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父の日なので、ピクニックです。



プレゼントを選ぶ時、みんなはどうしているんだろう。


自分が好きなものをプレゼントする人。

相手が欲しがっているものをプレゼントする人。

相手に必要だと思うものをプレゼントする人。

話題のオシャレなアイテムをプレゼントする人。

手作りのものをプレゼントする人。


様々だと思う。


かく言う、俺は、父の日のプレゼントに悩んでいた。


ネクタイや、ハンカチをプレゼントすることはできても、結局は、父さんのお金だし。

安永さんに、父さんが欲しがっていそうなものはありそうかと聞いてみたところ、「(家族と過ごすための)有給じゃない?」と返ってきた。


それは、俺には、どうすることもできない。


少し、豪華な夜ごはんをさくらと作って、夜は肩たたきとか、マッサージでもしようか。

父の日は、日曜日だから仕事もない。

父さんさえ、よければ少し出かけるのもありかもしれない。


なんにせよ、その日は、父さんが喜ぶことをたくさんしてあげよう。

そして、日ごろの感謝をさくらと伝えなければ。


そう考えている内に、あっという間に父の日、当日となった。




◇◇◇




「パパ、起きてー!!」

「ふぐっ!!」


寝ている父さんに飛び乗って起こすさくらを見て、俺は静かに合掌した。

父さんは、案の状、泡を吹いている。


「っいてて、おはよう、さくら」

「おはよう!パパ!今日は、パパの日よ!」

「ん?あ、父の日ってことか?」

「そうよ!!パパだいすき!いつもありがとう!!」

「さくらっ……!!」


さくらの熱い、朝のラブコールによって、父さんは飛び起きてさくらを抱っこした。

両手で高い高いしながら、くるくると部屋を回っている。

朝から、二人とも上機嫌だ。


「朝ご飯できてるよ」

「かんた!」

「父さん、おはよう。父の日ありがとう」


俺が御礼を言うと、父さんはあろうことか、さくらを抱っこしたまま、手を広げてきた。


えっと、これは、飛び込めってことかな?

目がキラキラしているってことは、おそらくそうなんだろう。


とことこと歩いて、その腕の中におさまると、あろうことか父さんは、そのままベッドの上に再び倒れ込んだ。

俺とさくらを巻き込んだまま、ごろごろとベッドに寝転ぶ。

まるで、犬がじゃれ合っているみたいだった。


「さくらー!かんたー!俺のこどもたちーー!!」

「パパっ、もう一回!」

「二人とも、朝ごはん!」

「「はーい!」」


まるで、小さな子どもが二人いるようだった。

そのまま、朝食を食べて、皿洗いと洗濯物を終わらせる。

その間、さくらと父さんは、二人で今日行く場所を決めていた。


「かんた!!今日は、商店街に行こう!!」

「商店街?買い物でもあるの?」

「スタンプラリーをやっているらしい!集めると、景品がもらえるんだって!」

「ママにい、やろう!!」

「そっか、父の日のイベントでやってるって、そう言えば、仁美さんたちも言ってたな」

「仁美さんって?」

「肉屋の奥さん」

「かんたがいつもお世話になってる人か!挨拶しなくちゃな!」

「いや、スーツはいいから。とりあえず、今日は普段着で行こう。休日なんだから、ね?」


と言うか、スーツで商店街って。

休日なんだから、本当は休んで欲しいところだけど、父さんが一番張り切っていて楽しそうだから、何も言うまい。


「じゃあ、商店街に行って、ついでに、お昼ご飯どこかで食べようか」

「食べるー!!」

「父さんとさくらは、何食べたい?」

「ママにいのごはん!!」

「かんたのごはん!!」

「!!」


俺は、思わず目をぱちくりさせた。

キラキラとした目で、父さんとさくらが見てくる。

二人とも、顔がそっくりだ。


「あー……オッケー。ならお弁当作って、公園でピクニックでもしようか」

「「やったーーー!!!」」


予想外の回答だったけれど、案外嬉しいもんだ。

今日は天気もいいし、ピクニック決定です。


というわけで、俺は今からお弁当に取りかかります。


「お弁当作ってる間、暇だろうから、昨日録画した映画でも見てて」

「何か手伝おうか?」

「いくら父の日でも、父さんは台所立ち入り禁止だから」

「しょんぼり」


こればかりは、許可できない。

でも、気持ちだけは、受け取っておくよ。


俺は、なるべく早く作り上げたかったので、簡単なメニューのお弁当にした。

サンドイッチに、卵焼き。

ウィンナーと、プチトマトの串焼きに、アスパラガスのベーコン巻き。

豚肉と玉ねぎとジャガイモの炒め物と、コーンのバター焼き。


うん、これくらいで十分だろう。

というか、若干作り過ぎた感はある。


普段、三人別々のお弁当を作ることはあっても、三人一緒のお弁当を作ったことはなかった。


「余ったら、冷凍するか」


考え方が、すっかり主婦になりつつある。


バスケットにお弁当を詰めて、レジャーシートと水筒を持って、いざ公園へと向かった。



◇◇◇



「わーー!おっきーーー!!」

「バトミントン持ってきたから、食後にやろうか」

「ママにいとパパ、どっちが勝つかな!」

「うーん、多分パパだと思うよ」


父さんは、何気に運動神経もいい。

足も速いし、体力もある。


俺は、だいたいが平均ぐらいだ。

さくらといい、父さんといい、割と天才肌の人間が近くにいると、自分がいかに普通なのかを思い知らされる。


「俺って、平凡だなぁ」


そんなことをボソリと呟くと、近くにいた父さんが変な顔で覗き込んできた。


「何言ってるんだ、かんた?」

「わっ、びっくりした!いきなり現れないでよ、もう」

「平凡って、かんたのことか?」

「え、あぁ、なんか、さくらも父さんも運動とか勉強とか、凄く出来るじゃん?だから、それに比べると、俺って平凡だなぁって、思ってただけ」

「かんたは、頭がいいのに、たまに変なことを言うよな」

「変?」

「平凡って、その他大勢と同じって意味のことを言うんだぞ?かんたみたいな子が他にいるか?」

「割と、どこにでもいそうだけど……」

「うーん、かんたは、もう少し自己分析をした方が良いと思う」

「自己分析?」


自己分析ってなんだろう。

自分を分析するってこと?

どうやって?


「平凡とか普通って言葉、父さんは嫌いじゃないけど、かんたが使っている意味とはちょっと違うな」

「そうなの?」

「かんたは、俺とさくらが何でもできるから、自分はできない普通の人間だって思っているんだろう?」

「うん」

「俺は、かんたみたいに、こんなに美味しい料理は作れない」

「え、」

「かんたみたいに、家事も上手くできないし、さくらをあやすのも、かんたの方が上手い。俺よりもしっかりしてるし、周りからの信頼も厚い」

「なに、急に、褒め大会?」

「違うよ、事実だ。だから、かんたが自分で自分を何もない人間みたいに思うことだけはやめてほしい。俺にとっては、誰より価値のある宝物だし、愛しくて大事な大事な息子なんだ。たとえ、かんたでも、俺の息子を悪く言うような真似は許せない」


父さんの真剣な目に、俺は驚かされた。

多分、父さんは本当にそう思っているんだろう。

これが、俺だったから、よかったけれど……本当に、俺が誰かに悪く言われるようなことがあったら、父さんはどうなってしまうのか。

考えただけでも、怖ろしい。


「はは、」

「かんた?」

「いや、俺、父さんに愛されてるんだなぁって」

「そりゃそうだ!!かんたもさくらも、父さんの世界一だ!!」

「知ってるよ」


俺にとっての世界一も家族なんだから。

親バカ、子バカは、多分一生治らない。

だけど、それって、凄く幸せなことだと思った。


「さぁ、食べよう」

「さくらー、戻っておいで」

「はーい」


三人揃って、ピクニック。

昼下がりの公園で、仲良くお弁当を食べる。

たまにすれ違う人たちからは、微笑ましい目で見られた。



だけど、ある囁き声で、俺はピクリと身体を強張らせた。




「ねぇ、あそこの家族見て、お母さんの姿が見えないけど」

「やだ、知らないの?あそこの家庭、お母さんはだいぶ前に死んでしまったのよ」

「え、じゃあ、お父さん一人で?可哀想ねぇ」

「再婚なんて、子供がいたら、早々できないでしょうしねぇ。あのお弁当とかは、息子さんが作ってるらしいわ。お母さんの代わりなんて、辛いでしょうに」

「でも、仕方ないわよねぇ」

「妹さんも、まだあんなに小さいのに。寂しいでしょうね」

「可哀想な家庭ねぇ、ほんと」



「――……っ」


俺は、辛くなんてない。

家族に、ご飯が作れることが嬉しい。

外で遊べなくてもいい。

さくらと父さんが喜んでくれるなら、俺はそれが一番幸せだから。

仕方なくやってるわけじゃない。


さくらは、確かに寂しがる時もあったけど。

最近では、あまり泣かなくなった。

俺と父さんがいるから。

さくらも、少しずつだけど、変わっていってるんだ。


だけど。


父さんは、可哀想なの……?

俺とさくらの面倒を一人で見ないといけないから。

世間から見れば、父さんは可哀想な人なの?


父さんが世間からどう思われてるかなんて。

考えたことなかった。


俺は……。







俺が不安に思って、唇を噛み締めた時。

父さんの箸が、バキッと折れた。


「かんた、さくらのこと、ちょっと見ててくれるか?」

「え、父さん……?」

「父さん、ちょっと、お散歩してくる」

「へ、待って、どこに……っ!」


その時、父さんが立ち上がって、噂をしているおばちゃんの元まで行ってしまった。

俺も追いかけようかと思ったけど、ここにさくらを一人ぼっちで置いていくわけにもいかない。


おろおろと不安になりながら、さくらの耳を塞ごうとした、その時。


父さんのハッキリとした声が、公園に響いた。



「お話のところ申し訳ありませんが、俺たち家族のことが聞こえてしまったので」

「え!あら、あら!」

「いや、私たちは別に、そんな」

「俺は、さくらとかんたがいて、これ以上ないくらいに幸せです。自分が可哀想な人間だとは微塵も思っていません」



「――……っ」



父さんの言葉に、噂話が大好きなおばちゃんたちが、罰が悪そうな顔で下を向いた。


「さくらに寂しい思いをさせているのは事実です。かんたにご飯を作ってもらっているのも事実です。だけど、あの子たちを不幸にさせるような育て方は、絶対にしていません。これから先、寂しい思いをさせたなら、俺が何度でも抱きしめます。辛いと思わせてしまったら、俺が何度でも幸せを教えます。まだまだ、成長途中の我が家ですが、決して、不幸で可哀想な家族ではありません。それだけは、ご理解いただきたい」


おばちゃんたちは、そそくさと頭を下げて、その場から逃げ去るようにして行ってしまった。

俺は、戻ってきた父さんの顔を見て、心が痛くなった。


「父さん、」

「はは、ごめんな、黙っていられなくて」

「ううん、ありがとう……ホッとした」

「かんた、さくら……よし!仕切り直しだ!かんたのご飯食べ終わったら、いっぱい遊んで、スタンプラリーしような!!」

「うん!!」


さくらが元気よく頷いたので、一気に場が明るくなった。

家族がいて、よかった――その気持ちが溢れてくる。


俺たちは、不幸でも、可哀想でもない。



その言葉が真実だった。






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