ピクニックの後は、スタンプラリーです。
「お!おかんくん!」
「あら、さくらちゃん!」
「大白崎の旦那、珍しいなぁ!」
商店街に着くと、あっちやこっちから声をかけられた。
ちょっとした、有名人みたいだ。
スタンプラリーに参加するんだと言うと、たくさんの人が頑張れ!と応援してくれる。
あたたかい街に、心がほっこりした。
商店街のスタンプを一つずつ、押していく。
そうして、約1時間くらい回った頃。
スタンプラリーの最終地点に辿り着いた。
「スタンプラリーの最後って、ここだったのか」
「かんた、知ってるのか?」
「友達の家だよ」
「え!そうなのか!」
おそらく、ここは、川崎 薺の家だろう。
「フラワーショップ かわさき」と書いてある。
店先にある、スタンプを押して、中へと入った。
「ごめんくださーい、」
「はーい、あらあら、スタンプラリー?」
「あ、そうです。薺くん、いますか?」
「あら、ぺんぺんのお友達?」
「ぺっ、」
そうだった。
薺は家で「ぺんぺん」と呼ばれていることをすっかり忘れていた。
思わず、噴き出しそうになる。
奥から出てきた、ぺんぺんこと、薺のお母さんは凄く若くて綺麗な人だった。
まさに、花屋の奥さんって感じだ。
「ぺんぺーん、お友達よ~!」
と呼ぶ声に、どたどたと階段を駆け下りる音が聞こえてくる。
「だから、友達の前でぺんぺんって呼ぶなってば!」
「あら、可愛いのに」
「母さん!!」
「それよりも、お友達あそこにいるわよ?」
「友達って誰……なんだ、おかんか」
なんだ、とは、なんだ。
俺だと認識した瞬間に、薺が大人しくなった。
まぁ、俺、薺のあだ名知ってたからね。
「何しにきたんだ?」
「スタンプラリーの最終地点がここだったから」
「あぁ、それか!じゃあ、もしかして、そっちにいるのは、」
「俺の父さんと妹」
「こんにちは、川崎薺です」
「あ、こんにちは、かんたの父です」
「妹のさくらです!!」
お辞儀をし合う姿を見て、ニコニコしていると、奥にいた薺のお母さんが飛びつくようにして、俺を抱きしめてきた。
「あなたがおかんくんだったのね!!!」
「え、なに!なに!」
「はぁ、母さん……おかんが困ってる」
「もう!母さん一度、あなたに御礼が言いたかったの!!会えて、嬉しいわ!!」
薺のお母さんに、頭やら顔やら撫でられて少し照れる。
いつもよりも大人しくしていると、薺のお母さんは言った。
「薺がね、頭撫でても怒らなくなったの。あなたのお陰なんでしょう?」
「あ、それは……」
「すっごく嬉しかったの!ありがとう、おかんくん!」
ストレートに抱きしめられ、御礼を言われ、俺はどぎまぎしながら、顔を押さえた。
流石に同級生の前だし、家族の前だし、どんな顔をすればいいかわからない。
だけど、嬉しくないわけじゃなかった。
「あ!そうだ、スタンプラリーの景品よね!」
薺のお母さんは、小さな小瓶を俺に渡した。
「本当は、ジュースとお菓子とお花を配るんだけど、おかんくんたちには、それもあげるわ!」
「え、これは?」
「中に花の種が入っているの!色々な花の種よ!よければ、お家で育ててね」
「ありがとうございます……!」
さくらは、ジュースとお菓子を選んで、喜んでいた。
父さんも、薺のお母さんに頭を下げながら、御礼を言っている。
その時、何となく父さんの様子がおかしいと思ったのは、俺の気のせいだったのだろうか。
少し、心に引っ掛かりながらも、俺たちは家へと帰宅した。
◇◇◇
「はぁー、たくさん遊んだな!」
「夜ご飯の前に、少し面白いこと思いついたから、やってみてもいい?」
「ん?いいぞ、かんた!何をするんだ?」
俺は、家にあるコップや花瓶に水を少しずつ入れていった。
そこに、種を一つずつ入れていく。
種の入った花瓶たちを、家のいろんなところに飾った。
「さくらと父さんは、そこのソファーに座ってて」
「はーい」
「これでいいのか?」
「うん、じゃあ、ちょっと電気を消すね」
俺は電気を消して、小さなキャンドルに火をつけていった。
優しい灯りが部屋を包む。
「なんだ、何をするんだ?」
「ママにい?」
俺は、この日。
ずっと、頭に浮かんでいた、ある曲を歌った。
それは、母さんに教えてもらった、あの歌じゃない。
俺が、考えた曲だ。
作曲のやり方なんて知らない。
作詞なんてしたことない。
ただ、頭に浮かんだ歌を歌うだけ。
俺の言葉と、俺のメロディー。
「――――」
【 うたをうたうときは、あいにこえをのせる 】
それが、母さんからのおしえだった。
もし、それができたなら、あの歌でなくても。
花が咲くと。
今までは、できなかったけど。
何となく、そのやり方がわかった気がする。
一音一音、気持ちを込めて歌う。
すると、花瓶の中の種が、成長しはじめた。
歌に合わせて、芽が伸びていく。
「これは……、」
「ママにい、綺麗……!」
歌が楽しい、歌が好き。
今日、俺は、それを改めて知った。
俺の中の特別な思い。
それは家族にあてたもの。
家族がいれば、俺はこの歌を歌い続けることができる。
だから、ずっと、傍にいて欲しい。
大事な、
大事な、俺の家族。
歌が歌い終わると、部屋の至るところに置いた花瓶から花が咲いていた。
息を整えて、父さんとさくらのいるソファーへと近づく。
幻想的な光景に、父さんとさくらは思わず拍手をしてくれた。
「……父さん、どうだった?」
「へ?」
「一応、父の日だから……今の歌、父さんへのプレゼント、のつもりだったんだけど?」
「ええ!!そうなのか?!え!嘘!!もっと早く言ってくれれば、この間買ったハイビジョンカメラ用意したのに……っ!!」
うん。先に言わなくてよかった。
俺が頬を掻いていると、父さんが俺の手を引っ張った。
「凄く、いい歌だった、かんたが作ったのか?」
「うん……作曲の仕方とか知らないけど、今日一日で思い浮かんでた歌を、声に出してみたんだ」
初めてのことだから、上手くできたか心配だった。
だけど、俺のその不安は、父さんのキラキラした眼差しによって吹き飛んだ。
「凄いな、かんたは、やっぱり凄い…っ!」
さくらと俺を膝の上に乗せて、父さんがぎゅーっと抱きしめてきた。
さくらが、嬉しそうに笑っている。
「また、聞かせてくれるか?」
「録画しないならね」
俺がそう言うと、父さんは勿体なさそうな顔をしていた。
だけど、すぐに笑って、俺たちを抱きしめた。
その日は、三人でご飯を食べて、お風呂に入って、リビングに布団を敷いて寝た。
まるで、旅館に泊まりに来たみたいで、そわそわした。
たくさんの花に囲まれながら、
改めて、家族の大切さを知った一日だった。
だけど、この時の俺は知らなかった。
この幸せな時間が、
簡単に、無くなってしまうということを。




