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おやつ抜きは、困ります。


帰り間際。

突然、腕を引かれて校舎裏へと拉致された。

振り返らなくても、体格で誰だかわかってしまう。

この大きな身体は、間違いない。


「おかん……助けてくれ!!」

「どうしたの、まさやん」


隣の席のまさやんだ。

普段はクラスのリーダーのまさやんが、今はとんでもなく情けない顔をしている。


「……母ちゃんがめちゃくちゃ怒ってる」

「何したの?」

「俺が嘘ついたから……」


そう言いながら、まさやんは目をそらした。

何となく、ことの想像はつく。


「どんな嘘?」

「庭の植木鉢割っちゃったんだけど……俺がやったのに、やってない!って言ったら、嘘つく子は知らないって、」

「なるほどね」

「しばらく、おやつも抜きだって」

「そりゃ、一大事だ」

「だろ?」


まさやんは、とても困っていた。

それを見て、俺はどうしたものかと考える。


「お母さんに謝るのが怖い?」

「怖くない」

「じゃあ、何が怖いの?」

「母ちゃん……俺のこと要らなくなったのかも、俺のことなんて知らないって言った」


そんなまさやんの言葉に、俺はやれやれと肩をすくめた。


「馬鹿だなぁ」


そんなはずないのに。


俺は、まさやんの手首を掴んだ。

そして、前へと引っ張る。


「ごめんなさいって、言いに行こう」

「今からか?」

「俺もついていくから」

「でも……」

「泣いたっていいよ。俺の前なら怖くないだろ?俺は誰にも話さないから、大丈夫だよ、まさやん」


まさやんも俺の言葉を信用したのか、素直に俺の後をついてきた。

まさやんのお母さんは、まさやんと一緒で体格がいい。

それに、凄く声も大きい。

だからこそ、あのお母さんに怒られたなら、とても怖いだろう。

だけど、まさやんは怒られることもよりも、知らないと言われたことの方がショックだと言った。

だったら、なおさら素直に謝らないといけない。


「いい?ちゃんと、植木鉢割ったのは、俺です、ごめんなさいって言うんだよ」

「……おう」

「その後、お母さんが何か言う前に、お母さんの腰に抱きついちゃいな」

「えっ、そんな恥ずかしいことできるかよ?!」

「いいから!そうすれば、まさやんが不安に思ってたこと全部解決するから!」

「ほ、ほんとかよ?」


まさやんが疑るような眼で俺を見てくる。

だから、俺は自身満々に言ってやった。


「俺が嘘ついたことある?」

「ない!!」

「よし」


だったら、素直に聞くのだ、まさやんよ。




◇◇◇




「か、帰ってきちまった」

「お母さんはいるんだよね?じゃあ、ピンポンしよう。俺がお母さん呼ぶから」

「ちょ、ちょっと待った、あと5秒!」


まさやんは、俺の後ろで深呼吸を繰り返している。

そんなまさやんを無視して、俺はインターフォンを鳴らした。


「ハーイ」

「こんにちは、まさやんのお母さん!俺です、おかんです!」

「あら、あら!おかん、ひっさしぶりねぇ!まだ、まさや帰ってきてないのよ!今出るからね」


まぁ、そうだろうな。

俺の後ろにいるんだから。

ガタガタ震えているまさやんを余所に、まさやんのお母さんは、すぐに玄関の扉を開けた。


「いらっしゃい、どうした……あらま、まさや、アンタも帰ってきてたの?」

「あ、…ただいま」

「なに、おかんの後ろに隠れちゃって?」


まさやんのお母さんは首を傾げていた。

俺は、おどおどしているまさやんの横腹を肘でつつく。


「がんばれ」

「う、あ……」

「大丈夫、俺がいるから」


その一言で吹っ切れたのか、まさやんは勢いよくお母さんの腰目がけて走りだした。


「母ちゃんごめんなさいっ!俺が植木鉢割りました!!嘘ついてごめんなさい!!」

「あらま、どうしちゃったんだい、こんな素直に謝るだなんて」

「だから、俺のこといらないなんて言わないでぇぇ!!」

「なになに?!いらないなんて言ったことないだろう、馬鹿な子だねぇ!」


まさやんのお母さんは、驚きながらも腰に必死にしがみついているまさやんを思い切り抱きしめた。


「頼まれたって、どっかにやるもんか!アンタはうちの子だろう」

「うっ、うあああああんっ、かあちゃああああん!」


案の定、まさやんは大泣きしている。

そんなまさやんを見守りながら、俺はまさやんのお母さんに目で合図して、その場からソッと離れた。

家族、水入らずってね。


まさやんの家を離れてから、ふと、自分の母さんのことを思い出した。


俺は、母さんに怒られた経験が殆どない。

だからこそ、きっと怒られたら凄くショックだったと思う。

でも、今となっては、少し怒られてみたかったと思うんだから、調子がいいよな。


母のおしえノートに書いてある、仲直りの秘訣。



【 ごめんなさいをいうときは、だきつきながら 】



これは、まさやんを見てても思ったけれど、やっぱり効果は絶大だと思う。

小さい頃から、言われ続けてきたことなので、俺も保育園や小学校で何かやらかしそうになった時は、よくハグでごめんなさいをしていた。

すると、先生や友達も何故だかすぐに許してくれた。

流石に、高学年ともなると、ごめんなさいを言う回数が減ったせいか、ハグすることもなくなったけどね。

この方法は、是非ともさくらにも教えていきたいと俺は思った。



そんなことを考えながら歩いていると、家の前に父さんが立っているのが見えた。


「父さん?」


俺は、急いで父さんの元に駆け寄った。


「なんで?外で待ってたの?」

「かんた!おかえり!」

「仕事、早かったんだね?ごめんね、ごはんすぐ作るよ」

「かんた〜〜〜」


慌てて、家の中へ入ろうとしたところを後ろからヒョイっと抱き上げられた。

流石に小学四年生ともなると重いはずなんだけど……父さんは、よくこうして俺を抱き上げようとする。


「めっ」

「へ?」


予想外のお叱りに、目がキョトンとした。

すると、父さんがわかりやすく頬を膨らませながら、怒ってますアピールをしてくる。


「まず、俺に言うことがあるだろ?」

「え……?」

「帰ったら、なんて言うんだっけ?」

「あ!ただいま?」

「うん!そう!」


俺が、ただいまと言うと、父さんは一瞬にして顔を綻ばせた。


「おかえり、かんた!」


ふわりとした笑顔でそう言われ、俺は思わず苦笑した。


「なんか、父さん嬉しそうだね」

「そりゃそうだ!いつもかんたに、おかえりって言ってもらってたからね!たまには、俺がかんたをおかえりしたかったんだよ!」

「そうなんだ」

「出先から直帰してきたかいがあったなぁ」

「無茶したんじゃないよね?」

「まさか!ちゃんと、仕事してきましたとも!」


えっへん!と自信満々に言う父さんを見て、俺は心があったかくなった。

そのまま、父さんの首に抱きつく。


「ねぇ、父さん」

「何?」

「ごめんなさい」

「へ?かんた何かしたのか?」

「さっき、めっ、って怒られたから」

「え、あ、あぁ、別にほんとに怒ったわけじゃないぞ?」

「わかってるよ……ははっ、でもね、しばらくおやつ抜きになったら困るから」


父さんは俺が何のことを言っているのか理解できず、おろおろしていた。

俺は、かんたのおやつを抜いたりしないぞ、とか必死に言ってくる姿がちょっと可愛い。


結局、仲直りの方法はハグが一番。

これは、俺も自信を持って言えることだった。




◇◇◇




「おかん!!おはよう!!!」

「おはよう、まさやん」


まさやんの眼は少し赤く腫れていた。

だけど、そのことにはあえて突っ込まない。


「昨日は、助かったぜ!」

「どういたしまして、よかったな」

「おう!俺、おかんにも、約束する!もう絶対に嘘はつかない!!」

「うん、いいんじゃない」

「へへっ、ありがとうな!」



まさやんが、いつもの明るい笑顔に戻ったので、一件落着である。








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