の時期とかの話のことです。俺にはご存知の通り母がいません。でも、今度小学生になる妹がいます。これから妹にそう言ったことが起きた時、力になれるのは父さんよりも俺だと思うんです。なるべく、いつなっても良いように、準備もしておきたいですし、ブラジャーなんかは母さんのをつけてもらうわけにもいかないから買いに行かなくてはいけません。その時に、俺がちゃんとした知識を持っていないと困ると思ったから先生にお願いしにきたんです」


真面目な顔でキリッと言うと、ようやく先生の眼に光が戻った。

よかった。どうやら、通じたらしい。

そして、気付けば、先生は目から大量の涙を流していた。


「君は聖人君子か何かになるつもりなの?小学校四年生で、どうしたらそこまでしっかりした子供に育つの?異世界から転生でもしてきたの?」

「異世界?転生?」

「あら、ごめんなさい、つい、言葉に出してしまっていたわ。そうよね、わかったわ。じゃあ、先生が女のコの体の仕組みについて細部まで詳しく説明してあげます!」


先生は、どこから取り出したのか、大きなホワイトボードを持ち出してきた。

そこに、小さな女の子の絵を描く。


「まず、生理ですが、基本女の子は十歳近くで初潮を迎えると言われています。けれども、個人差があるので、早い子は八歳で初潮を迎えたり、遅い子は十四歳になってもまだ来ない、なんてこともあります」

「ずっと来ないなんてこともありうるんですか?」

「もし、十五歳になっても来ない場合には、一度婦人科で受診してみた方がいいかもしれないわ」

「わかりました」

「ちなみに、生理は人にもよりますが、だいたい一週間くらい血が出続けるものだと思ってください。詳しい生理についての情報よりも、今は役に立つ生理情報を優先するわね」

「はい!お願いします!」


先生は、携帯を操作していくつかの画像を出した。

それは見たことも無いものだった。


「これがナプキンと呼ばれるものです。おもに、生理がある時に下着につける簡易的なおむつのような役割のものね。ナプキンにも種類がいろいろあります。夜型は少し大きめのもの。肌に優しい柔らかいものから、少し小さめのものまで、大小さまざまです」

「なるほど……」

「今は生理用のパンツも売ってるからそういうのを利用するのもいいかもしれないわ。生理用と言っても、ナプキンをつけなくてもいいわけじゃないから注意よ?でも、例えば生理が近い日とか、不安な時には少しぐらい漏れても大丈夫なようになっているから、便利なものなの」

「それは、普通の下着コーナーに売ってるんですか?」

「そうね、女性用の下着コーナーに売ってるわ。ナプキンもそうだけど、もし買いに行くのが恥ずかしいようだったら、今はネット通販もあるわよ!」

「通販!」


便利な世の中、万歳だった。


「女性は生理ナプキンをそのままで持ち歩くのは、マナー違反だとされているの。だから、ナプキンをいれるポーチや、ハンカチにチャックがついているものなんかを事前に用意しておいた方がいいわ」

「わかりました!」

「あとは、カレンダーね!一応身体が正しいリズムであれば、25〜35日くらいの周期で来ると言われているけれど、これも個人差が激しいの。今時の子は、二か月経っても来ないなんて話は、よく聞くわ」

「そういう時は、病院に行った方がいいんでしょうか?」

「他の体調不良を伴っているようだったら、二か月でも行った方がいいんでしょうけど、そうじゃなければ、焦る必要はないわ。生活環境が変わったり、ストレスだったりで生理周期はコロコロ変わるものだから」

「そうなんですね……知らなかった」


やっぱり、保健室の先生に聞いたのは正解だった。

おそらく聞いていなかったら、オロオロしていたことだろう。

前もって情報を集めることは、何においても必要なのだと、改めて学んだ。


「三か月過ぎても来ないなら、一度受診した方が安心するかもね」

「そうします」

「さて、生理については、まだあるわよ。次は生理痛について。生理痛は生理の時にくる痛みだったり、体調不良のことを言うのだけど、これがまた厄介でね。人によっては、とっても辛かったりするの」

「温めるといいんですか?」

「やわらぐと思うわ。主に、腰か下腹部を温めるのよ」

「なるほど」

「家で温める時には、湯たんぽのようなもので温めたり、ホッカイロなんかで温めたりすると効果的よ。熱すぎるときは、タオルを巻いてから身体にあてるとちょうどいいと思うわ。でも、やり過ぎは低温やけどになりかねないから注意してね?」

「じんわりあたためるんですね?」

「そうよ。生理痛の薬は、イ●やロキソ●ンみたいにいくつも薬があるけど、基本的には生理痛の重さによって処方するといいと思うわ。生理痛が酷い時にはロキソ●ンを飲ませるのも一つの手ね。本当は薬に頼らないのが一番なんだけど、酷い子は熱が出たり動けなくなっちゃうのよ」


聞いたことがない名前の薬だったので、後でネットで調べよう。

それにしても、薬を飲むだなんて、病気と同じじゃないか。


「そんなに酷いんですか?」

「そのうち、貴方のクラスでもそういう女の子が出てくると思うわ。生理の時は生理痛の他にもイライラしたりボーッとしたり、フラフラすることがあるの。イライラしている時には優しくしてあげて、ボーッとしている時には頭を撫でてあげて、フラフラしている時には手を繋いであげてね」

「わかりました!とっても、優しくします!」


俺が全力で頷くと、先生は拳を握りながら、携帯の次の画面を俺に見せた。


「それがベストよ!それから、胸の発育だけど、これも個人差が激しいものになるわ。大きい子は小学校低学年から膨らんでくるし、小さい子は、小学校六年生になってもぺったんこだったりするの。でも、ぺったんこでも、ちゃんとブラジャーはつけないといけないのよ?」

「はい!」

「最初は、スポーツブラが一般的かしら。ストレッチ素材の布でね、伸び縮みする運動用の胸当てみたいなものなんだけど、これをつけるのは、だいたい胸が少し膨らんだくらいね。小学校四年生から五年生の間には、つけといた方が安全かもしれないわ」

「その、サイズとかはどうやって測ればいいんですか?」

「子どもようのフリーサイズのようなものもあるし、SサイズやМサイズで変えるところもあるわ。中学生になると、本格的なワイヤー入りのブラジャーになるから、そうしたらアンダーとトップを測るんだけど、これは多分お兄ちゃんが測れないでしょうから、お店に連れてって、お店のお姉さんにやってもらうことをオススメするわ」

「お店のお姉さんが選んでくれるんですか?」

「えぇ、その子にあったものを選んでくれるから、不安な時は売り場のお姉さんに聞くのが一番よ」

「それは、いいことを聞きました」

「成長期の時は胸の大きさも変わりやすいわ。だから、こればかりは毎回買う時に測ってもらった方がいいでしょうから、通販はしない方がいいわよ」

「覚えておきます」

「うんうん、さっきからちゃんとノートをとっているあたり、あなたがどれだけ真面目な子なのかがわかるわ」

「先生のお陰でだいぶ女の子の身体のしくみについて理解できました、ありがとうございます!」

「どうしたしまして、妹ちゃんが大きくなっていくにつれて、不安も広がるでしょうけど、何かあったらいつでも保健室に聞きにいらっしゃい。先生が何でも教えてあげる」


先生は胸をドンっと叩いてそう言ってくれた。

俺は、改めて先生に深々とお辞儀をして保健室から出た。


「母のおしえノートの他に、保健室のおしえノートも増えたなぁ」


これが役に立つのはすくなくとも四年後くらいだろうけれど。


でも、その前に、うん。

もしクラスで大変そうな子がいたら、ソッと優しくしてあげようと、俺は心に誓ったのだった。







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