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父さんの様子が、おかしいです。



父さんが、ここ最近そわそわしている。


思えば、何となく違和感を感じたのは、父の日からだ。


特に、俺と花屋に行ったあたりからかな。


あの時から、父さんの妙な視線を感じる。



そして、今日、その視線の意味を知った。




◇◇◇




「おかんくん、こんにちは!」

「安永さん!どうしたの?」

「いや、ちょっと気になって会いにきちゃった」

「会いにきちゃったって……、ほんと、神出鬼没だね。ここ、小学校だよ?」

「懐かしいよね~」


そう、学校が終わり、校門の前まで出たところで、安永さんに捕まった。

先生たちが不信な目で見ていたが、俺が説明すると、何とか納得してくれた。


「俺って、そんな不審者に見える?」

「いきなり来て、俺のこと抱き上げて「捕まえた」って叫んでいたら、そりゃあ担任も飛んできますよ」

「こんなに人畜無害な顔しているのに?」

「人畜無害かは知りませんが、少なくとも小学校の前で待っているのは、今後止めた方がいいと思います」


お巡りさんが来たら、洒落にならない。


「捕まるのはごめんだから、その時は、おかんくんがまた説明してね」

「だから、俺口に出してないですよね」

「顔に書いてあったから、つい」

「はぁ……」


相変わらず、読めない人だ。

今日は一体何しに来たんだろう。


俺から聞く前に、安永さんから俺に話してくれた。


「あのさ、最近、大白崎さん、変わったことなかった?」

「父さん?どうしてですか?」

「なんか、変なんだよ」

「会社でも変なんですか、」

「という事は、家でも変なんだね」

「最近、妙に変な視線を感じるんですよ。何か、俺に話したそうなのに、俺から話しかけると、何でもない!って言うし」

「何でもなくは……なさそうってことか」

「でも、何なのか言ってくれなくて」

「それは、困ったね」


俺は、公園のブランコに座った。

安永さんが買ってくれた缶ジュースを飲みながら、ぶらぶらと揺られる。


「実は、大白崎さんにお見合いの話が来てるんだよ」

「お見合いって?」

「あ、そこからか。えっとね……なんて言えばいいんだろう。結婚の紹介みたいな?」

「結婚……?」


安永さんが、お見合いについて、説明してくれる。

けど、俺は意味がわからなくて、ぽかんと口を開けた。

すると、真面目な顔をした安永さんが、俺の前にしゃがんだ。


「俺、おかんくんは子どもじゃないと思ってるから話すよ」

「え、あ、はい」

「今までもね、お見合いの話はあったんだ。でもね、大白崎さん、相手の写真を見る前に断ってたんだよ」

「そうなんですか……?」

「うん、再婚するつもりなんてないです!のお決まりの文句で、どの人がお見合い話を持ってきても、その場で断っていたんだ。それなのに、この間、お見合い写真を受け取ってきたんだよ」

「それって……」

「だから、俺聞いたの。再婚するつもりなんですか?って。そうしたら、そんなつもりはないって言うんだ。でもね、なんで、写真受け取ってきたんだって聞いたら、黙っちゃったの」

「父さん……」

「多分、何か考えてることがあると思うんだけど、ろくでもない考えだと思うんだよね」

「安永さんは、どうして、そのことを俺に……?」


俺がこれで父さんに問い詰めたら、間違いなく安永さんの印象が悪くなる。

それどころか、安永さんに得なんて一つもないのに。


「俺ね、大白崎さんとおかんくんなら、おかんくんの味方だから」

「え、」

「今の大白崎さんが何考えてるのかわからないけど、多分それって、あんまり良くない気がするんだ。それなら、おかんくんとぶつかって一度頭冷やした方がいい結果になるんじゃないかなって」

「安永さんって、もっと他人に興味ない人かと思ってました……」

「それは、正解。他人には興味はないよ。でも、おかんくんとは、ほら、友達だから」

「俺たち、友達だったんですか?」

「酷いなぁ。友達だって思ってるのは、俺だけ?」


安永さんの質問に、首を横に振る。

友達とか、そう言う風に考えたことはなかったけれど、そうなれるのなら、それは嬉しいことだった。


「前に、おかんくんが俺に言ってくれたじゃん。安永さんといると、時間をたくさん感じられるから、なんだか得した気分になれるって。あれね、俺、目から鱗だったの」


そう言えば、ビックリしていたような気がする。

珍しいなと思ったのを、覚えていた。


「あの時さ、ちょっと救われちゃったんだよね。だから、俺は何があっても、おかんくんの味方につこうって決めてるんだ。だから、今回の大白崎さんの行動がちょっと気になってさ」

「父さんも結構俺に対して過保護だと思いますけど、安永さんもいつの間にか俺に対して過保護になってたんですね」

「なんて言うか、守りたくなっちゃうんだよね。綺麗なものって。大事にしたくなるっていうのかなぁ、おかんくんは、まさにそれ。壊れやすいものだからこそ、大事にしないといけないんだよ」

「それは、俺が壊れやすいってことですか?」

「いろんなもの。大事にしてる心とか、気持ちとか、信念とか、全部」


安永さんは、俺に言った。


「大白崎さんに、俺から聞いたって言って話してみなよ。その結果、喧嘩したら、俺がおかんくんの味方になるし、困ったら、俺の携帯に電話しておいで」

「安永さん……でも、そうなったら、父さんと安永さんが喧嘩することになるんじゃ、」

「そんなの日常茶飯事だよ。他の家の家庭事情なんか、絶対死んでも口を挟むことなんてないけど、おかんくんの家は特別」

「特別……なんですか?」

「うん。俺がずっとしあわせでいて欲しい家庭ナンバー1だからね」


安永さんの言葉に、俺は胸をおさえた。


正直、怖い。


父さんにお見合いの話が来ているなんて、今の今まで知らなかった。

父さんは母さんのことしか考えていないような人だったから、再婚なんて、絶対ありえないと思っていたけど。


そんなことは、絶対じゃない。


もし、父さんが「誰か」を連れてきたりしたら、俺はなんて言うんだろう。

反対する?

でも、それが父さんの幸せなんだとしたら?


新しいお母さんができる。


そんなことを受け入れることなんて、できるのだろうか。


俺の母さんは、母さんだけで。

他の人をお母さんと呼ぶことなんてできるのだろうか。


できることなら、いい子でいたい。

だけど、そうなれる自信がなかった。


「安永さん、俺、今日……父さんと話してみる」

「うん、お見合いは今週末だって言ってたから、その方がいいと思う」

「父さんが再婚したいって言ったら、俺……」

「いいかい?おかんくんが嫌だと思ったら、それを素直に伝えるんだ」

「でも、父さんの幸せを望めないなんて、そんな、」


声が震える。

何が正解か、わからなかった。


すると、安永さんが俺の両頬を両手で包みこみながら、言った。


「大白崎さんの幸せは、おかんくんとさくらちゃんが幸せであることだ」

「……っ!!」

「君たちの幸せと、彼の幸せは直結している。それだけは、絶対に揺るがない事実だ。だから、素直に言っていいんだよ。おかんくんが幸せだと思えないなら、そんなの大白崎さんの幸せでもなんでもない」


父さんの幸せは、俺のしあわせでもあるように。

俺のしあわせが父さんの幸せでもある。


その言葉は、今の俺がまさに欲しい言葉だった。


「安永さんって、すごい、なんで俺の欲しい言葉がわかったの……?」

「……俺の親も再婚しているんだ」

「え!」

「その時、俺、我が儘言えないで、OKして、後から死ぬほど後悔した。結局、その人と父さんも上手くいかなくて、また別れたんだけど、あの時、なんで嫌だって言わなかったんだろうって、今でも後悔してる」

「安永さん……」

「おかんくんには、そんな想いして欲しくない。もし、本当にお母さんが欲しいんだったら別だけど、違うんだろう?」


安永さんの言葉に、俺は静かに頷いた。


「なら、素直に言おう?大丈夫、我が儘言ってもいいんだから。だって、あの親バカの大白崎さんだよ?おかんくんの為なら、きっとなんだってする」

「そうかな?」

「そうだよ、あの人にとって、家族は命と一緒なんだから」


その言葉に、勇気をもらった。

まだ、不安はあるけれど。


俺は、安永さんの首にギュッと抱きついて言った。


「ありがとう、俺、言ってくるね」

「頑張れ、おかんくん」

「父さんと言い合いになるようだったら、今日さくら、加奈子さん家に泊まらせた方がいいかな?」

「加奈子さん?」

「近所に住んでいる、母さんの親戚のお姉さん。たまに、さくらも俺も泊まりに行ったりしてるんだ。明日は、土曜日で学校もないし、その方が、父さんとちゃんと話せるかなって」

「さくらちゃんがいると、万が一聞かれた時怖い?」

「……さくら、頭いいんだ。父さんに似て、言葉を理解するのもはやかった。だから、多分、俺たちが話していることも、何となく、わかっちゃう気がするんだ」

「そっか、なら、今日だけお泊りに行かせた方がいいかもね」

「うん、今から、連絡して、そうさせてもらう」

「一人で大丈夫?」

「大丈夫、もし何かあったら、真っ先に電話するよ」

「そうして。俺にも、話した責任がある」

「話してくれてありがとう……多分、安永さんに聞く前に、父さんからこの話をさせられてたら、俺、心臓止まっちゃってたかも」


冗談じゃなくて。

多分、そのくらい、ショックだったと思う。


だから。


「真正面から、ぶつかってくるよ」


俺が、前を見据えてそう言うと、安永さんが、しっかりと頷いてくれた。


震える手を、抑え込んで。

俺は、父さんの帰りを待った。






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